第237話 ゴブリンガールはダブルデートする!
歓楽の街として栄えるバーンズビーンズ。
幅を利かせてるのはもっぱら飲み屋やキャバレー、賭博場などのたぐいだが、大通りを外れれば普通の雑貨類を売る商店エリアもある。
「ゴブ子ちゃんに似合うワンピースを選ばせて――!」
というヘミ子のたっての願いを受けて商店街を散策することになったアタイたち。
妹扱いで物を恵んでくれるのはありがたいけど、できれば服なんかより食い物の方が嬉しいんだけど。
いやそれよか生意気な人間どもを黙らせるための鈍器とかが欲しいかな。
え?
ガチャで引けだって?
出ねえんだよ!(憤怒)
どういう経緯だったか、途中でシブ夫とモリ助も合流して4人になった。
でも4人で歩いてるはずなのに、気付くとシブ夫とヘミ子の2人だけが先に進んでしまう。
「ねえ見て。この腰防具、シブ夫くんにぴったりよ――」
「この部位は前回のクエストで壊れてしまってたんです。ちょうど良いので買ってしまおうかな」
「おや、あんたたち勇者だね。いいよいいよ持ってきな。ちょうど新しい型のを入荷したんで処分しようかと思ってたんだ。それにキミみたいな子が付けてくれるんなら店の宣伝にもなるしねえ」
「まあ! ラッキーね、シブ夫くん――」
「ヘミ子さんの幸運バフのおかげですよ」
キイー!
キエエーーー!
アタイは嫉妬とうらやましさと憎しみとやるせなさで頭がどうにかなりそうだった。
「微笑ましいよな~。こうしてるとなんかダブルデートしてる気分♡ ね、ゴブ子ちゃん!」
「何がダブルデートだよ死ね!」
アタイは隣のモリ助を気の済むまでサンドバックにしてやった。
「……いやしかし、こうしてあの幸せそうな2人を眺めてるとさ、つくづく転生して正解だったんだろうなって思うわけよ」
「はあ?」
前の世界では社畜OLだったヘミ子と引きこもりニートだったシブ夫。
それぞれが非力な自分を惨めに思い、声にならない助けを求め、そして報われることなく死んでいった。
「そういう奴らが転生者に選ばれるのかなって。共通項ってやつ?」
「ならあんたも向こうでは不幸だったってのかい? お気楽なバックパッカーだったんだろ」
生前のモリ助は中学生のころに家出してそのままヒッチハイクで世界各地を放浪したという。
※モリ助の詳細についてはメインクエスト【魔境へ行く!】(第122話~)を参照。
「そうでもないよ。俺、いろんなことに違和感を覚えててさ、育った街を逃げるように飛び出したんだ」
前にいた世界はここよりずっと文明が発達していたという。
でも良いことばかりじゃなく弊害もあった。
格差社会に差別意識、同調圧力。
物心ついた頃から常に競争し、比較される生き方を強いられたという。
「食べ物も着る物も困らない。欲しいものがあればネット注文ひとつで手元に届く。そんな豊かな世界のはずなのに、みんなして暗い顔してた。隣の奴と点数比べて、蹴落として、のし上がることが正義であり幸せだって教え込まれたんだ」
効率化社会としての終末期。
コスパを限界まで突き詰めた結果、人の生涯はマニュアル化された。
何歳までに勉学を治め、労働に就き、配偶者を持ち、家を買う。
その決められた道順の中でより早く、より良いものを手にした者が模範とされる。
そして逆に、レールから外れた者は嘲笑の対象となった。
「そんなことしてたら外っツラばかり煌びやかな社会ってのができあがって、でもやっぱり人は歯車で居続けられないんだ。どんどん壊れて欠けていって、中身がスカスカのハリボテになってた」
真の幸せの在り方はもっと別の場所にあるはずだと、モリ助は世界を巡る旅に出た。
……だけどそれにたどり着く前に命を失い、こうして転生するに至ったのだ。
「でも不思議だよね。あっちじゃどんなに探しても見つからなかった幸せってものの欠片が、ここではそこかしこに散らばってる気がしてさ」
はあ?
悪いけどアタイにはサッパリ理解できない。
向こうには火を吐くドラゴンも、不気味なガーゴイルも、腐れ魔王だっていない。
それどころか車にテレビにスマートフォン、いろんなことを便利にできる世の中だそうじゃないか。
アタイなら何ひとつ不満なく生涯をまっとうしてただろうけどね。
「違うんだよなあ。ゴブ子ちゃんは『レベル固定制』を撤廃しようと奮闘してるじゃん? 絶対無理なのにw それを諦めようなんて微塵も思ってない。そしてそんなキミをみんなも当たり前に応援してる。そういうのなの、俺の探してたもの」
絶対無理ってなんだよ!
簡単に決めつけやがって!
どんな困難があろうとアタイは必ず魔王の野郎をぶっ殺してやるんだよ!
「この世に実現不可能なことなんてひとつだってないんだよ! んなこと小学校で初めに習う常識だろうが!」
「そう、それ! それこそ俺がゴブ子ちゃんに惚れた理由だよ☆ ヒュー!」
アタイはモリ助の笑顔に勢いよく肘打ちを叩き込んでやった。
「あばあ!」
吐血してその場に倒れ込むモリ助。
「……そういう暴力的なところも魅力♡ きっとシブ夫やヘミ子ちゃんも同じじゃないかな。俺たち転生者はこぞってみんな、ゴブ子ちゃんの真っ直ぐさに惹かれちゃうんだ」
舐めたことを抜かすモリ助に執拗な踏みつけ攻撃を喰らわせていると、そこでシブ夫とヘミ子がはしゃぎながらこちらに駆け戻ってきた。
「やったわ! ゴブ子ちゃん、モリ助くん、見て見て――!」
「ヘミ子さんが福引きで副賞を引き当てましたよ」
「ああん!?」
幸せオーラ全開の2人に睨みを利かせるアタイ。
副賞だあ? どうせだったら1等賞を引き当てて見せな!
みみっちい幸運バフだね!
「1等はハワイ旅行だったんだけど、招待人数は1名だったから。みんなで行けないんじゃ楽しくないしね――」
「ふん! それで副賞ってのの中身はなんだったんだい?」
「ピンク色のワンピース。サイズもデザインもゴブ子ちゃんにぴったりよ――!」
「欲しい物をピンポイントで当てるだなんて、やっぱりヘミ子さんはラッキーですね」
えっ……。
アタイのために?
大はしゃぎで広げたワンピースをアタイの体に押し当てるヘミ子。
にこっ……。
アタイは妙に気恥ずかしくなってモジモジしながら視線を伏せた。
「……あんがと」
「きゃー! かわいい――!」
――――と、そんなこんなで騒いでいるときだった。
通りの先からひとりの女がアタイの名を呼びながら駆けてくるのが見えたのだ。
「ゴブ子さん! それに転生者の皆さん!」
大杖を握り、祈祷師の衣装や髪飾りで身を整えた童顔女。
アタイはそのいで立ちに覚えがあった。
「あんたは……、電波ストーキング未来予知女のハイネじゃないか!」
※ハイネについてはメインクエスト【予知される!】(第116話~)を参照。
「た、大変です! 大変なことが……!」
ハイネはアタイたちの前で膝に手を付いて息を整える。
そうして青ざめた声で言うのだった。
「未来を視ました。近い将来にカタストロフィが起きてしまいます。それを止めるためにどうか手を貸してください!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
大戦争の勃発!?
祈祷師ハイネの視た未来予知……!
それは魔王率いるガーゴイル軍と、それに拮抗する謎の新勢力、そしてこれまでに登場した勇者たちによる壮絶な戦いの場面だった!
これってもしや、最終話の予告だったりします!?
【第238話 ゴブリンガールは伏線回収する!】
ぜってぇ見てくれよな!




