第24話 ゴブリンガールは喧嘩両成敗する!
物々しいドワーフたちの登場に他の客たちは酔いも冷めたらしく、そそくさと店を出ていってしまった。
「何してんだ? 俺たちは客だぞ! さっさと酒を持ってこい!」
空いたテーブルに座り込んで声を荒げるドンフーの一行。
ピク美ママに促され、ヤンフェが渋々おしぼりとお通しを運ぶ。
「へへ……。いらっしゃいでやんす……」
「んん? ここのボーイは見覚えのある顔してやがるな?」
「俺らんとこで仕事させてるエルフのクソ野郎と瓜二つだぜ!」
「おかしな話があるもんだなあ! いつの間にスナックのボーイなんぞに転身してんだあ?」
「ふえぇ……!」
ヤンフェは今にも泣き出しそうだ。
アタイは黙ってられなくなり、テーブルをバンと叩いて立ち上がった!
「いい加減にしなよドワーフども! あんたらの下で永久に奴隷やらされるのもおしまいさ! この店は人使いは荒いが給料はキッチリ出してくれるって契約してんだよ!」
「契約だって? 聞いたかよお前ら!」
ドワーフたちはガハハと大笑いする。
「歩合制って言葉にまんまと引っかけられたな! おいピクシー! こいつらに日給いくら出すつもりなのか教えてやれよ!」
「そうだねぇ。この子らの働きならせいぜい30ゼニくらいかね」
日給30!?
時給換算でわずか5ゼニにも満たないよ!?
労働基準監督所も思わず3度見するレベルのブラックさじゃないか!
ショックで言葉を失うアタイにドンフーは哀れみの声をかけた。
「バーンズビーンズいちがめついピクシーなんぞと契約なんか交わすもんじゃねえな。ところでだゴブリンガール。この店が手を染めてる悪事の証拠は別経由で手に入った。つまりお前らはもう用済みだ」
「証拠だってぇ……?」
ババアの眉がピクリと動く。
動揺の表れだ。
「やはり当初の読み通り、魅了術を使って客足を増やしてやがったな。だが繁盛の理由はそれだけじゃねえ。もっとヤベーことにまで手を出してたとはよ」
「なんのことだい?」
「とぼけんじゃねえや! そこに座ってる二人のことだよ!」
ドンフーが指差したのはソファ席に座るフミエとキミヨ。
「そこの二人は魔界から来たサキュバスだ! 淫魔という通称のとおり、術をかけずとも自然とスケベどもを引き寄せちまう魅力を持ってるらしい。スナックにとっちゃ置いとくだけで金を生み出す招き猫ってとこだ」
ドンフーの子分がテーブルに証拠となる紙書類を広げ始める。
「数年前に出稼ぎのために下界へ下りてきて、ビザが失効したあとも不法滞在で居残ったな。俺たちが自治体に密告すりゃ強制送還は免れねえ。それにババアは知ってて匿った挙句に仕事までやらせてたんだ。この店は営業停止処分じゃ済まねえや」
「ワタシたち真面目に働いたダケ! 悪いことしてないヨ!」
「お店繁盛! ワタシ国の家族にカネ送る! みんな幸せ! なぜ悪いデス?」
「やめな。こいつらは聞く耳なんぞ持ちやしない。あんたたちは下がってな」
目に涙を溜めて訴えるサキュバスたちを後ろに退かせて、ピク美ババアがドワーフたちに立ちはだかる。
「……ピクシーは不老不死だなんて話はよくある誤解さ。たしかに寿命は長いがいずれは醜く老いぼれちまう。この店はずっと一人で切り盛りしてきたが、常連客も次々に鬼籍に入ってどうにも立ち行かなくなっちまった。そんな時だよ。この子たちに出会ったのは」
遠い目をして半生を振り返るババア。
「サキュバスの力を悪用するのは良くないことだってのはわかってたよ。だけどね、もう一度だけでもこの店を賑わせてやりたかった。老いぼれババアの最後のワガママさ。儚い夢を見させてもらったよ……。だがひとつだけ言わせてほしい。あんたらドワーフの体に少しでも温かみのある血が流れてるんなら、どうかこの子たちを通報するのはよしてくれないかい?」
「いいや。通報する」
即答したドンフーにババアは激怒した。
「そう言うと思ってたよクソ短足民族! 秘密を明るみにすると言う以上は生きてこの店から出さないよ!」
ババアが手元のスイッチを押すと出入り口の扉がガチャリと自動でロックされた。
「このババア、俺たちを閉じ込めやがったぞ!」
ドワーフの男たちは一斉に背負った斧を抜いて構えを取る。
ババアも禍々しいオーラを放ち、サキュバスの二人も隠れていた角と牙をむき出しにして臨戦態勢に入った。
「おいゴブ子! ここで俺たちの味方に付けば裏切りの件は水に流してやる!」
「ふん、このゴブリンどもは既にウチの従業員なんだよ! 当然こっち側の加勢をしてもらうからねぇ!」
ええい、究極の二択を迫ってくんじゃないよ!
アタイのいない所で勝手に殺り合っとくれ!
そして願わくば相討ちになってこの場の全員がくたばってくれればいい!
「あっしは金を多く出す方に付いてやるでやんす!」
こんな時でもヤンフェはさすがのしたたかさだね。
危うく感心しそうになるほどのクズっぷりだよ!
「やめなやめな! 大の大人が飲み屋で喧嘩なんて恥ずかしくないのかい! 揃いも揃って自分の利益ばかり追求するからこじれるんだよ!」
「それが商売ってもんだろ!」
「商売で食ってくってんならもっと頭を使いな! この問題をサクッと解決する方法がひとつだけあるよ! アタイの話を聞く気はあるかい?」
アタイはみんなをテーブルの前に集めると提案について説明を始めた。
この案の成否は両者が手を取り合えるかがカギになる。
どちらともに妥協が必要だが、まともな損得勘定ができりゃあ手を打てるはずだよ。
さて、どう転ぶだろうかね――――。
~翌朝~
ドンフーの子分が馬を走らせてさっそく現物を店に届けてくれた。
「2人分の偽造パスポートだ。出来立てほやほやだぞ」
ギャング団はこの辺りの裏業界を牛耳ってんだ。
この程度のまがい物の調達なんて朝飯前にできちまう。
これでサキュバスたちの居住権はしばらく確保されるだろう。
大手を振ってバーンズビーンズの街を出歩くことができるってワケだ。
「ウチの店もお咎めなしで営業を続けられる。儲けの何割かはドンフーの手元に抜かれちまうけどねぇ」
「その分ドワーフたちが計画してたキャバレーの新店の話は流れたんだ。客が分散しなくて済むどころか、今後はギャング団のひいき店としてあちこちに広告してもらえる。これまで以上に繁盛するよ」
「一時は営業停止の危機だったんだ。それを考えれば安いもんかねぇ。なによりフミエとキミヨが国に送り返されなくて良かったよ」
サキュバスの女の子たちも大喜びでアタイの手を握りしめる。
「ゴブリンガール、ありがとネ!」
へへん、よせやい。
照れるじゃないか!
アタイは健気に働く苦労人を見ると自分と重ねて見ちまうのさ。
あんたたちも逆境に負けずに頑張りな!
感動的なオチを迎えたと思ったところでドンフーがアタイに近寄る。
「ところでゴブ子。偽造パスポートの制作に掛かった40万ゼニはお前の借金に上乗せしといたぜ」
「えっ……?」
「タダで偽造証を用意できるワケねえだろ! こっちもリスク背負ったんだよ! その分働いて返してもらうのは道理だろうが!」
ちょっと待っておくれよ!
どうしてそんなんのさ!
「ということでさっそく次の仕事を用意しといた。今すぐこの街を出発してもらうとするぜ。せいぜい逆境に抗ってくれや健気な苦労人!」
アタイらの奴隷生活はまだまだ続くってことかい!
クソッたれ!
ドワーフもピクシーもサキュバスも、SSRを引いたらぜーんぶこの世から消し去ってやるからんだからね!
覚えときなッ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
レイドクエスト――――。
それは複数の参加者が協力して攻略を目指すという高難度クエスト。
これほどアタイにうってつけのクエストは無いね!
他人の活躍を物陰から見守ってるだけで報酬がもらえちまうんだからさ!
こういうのを待ってたんだよ!
と思いきや、さっそく参加者同士で揉め事がおっぱじまったよ!
なんだか先行きが不安になってきたねえ……!
「第25話 ゴブリンガールはレイド参戦する!」
ぜってぇ見てくれよな!




