第29話 ゴブリンガールはトラップに掛かる!
「メインクエストを進めてレベルを上げ、魔王を倒す。それだけがRPGの楽しみ方か? 違うな。冒険の中で何に重きを置くかは勇者ごとで百人百様だ」
街に一軒家を購入して農作業や牧畜といった生活コンテンツを極めるも良し。
世界中の希少な環境生物を発見してコレクター図鑑を埋めるも良し。
やり込み要素やトロフィーの獲得に命を懸ける勇者だっている。
そういや以前出会ったスージーとかいう女勇者は、自分のクエストそっちのけで困窮者の救済活動に駆け回ってたしね。
ボランティア精神なんざアタイにはまったく理解できない行動原理だけど。
「それで、トレジャーハンターのあんたは何を求めて勇者なんぞになったんだい?」
「俺にはどうしても手に入れたい伝説装備があるんだ。その名も『ハルガニア黄金甲冑』! 相当レアな一品で現存する完成品は存在しないと言われてる」
「現存しないのにどうやって手に入れるんだ?」
「そこら中を探し回って設計図を見つけ出したんだ。それに記されてる素材をすべて収集すれば『クラフト制作』することができる。だがその素材ってのがどれも一級の希少アイテムでな」
「なるほどぉ。その素材のひとつがこのダンジョン内にあるってことでやんすね」
「お察しの通り。ウワサじゃ最下層にいる守衛モンスターがドロップすると言われてる。なんとかしてお目にかかりたいもんだぜ」
「ちなみにその『ハルガニア黄金甲冑』ってのはどんな防具なんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!」
ヒューゴはウキウキでなにやら分厚い雑誌を取り出す。
表紙には【決定版! イケてる勇者の防具カタログ】という文字。
……こいつ、マジか?
ヒューゴは開いたページをアタイたちに突き付けた。
ドヤ顔のモデルがゴテゴテにかさばったダンゴムシみたいな鎧を着こみ、ピースサインを決めている。
鎧は悪趣味な黄金色で、安っぽいメッキ面がくどいほど光を反射している。
ダ、ダサイ……!
「イケてるだろ!?」
「……あんた、マジか?」
どうやらヒューゴは中二の感性を持ったまま大人になった可哀想な奴らしい。
「しかもこれ機能性全然ないンだわ。防御力はレベル20相当だし付属スキルも微妙なのばっかりなンだわ」
「どうしてこんなのが伝説装備なんでやんすか?」
「愚問だな。見た目がカッコイイからに決まってんだろ!」
呆れるね。
これで本当に防御特化型の闘勇士かよ。
「真の勇者ってのは武器や防具に頼らねえ! 自らの技量で足りない分を補っちまうもんなのさ! 俺は実用性なんかよりもロマンを追求するね!」
はいはい。勝手にやっててほしい。
「……ところで本題だけどよ。いろんな勇者がいてもいいってのは分かったが、『勇者狩り』が生業の勇者ってのは一体どういうことなんだ?」
「ああ。『ハイベンジャーズ』……。簡単に言えば奴らは勇者でいることを諦めた堕落者集団ってとこだ」
ヒューゴ曰く、実は勇者が熱い志を保ち続けるってのは意外と大変なことらしい。
「ポンポンレベルが上がってく序盤は楽しくて仕方ないが、やがてつまずく時が必ず来る。スキル管理をミスったまま成長すれば上級クエストで手も足も出ないままゲームオーバー、なんてのはザラだ。かといって一からスキルを振り直して地道に修行を積むってのも難儀だしな」
しかし生活するには金がいる。
それで低レベルクエストを周回する内に時間だけが過ぎていき、やがて生きがいを見失うという堕落勇者は結構な数がいるそうだ。
「なんだか悲惨な話なンだわ……」
「そういう輩が効率的に小金を稼ぐ方法はいくつかある。そのひとつが他の冒険者を襲って金や装備を奪うって手段だ。場合によっちゃその冒険者に成りすまして解決済みのクエスト報酬をせしめるって立ち回りもできるしな」
「まさか勇者の肩書きを持つ奴に襲われるとは夢にも思わないからな。油断したところをやられるワケか」
「そういう連中が寄り集まってできたギルドが『ハイベンジャーズ』……」
「俺にとってみればただの烏合の衆だけどな。まあ用心するに越したことはないさ」
ふうん、勉強になったねえ。
勇者たちの世界ってのも煌びやかなだけじゃないらしい。
感心して頷いていると、後ろから悪だくみ顔のヤンフェが小声で話しかけてきた。
「へへへ……。『勇者狩り』なんて、面白い商売があったもんでやんす。どうです? このダンジョンを無事に脱した後はあっしらもそのギルドを訪問して加入させてもらいやしょうや」
「なに言ってんだよ」
「バカ真面目にクエストこなすよりよっぽど儲けられるでやんすよ。ドンフーの旦那の無茶な命令で身を危険にさらすこともない。名案だと思いやすがねぇ?」
たしかに良いアイデアではあるが、そんなことより今はただただこいつのニヤけ顔が不快だ。
ただでさえ狭苦しい石廊下の中だってのにアタイに近づいてんじゃないよ、このクソ太郎が!
――――そのとき、意図せずアタイの足が何かに引っかかった。
どうやら地面から不自然に盛り上がっていたレンガにつまづいたらしい。
ガコッと不自然に大きな音がして、次にゴゴゴと地鳴りが続く。
「な、なんだ……?」
「マズい、トラップだ! 退け!」
次の瞬間にはアタイらの足元の石畳が左右に開き、暗い落とし穴へと変貌した!
とっさの判断で飛び退けられたのはヒューゴのみ。
他の4人は身動きを取る間すらなかった。
ジョニーとヤンフェは少し後ろにいたので助かったが、アタイとスラモンはトラップ範囲のど真ん中にいたせいでそのまま真っ逆さまに下へと落ちてしまった。
「いやああああ!」
「うわあああああンだわぁ!」
急勾配の坂をジェットコースターよろしく滑りきって、行き着いたのは一層薄暗い怪しげな空間。
腰を打ち付けたアタイとスラモンは痛さに悶えながらも声を張り上げた。
「おおーい!」
……上からの返事はない。
「ヤバいンだわ。俺たちだけではぐれたんじゃまず間違いなく生き残れないンだわ」
「んなこと改めて言われなくてもわかってんだよ!」
スラモンはゲジ眉をハの字にして今にも泣き出しそうだ。
ええい、根性なしめ!
心細さで泣き出したいのはアタイだって同じなんだよ!
そのとき、穴の上から何かの物音がした。
ややあってひとつの人影がアタイたちの通ったのと同じ穴を滑り落ちてくる。
ヒューゴだ!
「ヒューゴ! 来てくれたんだね!」
「よう、生きてたな。お手柄だぜ。この落とし穴はトラップと見せかけて一気にダンジョンの下層へスキップするための近道になってるようだ。よく見つけてくれた」
「近道といっても、下層ほどヤバい敵が出てくんだろ?」
「そうだな。ジョニーとヤンフェは上で待ってるように伝えといた。ここから先は俺たちだけで進むぞ」
「心強いよ。アタイらを助けに来てくれるなんてね……!」
この熱血中二ファッションセンス皆無男、ダサいけど良いとこあるじゃないのさ!
と思った矢先、
「勘違いすんな。俺はお宝に近づけるから下りて来ただけだぜ。この先はモンスターもトラップもレベルがグンと上がる。お前らにとっちゃ俺と進むも残るも地獄。どっちか好きな方を選びな」
チッ!
不覚にもさっき抱いちまった感謝の念は撤回するよ!
悔しいが今はこいつの後についていくとしよう。
でもお宝はドサクサに紛れてアタイがかっさらってやるんだから!
覚悟しときなクソ勇者!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
どうも~! マ〇オですぅ~!
アナゴくんがやたらと銭湯に誘うもんで、会社帰りに寄っていったんですよ~!
いやぁ~! 良い風呂でした~!
たまにはいいもんですねぇ~!
と思っていたら、その銭湯は有名なハッテン場だったようで……。
心なしかアナゴくんの眼差しが色っぽいんで焦りましたよぉ~!
狭いサウナに男二人、何も起きないはずもなく……。
さて次回は!
【あくしろよ】
【はっきりわかんだね】
【いいゾ~これ】
の3本ですぅ!
ジャン・ケン・アッー!




