第221話 ゴブリンガールはカンフー使いと出会う!
バァ~~ン!(ドラの音)
チャカチャカチャンチャンチャンチャンチャ~ン!
「アイヤー! 安いヨ安いヨ!」
「珍しいものたくさんアルネ! 旅の方、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
琴やらなんやらの民族楽器がかき鳴らされ、アジアンテイストなくどいBGMで彩られる街市場。
そこかしこにコッテコテの中華訛りが飛び交っている。
そんな土地勘の無い路地をさまよい歩き、アタイとジョニーとスラモンのお馴染みトリオは心細さのために半ベソになっていた。
そう、なんとアタイたちはいま……!
チャイナタウンにいま~す☆ニーハオー
「ったくなんで忙しい年の瀬にこんなところに……」
「勘弁してほしいンだわ」
それもこれもすべての元凶は肉団子ドワーフことドンフーの思いつきのせいだ。
『正月休みはギルド商も閉まっちまうが、お前らの借金の利息は休み無し! ひとつでも多くのクエストを請け負うために困ってる奴を探しに行くんだよ!』
とのお達しで街を叩き出され、当てもなくヒッチハイクの旅をしてたら中国くんだりまで来てしまっていたのだ。
ほんと年末くらい自由にさせてよ。
コタツに潜って年越しソバ啜ったり、初詣に並んで除夜の鐘に聞き入ったりさあ、そういうのしたいわけ。
もしくはディスコに繰り出してカウントダウンパーティーに興じるのもいいね。
あれでしょ。タイムズスクエアあたりとか毎年ヤバいんでしょ?
「あーあ。どうせならUSA行きたかったんだけど。マンハッタン」
「交差するルーツ。タイムズスクエア」
まあしかし自分たちの身分を考えれば贅沢は言えない。
それにここはここで観光のし甲斐もありそうだし。
来てしまった以上は思う存分小旅行気分を満喫するとするかね!
~銅鑼の音のメイウェイシーチャン(探索推奨レベル29)~
露店にはヘンテコな置物やら民族衣装やらが所狭しと並べられており、異国の情趣MAX。
物色しつつ道沿いに歩いていると、やがて食べ物屋台の広がっている大通りに出た。
シュウマイにラーメンにゴマ団子。
なんとも香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「どれもこれもうまそうだねえ……」
さすがは食の大国だよ!
ヨダレを垂らしながら屋台飯を覗き込むアタイたち。
だがその様子は店の人間に良い印象を与えなかったらしい。
「金が無いなら商売の邪魔だよ! さっさと自分の国に帰んな!」
軒先から叩き出されてしまった。
クッソが……!
どうやら文無しに優しくないのは万国共通らしいねえ!
どうやって店のオヤジにバレずに食い物をかっぱらうかを考え込んでいると、そんなアタイたちに声を掛けてくる人物がいた。
「アイヤー! 異国の妖怪がなんの用アル?」
「ああん?」
振り向けばそこに立っていたのは朱色のカンフー服を着た女。
結った髪を輪っかにしてまとめ、麺棒を片手に器用にクルクルと回している。
「ワタシの名前タオタオ! 拳法の使い手にして珍味を追い求める探食家でもあるヨ!」
自己紹介とともに体操選手のごとき柔軟さで股を開いたり脚を持ち上げたり。
次々に独特な拳法の型を見せつけるタオタオとやら。
しまいには屋台の障害物を足場にして軽やかな宙返りを披露してくれた。
さっそく本場の中国拳法を拝めちゃうなんてね。
アタイたちは感嘆の声を漏らしてパチパチと拍手する。
はいはい、どうやら今回のゲスト勇者はカンフー使いみたいだよ。
そんで? 探食家ってことはテーマは中華料理?
わかりやすくていいね。
一瞬で今回のコンセプトを完全把握するアタイ。
ずいぶんと慣れたもんだよ。
タオタオはドヤ顔で胸を張ると、再び手足を広げて構えを取り、
「ワタシの生まれ育った市場、平穏を守るアル! 河童はお呼びじゃないアル!」
「はあ? アタイは河童じゃねーし!」
「悪さを企む子にはお仕置きネ! シネ!」
麺棒を振り上げるタオ。
はいはい人の話を聞かない脳筋暴力系勇者ね。
「それにしても中国にも河童っているンだわ?」
「まあ西遊記に登場するくらいだしな」
みんなご存じおサルの孫悟空が活躍する伝奇作品・西遊記。
それに登場する主人公メンバーのひとり、沙悟浄は河童がモチーフだそうな。
と思ったんだけど、いま作者がググってみたらどうやらだいぶ話が違ったらしいよ!
元々沙悟浄は特定のモンスターを由来にしたキャラクターではないらしい。
それが日本に伝わった時の誤訳やら、当時の適当なノリやらで河童ということにされてしまったそうな。
ふうん、勉強になったねえ。
「ワタシたち中国人、日本の西遊記見るとビビるアル。あのキモいキャラ誰? ってなるアル」
「そうなんだ」
なんか……すんません。
でもまあ、ね。
作品が他の国に輸入されるとトンデモな脚色が入っちゃうってのはよくある話だから。
ここはお互いさまってことで。
苦笑いでやり過ごそうとするアタイたちだったが、タオタオは依然として道を通せんぼしてくる。
と思いきや、スラモンをじっくり見つめ始め、その後に目を見開いて飛び上がった。
「アイヤー! 水餃子の妖怪がいたとは驚きアル!」
「俺は餃子じゃないンだわ!」
「このプルプルとした見た目、さぞかし面白い食感と喉越しに違いない! ワタシ探食家。初めて見たモノ味見せずにはいられない性分アル!」
いうや否やレンゲを取り出してスラモンの体を掬い取ろうとするタオ。
「こらやめな野蛮人!」
「食虫文化は聞いたことあるが、好き好んでモンスターを食べようなんて奴がいるとはな……」
「何を言うアル! ゲテモノこそ珍味と相場が決まってるアル!」
そう言いながら次は乳鉢と棒を取り出した。
「動物の骨や角は粉末にして漢方薬に使うことも多いアル。こっちのガイコツにも何かしらの効能があるはずアル」
ヨダレを垂らしながら迫ってくるので、ジョニーはたまらずに悲鳴を上げた。
なんでも見境なしに口に放り込もうとしてんじゃないよ!
食べられるものかどうかは口に入れる前に常識で判断してくれる!?
どうやらこの中華女、食人族も真っ青のストイック美食ハンターみたいだよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
和風クエストってのはこれまでに何度かやったけど、今回は中華クエスト!?
中国にも危険な妖怪や勇者ががいっぱいいるみたい!
頼むから拳法とかバトルとかはほどほどにして、グルメ要素多めで済まそ。
食レポなら喜んでやってやるからさあ!
【第222話 ゴブリンガールは麻婆食べる!】
ぜってぇ見てくれよな!




