第28話 ゴブリンガールはスキル管理を学ぶ!
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
ダンジョンを進むにつれてアタイらに襲い掛かるトラップの数も増していき、無我夢中で走り回ってる内に調査団の面々は散り散りになっていた。
この場にいるのはアタイ、ジョニー、ヤンフェ、スラモンと丸盾のヒューゴ、そしてパッとしないメガネのモブ勇者の計6人。
ダラダラと石造りの通路を歩きながら、さっきからヒューゴの奴は止まらずに喋り続けている。
「ミミックにバクンと飲み込まれたあの大男な。ありゃあダメだ」
ヒューゴは前回で退場したガミウシという勇者のことがよほど気に喰わなかったらしい。
「あれだけ恵まれた体格なんだぜ? 闘勇士になればそれなりの強者になったろうに。最近は見栄えが良いって理由だけで安易に魔勇士を選ぶ勇者の多いこと。そういう奴らは例外なく術を使いこなせてねえ。まったく嘆かわしいもんだぜ!」
勇者が就くことのできるジョブは物理特化の闘勇士と魔法特化の魔勇士の2つに大別される。
ヒューゴ曰く、闘勇士の習得できるアビリティは致命的に華がないのだそうだ。
たとえば発動時に攻撃力を上昇させるというアビリティがあったとする。
そうしたスキルは一般に勇者のレベルが上がるにつれて自動的に強化されていく。
攻撃力の上昇量やスキルの発動時間といった要素がレベルに応じて伸びていくワケだ。
つまり取得した時点ではそれほど強力なスキルでなくとも、高レベルに達するほどその恩恵は跳ね上がる。
しかしそれに至るまでの鍛錬が面倒で、しかも圧倒的に地味なのだ。
いわゆる大器晩成ってやつだね。
「俺に言わせれば闘勇士のスキル管理は積み上げ式の『積み木細工』。土台が固まってなきゃ話にならないが、取得して無駄になるアビリティはひとつもない。コツコツ努力を続けりゃ黙ってても洗練された戦士が出来上がる。それに対して魔勇士のスキル管理はさながら『寄せ木細工』だな」
勇者の扱える魔法の種類は攻撃・防御・回復・トラップ系とまさに千差万別。
だからこそ戦術スタイルも多岐に渡る。
自分の中にひとつテーマを決めて、それに沿った専門的なスキルを集めていくことが肝心なのだそうだ。
一番いけないのはカッコイイというだけで強力そうな魔法スキルばかりをつまみ食いすること。
そういう輩は中途半端にしか術を使いこなせず、実践においては総じて役に立たないのだという。
「低級魔法でもアビリティの組み合わせ次第で誰もが予想しなかった効果が生み出されることもある。さながらスキルのパズルだよ。取捨選択を繰り返しながら自己流の戦い方を編み出してく。そこにじっくり時間を割いてこそ魔勇士の真の力が発揮されるワケよ」
上機嫌で持論をまくし立てるヒューゴ。
「なんでもいいけどよぉ」
「あんたは少し口を紡ぐってことを学んだ方が良いんじゃないかい?」
と言いながらも、ヒューゴはしゃべくりつつちょこまかと辺りを動き回り、トラップを見つけては解除して隠し扉から宝箱を回収している。
すでに奴の背負う登山袋からはガチャガチャと金品のひしめく音が鳴っている。
天性のトレジャーハンターってやつらしいね。
黙りっぱなしだったモブメガネがうやうやしく口を挟んだ。
「見たところヒューゴさんは防御に特化したタンク(盾役)ですよね。普通はパーティを組んで活動すると思うんですけど、どうしてノラをやってるんです?」
「んん? 俺は勇者を始めてからこれまで一度も自分をタンクだと思ったことはないぜ。合理的な戦い方ってのを考えて行き着いたのがこれだったってだけだ」
ヒューゴは愛用の丸盾をバンバンと叩く。
こいつは見たところ盾技闘勇士だろうけど、それのどこが合理的なんだ?
剣や斧でバッサバッサと切り倒していく方が手っ取り早いし爽快そうだけどねえ。
「ところでメガネ君。お前のジョブはどっちなんだ?」
「僕ですか? ……一応、闘勇士です」
「なのに持ってる武器はその頼りない短剣とメモ帳にペンだけか?」
「恥ずかしながら、僕はこの場にそぐわない低レベル勇者でして。このクエストにはおこぼれ目当てで参加したんです」
面目なさそうにヘラヘラと笑うメガネ。
フン、勇者が聞いて呆れるね!
他の勇者の影に隠れて甘い汁だけ吸おうなんて情けなくないのかね!
恥を知りな恥を!
「冒頭にも言った通り、俺は『おこぼれ狙い』が何人混じろうが一向に構わないぜ。ただし、それ以外のたくらみがあるとしたら話は別だがな」
「えっ?」
「さっきから見てたが、お前さんやけにこのダンジョンを歩き慣れてるな。ダ・ゴ・ダロンに潜るのは2回目か?」
一瞬にして場の空気がガラリと冷える。
ヒューゴは朗らかに笑っているようで、その目はメガネ勇者を問いただすようにギラリと据わっていた。
「なんの話かわかりませんが……」
「はあ、無駄無駄。しらばっくれても時間の無駄遣いだぜ。ヴァンプバットとの戦闘時もお前は一歩下がってみんなの戦いぶりを観察してたな。その後も暇を見つけてはメモ帳になにやらしたためてやがった。何を書いたんだ? 見せてみろ」
「や、やめれぇ!」
強引にメモ帳を取り上げようとしたヒューゴに対し、モブメガネは短剣を引き抜いて威嚇した。
思わずアタイらは手を上にあげて後ずさった。
「ひええ!」
「ちょっと落ち着きなよ! 仲間割れしてる時かよ!」
「仲間だあ? 平和ボケ甚だしいぜゴブリンガール。お前らみたいな能天気が集まるからレイドクエストは『勇者狩り』の温床になってんだ」
「勇者狩りぃ?」
「そうだ。聞くより実際に見る方が早いぜ」
ヒューゴはごく自然にアタイらの方に顔を向けて喋りながら、一方で手に持った丸盾を目にもとまらぬ速度で放った。
フリスビーのように飛んだ盾は油断していたモブメガネのアゴにクリーンヒットする。
バキッ!
「ごぶんっ!」
キレイに卒倒するモブ。
そいつを気にすることもなく、ヒューゴは彼の傍らに落ちたメモ帳を拾い上げた。
「やっぱりな。ご丁寧に俺たち参加者全員分の武装や戦法、それに弱点なんかがメモされてる」
「どうしてそんなことを……?」
「寝首を掻くつもりでいやがったのさ。しかも記録を残してたってことは単独行動じゃない。この情報を共有するはずだった共謀者がどこかにいるな……」
「えっ? クエスト参加者の中にかい?」
アタイらはお互いにパチクリ目を見合わせる。
「お、俺じゃねえぜ」
「おっと、さっそくの言い逃れは怪しいでやんすよ」
「そういうヤンフェが一番怪しいンだわ」
「どうしてでやんすか!? あっしほど仲間想いで忠誠心の強い崇高なエルフはいないでやんすよ!」
「あんたはその崇高なエルフ族の顔に泥を塗りたくるようなクズ野郎なんだよ」
醜い言い争いをするアタイたちにヒューゴは痺れを切らした。
「やめろやめろ! 共謀者は俺たち1期団の中にはいねえよ!」
「1期団の中には? ってことは……」
「このあと遺跡の中に後発隊がなだれ込んで来る。おそらくその中に混じってやがるぜ。悪名高い勇者狩りギルド『ハイベンジャーズ』の刺客がな」
勇者狩りギルド?
ハイベンジャーズ!?
「排便……?」
「きったね」
「いや違えよ。『復讐者』とかの意味が由来だよきっと」
ええい、由来なんかどうでもいいんだよ!
ギルド名ってのは語感がすべてだろ!
それをないがしろにするとは三流以下の集団らしいね!
それにしても、このよくありがちなバトルマンガふうの展開はなんだい。
最近どことなくノリ変わってきてないかい……?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
マ〇オですぅ~!
ええ~っ!?
カ○オくんは液体類だけじゃなく、下着やブルマまで盗んでいたのかいぃ!?
もしかして彼の机の引き出しに隠してあったアレがそうかいぃ!?
僕が毎晩部屋に忍び込んではコッソリ借用していたアレかいぃ!?
ウヴォエェ~!
どうしてくれんだよ~イガグリよぉ~!
現役女児のパンティーだと思って興奮してた自分がバカみたいだよ~!
もうブス沢が頭にちらついて離れないじゃないかぁ~!
ん゛ん゛~!
さて次回は!
【マ○オ、義弟の体を全体的に殴打した疑い】
【花沢、案外まんざらでもない】
【一本ハゲ、搬送先で心停止】
の3本ですぅ~!




