第31話 ゴブリンガールは人質を取られる!
ここは地下遺跡『ダ・ゴ・ダロン』ダンジョンの最下層フロア。
ゴーレムに苦戦を強いられるアタイたち。
スージーの加勢は心強いとしても、それで攻勢が覆ったとは言えない。
「やあっ!」
スージーは数発の矢を放つが、ゴーレムの岩の体にすべて弾かれてしまう。
「なんて防御力。ゴリ押しは効かないみたいね。どこかに弱点があるはずだけど……」
「俺も探しちゃいるが見つからないんだ」
自動プログラムで動くタイプのゴーレムなら行動を制御するためのメダルが体のどこかに埋め込まれているはずだ。
「どうやらこのゴーレムはそのメダルがくり抜かれているらしい」
「はあ? ならこいつはどうして動いてんのさ!」
「考えられる理由はひとつだけよ。何者かがリアルタイムで遠隔操作しているの……」
「そんなバカな!」
だってこの遺跡は何百年も前に砂漠の下に沈んでんだよ!?
ゴーレムはアタイらのお喋りをかき消すように地砕き攻撃を繰り出した。
それは一直線にスージーへと向かう。
「危ない!」
間一髪でヒューゴの盾がスージーの体を守った。
爆風と砂埃の中で二人の体はピタリと密着している。
「あ、ありがとう。助かったわ」
「あっ……。いや別にこれはアノ……! 当然のことをしたまでで、下心がどうとかそういうんじゃ……」
すぐ鼻先にスージーの顔があることに気付き、途端にしどろもどろになるヒューゴ。
なんなんだいこの男は!
いつもの饒舌ぶりが見る影もないじゃないのさ!
恋に臆病な繊細モジモジ野郎かよ!
ゴーレムは唸り声を上げてなおもアタイたちに迫る。
「くうっ!」
スージーは連続で矢を放つが次から次に弾かれてしまう。
せいぜい足止めくらいしか効果がないようだ。
矢もいたずらに消費されて残り本数が少なくなってきた。
「こうなりゃ四の五の言ってられねえ! おい君、その矢を俺に向けて撃ってくれ!」
「ええ!? どうしてあなたに?」
「考えがある!」
スージーは言われるままに長弓を構え直し、ヒューゴに向けて弦を引く。
だが動揺を隠せなかった。
「……出会ったばかりのあなたをそう簡単に信頼できると思う!?」
「それでも信じてくれ。必ず活路を開く」
スージーの頬にたらりと汗が流れたが、次の瞬間にはヒューゴに向けて高速の矢を放った。
矢は斜に構えられたヒューゴの盾に直撃し、まばゆいスパークが辺りを照らす。
そのとき盾と矢の間に特別な発光が生まれたようだった。
正確には盾から発した光が矢へと移り変わったようなのだ。
弾かれた矢は直角に軌道を変え、そのまま先にいるゴーレムへ向かって飛んでいく。
ドゴオッ!
ゴーレムは腹で矢を受けたが勢いを止められず、巨体が吹き飛ばされて背後の石壁に叩きつけられた。
さらにその石壁を突き破って闇の中に消えてしまった。
「すごい。私の矢の威力が……。あなた、一体何をやったの!?」
「弾いただけだぜ」
ヒューゴはふうと息を吐いて汗を拭う。
だがスージーの視線が自分に向いていることに気付くと、慌てて決めポーズらしきものを取ってドヤ顔を見せた。
「……ゴーレムは弱点を破壊しない限り死ぬことはない。俺は時間を稼いだだけだ」
「そうね。今のうちに上層へ走りましょう。さっきも言ったけどもう本震まで時間がないの」
アタイらは慌てて来た道を引き返し始めた。
スージーの言う通り、ゴーレムの地響きに上書きされて気付かなかったが、短い余震が断続的に遺跡全体を揺らしているみたいだった。
「スージー。あんたは2期調査団だろ? ここへ潜ってどのくらい経ったんだい?」
「ほぼ丸一日が過ぎたわ。入り口が閉じるまであと1時間もないのよ」
想像以上に切迫してるね!
ゴーレムとの戦いが長引いたせいでこのザマだよ!
「申し遅れたけど、私の名前はスージー。よろしくね」
「ア……。お、俺はヒューゴってんだ」
「盾使いなのね。あなたのレベルは?」
「いちおう、このクエストの推奨レベルよりは上……」
「あら、じゃあ私の先輩勇者なのね! さっきの戦いぶりすごかったです! 一緒に戦えて光栄です、先輩」
「せ、先輩……! いやあ……!」
ヒューゴは湯気が立ちそうなほど顔を真っ赤に染めている。
わかりやすすぎて見てらんないよ!
「スージー。お節介なあんたのことだから、どうせ途中から逃げ遅れた参加者がいないか見回ってたんだろう?」
「その通りよ。おかげであなたたちを見つけ出すことができたわ」
「しかし、あんたがレイドクエストを受注するなんて意外だね。お宝目当てで参加したとも思えないけど」
「そうなのよ。実は少し前にこのクエストに『ハイベンジャーズ』が紛れ込もうとしてるってウワサを聞いてね。彼らの悪事を止めるために急いで駆け付けたの。残念だけどすでに何人か犠牲者が出てるわ」
「なんてこったンだわ」
どうやらヒューゴの読みは正しかったようだね。
どうかこれ以上厄介事が起きない内に遺跡の外へたどり着きたいもんだよ。
……なんて儚い願いが天に聞き入れられることはなかった。
「俺たちの悪事を止めるだってぇ?」
図ったように通路の前方に数人の男たちが現れたのだ。
「あなたたち……! たしか2期団のメンバーにいたわね」
「そうさ。そして俺たちこそが勇者狩りギルド『ハイベンジャーズ』の構成員だぜ!」
男たちは剣やら槍やらハンマーやら、それぞれが物騒な武器を構えてジリジリとアタイらとの間合いを詰めてくる。
「弓使いのスージー、お前の手の内は全部把握してるぜ。それとそっちの兄ちゃんは盾使いのヒューゴだったな?」
「ヘンだな。お前らの共謀者は倒したはずだぞ。なぜ俺の情報を知ってる?」
1期団に紛れ込んで参加者の情報を収集してたメガネスパイは前々々回くらいに倒しといたはずだ。
それでもヒューゴのステータスが洩れてるってことは、他の誰かによるリークがあったってことかい?
だとしたらそれは一体――――
「あっしでやんすよ!」
男たちの後ろに隠れていたヤンフェが姿を見せる。
「お前かよ!」
ヤンフェは隣のジョニーの首元に剣を突き付け、人質を取るような体勢でニタリと笑う。
「ゴブ子、すまねえ……!」
「ジョニー!」
「おっと、下手に動くとこいつの頭蓋と脊椎が分離することになるでやんすよ?」
「このクソエルフめ! 情報と引き換えにギルドメンバーに取り入りやがったね!」
「裏切り者なンだわ!」
「寝返るぅ? へへへ。あっしらは目的が同じだっただけで初めから味方でもなんでもないでやんすよぉ?」
どこまで根が腐ってんだいこいつは!
いつかやらかすと思ってたが、その時がこんなに早く来るとはね!
「ほらほら! さっさと回収したお宝アイテムをこっちに引き渡すでやんす! モタモタしてると遺跡に取り残されて3年間の地底暮らしが確定でやんすよ! うえっへへ!」
絶体絶命に次ぐ絶体絶命!
この状況を覆す方法はあるのかい!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
どうも~! マ〇オですぅ~!
ん゛ん゛~!
実は最近悩みがありましてぇ~。
お気づきかもしれませんが、この予告枠どうしようか迷走中ですぅ~!
ん゛ん゛~!w
【第32話 ゴブリンガールは勇者狩りに遭う!】
ぜってぇ見てくれよな!




