第248話 ゴブリンガールは反省会する!
あの後ワシャクは完全に戦意を失い、すべてのゴーレムを遺跡へと戻した。
すると事態が沈静化したのをはからうようにして、嘘みたいに雨が止み、雲は流れて消えていった。
それから再び眩しい陽射しがウラバに差し込むまで、あまり時間は掛からなかった。
ダ・ゴ・ダロンを舞台にした激戦が終結してから数日後。
アタイとシブ夫、モリ助の3人は行きつけのスナック・ピク美でしっぽりと反省会を開いていた。
「いやはや、今回も難儀なクエストだったねえ……」
「マジで奇跡の雨降ってくんなきゃ俺ら普通に皆殺しだったよね」
雨が降る直前の、怒り狂ったワシャクと砂を巻き上げて肥大化していくゴーレム軍勢の姿が脳裏に甦り、アタイとモリ助は背筋をブルブルと震わせた。
一方でシブ夫は何やら考え込んでいた。
「あの雨はQRコードで敵の弱点が水だと知っていたからこそ発生した幸運バフだったと思えます。だとすると、やはりゴン太の行動が腑に落ちません」
「ん? どういうこと?」
「魔王側に寝返った彼は、なぜあの場にQRコードを残したんでしょう」
QRを利用するためにはスマホが必要。
つまりゴン太のメッセージは自分以外の転生者に向けて残されたものということになる。
「ゴン太が悪の道に染まってしまったなら、いずれ敵対するだろう僕たちに向けてわざわざ攻略のヒントを与えるでしょうか?」
「う~ん」
「それはさ、俺らにワシャクちゃんを倒してほしかったってことじゃないの? トドメを差せなかった自分の代わりに。もしくは両者の相討ちを狙ったとか」
「そうですね……。ですが、それだけのようにも思えないんです」
一呼吸置いてシブ夫は持論を語りだした。
「……ゴン太はこの試練を僕たちに乗り越えさせ、いずれは自分の元にたどり着いてほしいと考えたんじゃないでしょうか」
「それって、暗黒面に堕ちた自分を止めてほしいってこと?」
「あるいは、僕たちも仲間に引き込もうとしているのかも」
「ええ!?」
そもそもなぜゴン太ほどの模範勇者が魔王の味方をするに至ったのか?
やむを得ない事情があったのか、または彼の信条を根底から覆してしまうような出来事が起こったのか……。
「今の僕たちでは想像もつかないような何かが隠されている気がしてなりません」
そうなの?
ゴン太の後を追うことでアタイたちも知られざる驚愕の真実に行きついてしまうの?
そうしてコメディテイストな本作に似合わないシリアスな局面に立たされてしまうのだろうか?
「あーもうめんどくせえ。ゴン太も魔王も2人まとめてぶっ殺しちゃえば解決じゃん」
なんかもういろいろと考えすぎて疲れたアタイはぶっきらぼうに言葉を放った。
それを聞いて神妙な顔をしていたシブ夫とモリ助は思わず吹き出す。
「ゴブ子さんはいつも変わりませんね」
「それでこそ俺らのゴブ子ちゃん☆」
「おーし、そうと決まれば最終話に向けて話を整理しとくよ! なにせ次のクエストから新章に突入するからねえ(予告)!」
せっかく今回のクエストでいろいろと伏線回収したんだから、この際全部洗い出しとこう。
他に回収し損なった謎は無いかな?
そこでモリ助が元気良く手を上げる。
「はいはーい! 結局俺の失くしたスマホってどうなったの?」
「あー!」
そういやそうだったわ!
超重大な伏線を放置したままにしてたね!
この大バカモリ助は転生直後に自分のスマホを二束三文で売り払ってしまった大バカうんち。
こいつのスマホのチート機能次第では魔王やゴン太戦がずいぶんと楽になるはずだ。
最終決戦までになんとしても取り戻しておきたいところ。
「というか存在価値の無いあんたがレギュラーキャラで居続けられるのってこの伏線のおかげだからね? 見つかったらお払い箱になるから覚悟しときな」
「辛辣ぅー☆」
「何か手掛かりを探しましょう。どこの街でどんな商人に売ってしまったんですか?」
「やだなあ。そんな大昔のこと覚えてるワケないじゃ~ん(笑)」
アタイはヘラヘラと笑うモリ助の首をガチ締めした。
無能にもほどがあるだろうがよ!
そんなこんなで騒いでいると、ふいに背後から女の笑い声が響いた。
「ホホホ。低レベル同士の殺し合いとは醜いものよのう。なぜお主らに我が軍勢が抑えられたのか、納得がいかんわ」
「ああん?」
振り向けば店の玄関口に立っているのは砂の遺跡の女帝、イツァ・ワシャク。
さらに隣にはヘミ子、アルチナ、そしてハイネも佇んでいる。
この女集はワシャクのためにバーンズビーンズの観光案内に回っていたのだが、やっと一周終えて戻ってきたみたいだね。
「とっても楽しかったわ――。ワシャクちゃんの知らないものだらけで、説明するのに大忙しだったの――」
「千年も眠っておれば景色も様変わりするのう。賑やかな街並みに珍妙な物品など、まるで見飽きることがなかったわ」
「うふふ~。スイーツ店に映えスポット巡り♡」
「ぜひまた行きましょうね」
キャピってんじゃねえよSNS女子ども。
アタイは店のお通しのスルメイカをムシャムシャと食いちぎった。
「ふん、ずいぶんと仲良しになっちまったみたいだね。友達なんかいらないって拗らせてたのはどこのどいつだい」
「ゴブ子ちゃん。ワシャクちゃんはずっとひとりで寂しい思いをしていたのよ――」
「知るか知るか! こんな迷惑な奴は一生砂ん中に埋もれてりゃよかったんだよ!」
窘めるヘミ子を気にも留めずに暴言を吐くアタイ。
だがワシャクは心底愉快そうにアタイの隣に腰かけた。
「そう熱くなるなゴブリンガール。お主の大好きなお姉さまを連れ出したんで妬いておるのじゃな? ホホホ、かわゆい奴よの~」
「はあ!? そ、そんなんじゃねえし!」
うぜえし!
ばーか!
顔を真っ赤にして憤るアタイと対照に、ワシャクは真顔に戻って対面に座るシブ夫とモリ助に向き直った。
「ところで……。先ほどの会話が耳に入ってしまったのじゃがな。所在不明の『異世界の錯誤物』、見つけ出す方法ならばあるぞ」
「えっマジ?」
「妾は魔儡を自在に動かす操作系統の能力者。そしてそれは魔王も同じ。ガーゴイルがスマホを追尾できるとすれば、そこから解決の糸口を掴めるはずじゃ」
おっと……?
それが本当だとしたら、こいつは思わぬ朗報だよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ワシャクの力を借りてもうひとつのスマホを手に入れられれば、アタイらの向かうところに敵なし!
さあて、話の区切りもついたところで景気付けに一発ガチャでも回しとくかい!
いつもの通り七色の光がスマホ画面からあふれ出し、抑揚のない電子音が……。
はて?
ウルトラレアとはなんぞ?
【第249話 ゴブリンガールはウルトラレアを引く!】
ぜってぇ見てくれよな!




