第22話 ゴブリンガールは繁華街を歩く!
~歓楽の街バーンズビーンズ(探索推奨レベル20)~
幽霊騒動からひと段落付き、さらに広大なグリタ平原を進んで数日。
ついに町らしい町にたどり着いたね。
新入りのスラモンはジョニーのアバラ骨が作る空洞を特等席にしたらしい。
歩く振動でプルプルと上下に揺さぶられながら楽しそうに景色を見回している。
一方で勝手に体を住み家にされたジョニーは神妙な面持ちだ。
「この窪みは座り心地がちょうど良いンだわ」
「俺にしてみりゃ腹回りが妙にブヨブヨして気持ち悪いんだよなぁ」
「互いに足りないところが補い合えていいんじゃないでやんすか」
歓楽の街バーンズビーンズ。
その名の通り飲食店や遊興施設が集中した街で、その手の生業で成り立っている商業市だ。
アタイらもさっそく区画に入ろうとしたが、その手前にドワーフの群団がいた。
こっちの姿を見つけると待ってましたと言わんばかりに近寄ってくる。
その先頭にいるのは言わずもがな、一味のカシラのドンフーだ!
「久しぶりだなァ、ゴブリンガールにスケルトン。それと卑しいエルフの使いっぱしりも一緒か」
「ゲッ! なんであんたがこんなところに……!」
「ビジネスの話をするために決まってんだろ。俺が課した難事件をさっそく解決しちまったらしいな?」
「まあね。ウワサの半透明人間の正体はこいつさ」
スラモンはジョニーの腹腔から顔をのぞかせて会釈する。
「俺なンだわ」
「あれだけ通行人たちを震撼させた犯人がただのスライムだったとはな。おい、このいきさつは間違っても口外するなよ。なにせ邪悪な悪霊のお祓い代って名目で周辺の村人から金巻き上げたんだからよ」
「コスい商売するね」
「おかげで大儲けだ。お前らの取り分はその1%分な。借金から差し引いといたぞ」
「たった1%!?」
「ああ。それを3人で山分けしろ」
一人あたり0.3%かよ!
思わずアタイらの口から不満が噴出する。
「ブラック企業も真っ青の搾取ぶりでやんす!」
「こんな調子じゃ何年働いたって完済できないじゃないのさ!」
「そう言うだろうと思ってな、早くも次の仕事を用意しといてやったぜ。感謝しろよ」
そういうことじゃないだろ!
むしろどんどん仕事詰め込むってブラックに拍車かけてんだろ!
「一仕事終えたばっかりなんだからちょっとは休ませとくれよ!」
「目の前には繁華街があるんだぜ?」
「羽伸ばしには絶好のロケーションでやんす」
「あぁ!? 羽伸ばしだぁ?」
ドンフーのひと睨みでアタイらは一斉に黙りこくる。
「お前らに遊ぶ金があると思ってんのか? あるワケねえだろ! オイ! 担保に掛けた故郷の集落がどうなってもいいのかよ!? ヤンフェに至っては自分の腎臓と肝臓かけてんだろ! この場で切り抜いてやってもいいんだぞォ!」
「フッヒィィ……!」
……初耳だけど、ヤンフェの奴は自分の臓器で借金補填してんのかい。
正気の沙汰じゃないね。
まあアタイが言えたことじゃないだろうけどさ。
「ということで次の仕事の説明だ。この街にはピクシーの経営するキャバレーがあるんだが、最近急激に羽振りが良くなりやがった。この不景気の中で結構なことだが、あまりにも客足が流れ過ぎると俺のシマにも影響が出る。そこでだ。お前らにはその店の内部調査に当たってもらう」
「キャバレーの内部調査ぁ!?」
「人気急騰の理由を探せ。腹黒いことをやってる証拠を掴めれば合法的に廃業に追い込める」
「そんなことまでアタイらの仕事なのかい」
「単なる金稼ぎだけじゃないぜ。この街の風紀を正すことにも繋がるだろ。大志を持って挑んでくれや」
大志を持てだって?
どの口が言うんだよ金の亡者が!
笑わせるのも大概にしな!
……なんてどついてやりたかったけど、アタイらはぐっとこらえて仕事に取り掛かるしかなかった。
ドンフーのクソ野郎め。
いつかSSRを引いた時の抹殺リストにあんたの名前を載せといてやるからね!
覚悟しときな!
~~~
アタイらは渡された地図に向かって賑やかな歓楽街を進む。
あちこちにきらびやかな商店が並んで客寄せのコールでお祭り騒ぎ。
競馬もとい競ユニコーン場をはじめとするギャンブル施設や、童顔ホビットのショタ風ホストクラブといった変わり種の飲食店まで、あらゆる需要を網羅してるらしい。
さすがに目移りしちまうね!
「ピクシーと一口に言ってもいろんなタイプの妖精がいるでやんす」
「中には人間を惑わせる力を持つ者もいるらしいンだわ」
「魅了術で金儲けねえ。別にそれで客自身が満足すんならほっときゃ良いんじゃないの?」
アタイだってこの悲惨な現実を逃避させてくれるんなら喜んで金を出したい気分だよ。
その金が無いから困ってんだけどね。
「着いたぞ。ここだ」
そこは大通りから少し入り組んだ裏路地の一角。
古びた電光掲示板に【スナック・ピク美】という飾り気のない文字が流れては消える。
なんとも昭和臭はなはだしい。
「ここが大繁盛のキャバレー? 住所間違えてんじゃないのかい」
アタイらは疑心暗鬼に陥りながらも勇気を出してドアを開ける。
すると驚いたことに、狭い店内はへべれけのオヤジどもで溢れかえっていた。
満席を通り越して立ち飲みしてる奴すらいる始末。
「なんだいこりゃあ……!?」
酒臭い熱気に圧倒されているとカウンターの奥から一匹の妖精がヒラリと飛んで出迎えてくれた。
酒瓶ほどの小さな体に透き通る美しい羽を瞬かせ、キラキラと光る鱗粉を散らし、その妖精の通った後には少々キツい香水の香りが漂う。
童話で聞く可憐で妖美なピクシーそのもの。
……ただし、それは遠目から見た姿だけだった。
近寄ったピクシーの顔はしわくちゃでそこら中がたるみやシミまみれ。
ババアの妖精かよ!
「らっしゃ~い! おいしい熟女はいかがぁ~?」
アタイたちの背筋に戦慄の悪寒が走る!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
くたびれた妖精の切り盛りするスナックでアルバイト!?
ババアには顎で扱われ、酔っ払いたちにはヘーコラ頭を下げ……。
キャバ嬢ってのは涙が出るほど過酷な仕事だね!
女の子相手に飲んで騒いで、こいつらは一体なにが楽しいんだい!?
早くもアタイのストレスはフルバースト寸前だよ!
こうなったら仕事終わりに近場のホストクラブでパアッと散財するよ!
【第23話 ゴブリンガールは水商売する!】
ぜってぇ見てくれよな!




