第25話 ゴブリンガールはレイド参戦する!
ドンフーから新たな指示を受け、アタイ・ジョニー・ヤンフェ・スラモンの4人は次なる目的地に向けて旅立った。
次の仕事はズバリ『レイドクエスト』への参加だ。
『レイドクエスト』とは……。
一人では到底クリア不可能とされる高難度クエスト。
そのため複数人の参加者を募って協力しながら攻略を目指すことが前提となる。
伝説の幻獣の討伐作戦や無限沸きするモンスターを何体倒せるか競うものなど、様々な形態のクエストがある。
今回アタイらが参加を指示されたのは『お宝の発掘クエスト』とのことだが、詳細は現地で聞いてくれの一点張り。
いつもながら嫌な予感がプンプンするね。
~遺失の砂辺ウラバ(探索推奨レベル34)~
日差しがカンカンと照り付ける岩場に囲まれた砂丘の一隅。
どうしてこんな僻地がクエスト受注ポイントに指定されてんだい!
ここに来るまでの苦難に対しても金を出してもらいたいくらいだよ!
喘ぎ喘ぎたどり着くとさっそく担当者が出迎えてくれた。
なんでもこのクエストの発注元は世界考古物研究機構という非営利組織だそうだ。
名前からして堅苦しい連中に違いないよ。
「レイドクエストの参加者ですね? よくぞ来てくれました! あれ? 勇者じゃない……?」
「勇者じゃなけりゃ報酬は出さないってのかい?」
「あんたたちが求めてんのは結果だろ? 誰が参加するかは問題じゃないはずだぜ」
「でも君たちレベル2だよね? このクエストの推奨レベルは60だけど大丈夫?」
「ッ……!?」
アタイたちは絶句した。
レベル60だなんてドンフーの奴からは一言も説明されてないよ!
「やっぱり帰ります!」
回れ右したアタイたちを逆に担当者が引き留めた。
「このところ深刻な勇者不足で、各地で開催されるレイドも参加者が集まらずに困ってるんです。どうか頭数だけでも多く見せるために出場してみてくれませんか」
地域興しのサクラ要員かよ!
「成果はゼロでも参加賞として最低限の報酬金は出るんですよ。受注して損はないから。ね?」
世界考古物研究機構は世界中の遺跡や遺物を調査する団体だ。
ウラバ砂漠の下には何層構造にもなって地下へと伸びる巨大遺跡『ダ・ゴ・ダロン』が眠っている。
さらにこの辺りは地溝帯になっていて、3年に一度の周期で地震活動が活発化するという。
活動期には大きな本震と小さな余震の繰り返しが連日続き、数日するとピタリと収まるそうだ。
ここからが本題だが、ウラバ砂漠全体を揺らす地震によって毎回遺跡のどこかしらの入り口が開き、そのおかげで内部へと侵入できるようになる。
ただし、数日後に起こる二度目の本震で再び入り口は閉ざされ、次の周期が来る3年後まで『ダ・ゴ・ダロン』はまた長い眠りにつく。
そのわずか数日間が発掘調査を行う唯一のチャンスであり、同時に『レイドクエスト』の受注期間となるワケだ。
クエスト内容はいたって単純。
扉が開いてから閉ざされるまでの制限時間内にできるだけ多くの宝箱を開け、中身を地上へ運び出すこと。
「もちろん多く運んだ人ほど多くの報酬金が与えられます」
「歩合制ってことだね」
「ですが、仮にひとつも収穫を得られなかったとしても基本報酬は支払われます。それだけじゃなく、回収したものの中に考古学上レアなアイテムがあればその分だけ参加者全員に特別報酬が上乗せされます」
人手が多ければ多いほどみんなが得をする。
それが『レイドクエスト』というやつの最大の特徴でありウマ味なのだ。
半ば言いくるめられるようにしてアタイたちは参加予定者が待機する仮設テントへと案内された。
だがそこに顔を出して早々に面食らった。
10人ほどの勇者がいる内、その一人と思しき図体の大きな男がなにやら喚いていたのだ。
「地下に潜り込むのは少数精鋭に絞るべきだぜ! ダンジョン内には危険な魔物やトラップがたくさんある! ザコを連れてって足引っ張られるのは御免だからな!」
他の勇者たちは男を囲むようにして演説に聞き入っている。
顔色を見るに、賛成という者も反対という者もいるらしかった。
「俺は別のレイドにも参加したことがあるんだ! ひでえもんだったぜ! 他の勇者に隠れておこぼれをもらおうって魂胆で参加だけする低レベル野郎の多いこと! そんな奴らが報酬をもらう権利なんてねえよな!」
ギクリとして冷や汗が流れる。
まんまアタイらのことじゃないのさ……。
大男の言葉に賛否のヤジが飛び交い、仮設テントの中は段々と荒れ始める。
「少数精鋭で行くとして、どうやってメンバーを決めるんだ?」
誰かの投げかけた疑問にまたも男が大声で答えた。
「このクエストの推奨レベルに満たない奴は問答無用で出場禁止にしたいとこだが、そうなるとほとんど残らねえだろうな。俺の名前はガミウシ。レベルは63だ。どうだ? 俺と戦って5分以上意識を保てた奴は合格にしてやるってのは?」
男の傲慢な言い方に会場はさらに荒れ、ざわつきが一段と大きくなる。
「どうするでやんす? あんな牛みたいな大男が相手じゃ5分どころか5秒ももたないでやんすよ」
「俺たち4人がかりだとしても瞬殺間違いなしなンだわ」
宝箱を見つけるミッションくらいならアタイらでもなんとか稼げそうだったってのに。
面倒なイキり野郎が仕切ってくれたもんだねえ……。
そのとき、奥に埋もれていた勇者の一人が異議を唱えた。
短く刈った短髪の青年で、ガミウシには及ばないもののガッシリした恵体をしている。
背中に大きな丸盾を背負っているが、他に目立つ武器は持っていないようだ。
「なあレベル63のあんた。さっきのクエスト発注者の話聞いてたのか?」
「はあ? もちろん聞いてたが?」
「なら理解できてないだろ。言ってること見当違いだぜ」
丸盾の男の遠慮のない物言いに会場がシンと静まり返る。
「なんだってぇ?」
「今回の案件の謝金は基本報酬・努力報酬・特別報酬の3種に分けられ、それぞれが独立した計算で支払われる。おこぼれ狙いが何人混ざろうが自分の取り分が減ることはないんだぜ」
言いながらテント内をグルリと見回し、全員が聞こえるように良く通る声で説明を続ける。
「宝の取り合いを懸念してるのかもしれないが、遺跡の想定規模はその心配が無用なくらい広大だ。大勢で手分けした方がずっと効率的だし、その過程で誰かがレア物をゲットすれば自動的に全員に特別報酬が加算される。参加者が多いほどその機会が増えるんだ。なぜみすみすチャンスを潰そうとすんだ?」
「さっきも言ったろう! ザコに足手まといになられちゃ迷惑なんだよ!」
「どうして足手まといになる? 味方がやられようが放っときゃいいだけだ。根本をはき違えてるようだが、レイドクエストだからって全員が仲良く手繋ぐ必要はないんだぜ? むしろ不慣れな連携を強要すりゃリスクが増えるだけだ」
いつの間にか丸盾男の堂々とした言い分に皆が感心し、うなずきを返している。
「これは高難度クエストだ。ザコたちだって危険は重々承知で参加してる。だがどうも、あんたはそいつらを気に掛けてやるほどのお人好しには見えねえんだよな」
「何が言いたいんだ!」
「自分の力を誇示したいだけだろ? そういうのウザいから控えてろってこと。俺が言いたいのはね」
バサリと切り捨てた丸盾男。
ガミウシは顔を赤くして怒っているが、それ以上言葉が出てこないようだ。
「……申し遅れたが俺の名前はヒューゴってんだ。とある目的で地下には潜るが、あんたらと共闘するつもりはない。それで問題ないはずだけどな? まあともかくヨロシク頼むぜ」
なんだか開始前から荒れに荒れ狂ってるね!
この殺伐とした雰囲気はなんだい!
アタイはもうこのクエストに不安しか感じないよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに始まったレイドクエスト!
おどろおどろしい石造りの遺跡回廊は雰囲気抜群で何が出てきてもおかしくないよ!
いいかい10人の勇者ども!
互いに助け合って強モンスターに立ち向かうのがフレンドシップ!
そしてやられそうな奴 (アタイ) をキッチリ守ってやるのもフレンドシップだよ!
わかったらさっさとアタイより前に出な!
【第26話 ゴブリンガールはダンジョンに潜る!】
ぜってぇ見てくれよな!




