第21話 ゴブリンガールは塩を撒く!
「スライムに物理攻撃は効かない……」
スライムといえば魔法ジョブを選択した勇者のチュートリアルに登場するやられ役。
たしかに物理攻撃の効果はイマイチなものの、魔法攻撃にはめっぽう弱い。
その固定レベルはゴブリンやスケルトンと同じく2だ。
ただし、一口にスライムといっても属性は多種多様。
火に弱いもの、水に弱いもの、雷に弱いもの……。
それぞれに有効な魔法攻撃と防御方法がある。
それらを使い分けて戦う訓練にはもってこいのモンスターってワケだ。
「俺の体にはいろんな属性のスライムが集まってンだわ。俺が単なるザコスライムとは違うってところを今から実演してやるンだわ」
「ヒエエ……!?」
ヤンフェの手首から先はスラモンの頭にめり込んだまま、身動きが取れない。
その状態でスラモンはフンと力を込めた。
するとスライムの中でぶくぶくと泡が立ち始めた。
「発泡してるぞ?」
「何が起こってんだい……!」
「ふふふ。今の俺は『炭酸スライム』なンだわ!」
「や、やんすーッ!」
ヤンフェは悲鳴を上げる。
スラモンの体内で湧き上がる小粒の泡がヤンフェの手に当たってパチパチと弾けているのだ。
「イタッ! イタタッ! これ割と強炭酸でやんすよ!」
たまらずヤンフェはスラモンから手を引き抜き、その勢いで後ろに倒れ込んでしまった。
「ふふふ……!」
「なんて地味な攻撃なんだ」
「攻撃とも呼べないよ。単なる嫌がらせだろ」
「ふん。バカにするものそこまでなンだわ」
スラモンは口を横一文字に結んでフンと力を込める。
するとサッと体の色が赤く変わった。
「また属性が変わったのか?」
「今度は『酸性スライム』なンだわ!」
スラモンは口から勢いよく液状スライムを吐き出す!
「うわっ! 危ない!」
とっさにかわすと、液体は背後の墓石にかかった。
たしかに酸性であるらしくジワジワと煙が昇り始めた。
スラモンは立て続けに酸性液を吐きかけてくる。
「くっそ! ジョニー、防御するよ!」
「ああ! 盾の後ろに隠れるんだ!」
アタイとジョニーはヤンフェを押し出してその背中に身を隠した。
無情にも酸性液がヤンフェの顔面に降りかかる。
「ギャアァァ! ヒ、ヒリヒリするうぅぅ!」
「さあスラモン! その程度じゃアタイらにはノーダメだよ! どうする?」
「いやノーダメじゃないでしょ!? あっしが今まさに大ダメージ受けてるでしょ!?」
アタイの煽りに応えるようにスラモンの体の色が再び変化した。
赤色から薄青色に染め変わり、またもや液状スライムを吐き出す。
続けざまに謎の液体を頭から浴びるヤンフェ。
「ギャアアアアア!(泣)」
「ふふん、無駄無駄! そんな攻撃効かないって!」
「あんたにはね!? あっしには効いてるからね? ねえ見えてる? あっしの叫び声聞こえてる?」
さっきからギャーギャーと耳障りだねこの人柱は!
こっちはそれどころじゃないんだよ!
黙って突っ立ってなクソエルフが!
「それで? 今度はなんの属性なんだ?」
「今の俺は『アルカリスライム』なンだわ!」
酸性とアルカリ性だって?
アタイは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
それじゃあこの攻撃は――――!
中和された。
「ふぅ~! 助かったでやんす!」
「し、しまったンだわ」
オロオロと慌てふためくスラモン。
「そろそろ茶番は終わりにしな! アタイらは理科の実験しに来たんじゃないよ!」
アタイは痺れを切らし、盾代わりにしてたヤンフェを突き飛ばしてスラモンの前に躍り出る。
「俺には物理攻撃は効かないンだわ。どうやって反撃するつもりなンだわ?」
「まあ見てな!」
アタイは前の戦闘でガチャから排出された『塩コショウ』を取り出した。
それをひとつまみすると胸の前で十字を切った。
「悪・霊・退・散! キエエエエ!」
そのまま清め塩よろしくスラモンに向かって振りかける!
するとみるみる内にスラモンの体積が縮んでいった。
「ウワアアアァァンだわぁ!」
「高浸透圧の塩化ナトリウムは水分を吸収する! これぞゴブリン流の消水魔法だよ!」
「ナメクジじゃねえんだから……」
久々に決まったね!
アタイってば主人公みたいでカッコイイ!
スラモンの体は縮みきり、人型が崩れてよく見る雫型のスライムへと変化した。
そしてついには手のひらサイズにまで小さくなってしまった。
「お前たち、よくもやってくれたンだわ」
ぷんすか怒っていたスラモンだったが、やがて悲しそうに瞳を潤わせ始めた。
「これで元の生活に戻らざるを得ないンだわ。また勇者たちのオモチャにされる日々が始まるンだわ……」
それを聞いてアタイはハッとする。
なんだか大事なことを思い出した気がするね。
「なあジョニー。そういえばアタイらが冒険を始めた目的は『固定レベル』の撤廃のためだったね」
「魔王に直談判しに行こうってな。それがいつしか目まぐるしく状況が移り変わって……」
「多額の負債を背負い、銀行強盗未遂をしでかし、あげく生贄に捧げられそうになって。いろんなことがあったでやんすね」
アタイらはしばし冒険の軌跡を振り返って当時の心境を懐かしんだ。
「なあスラモン。アタイらはあんたのような弱小モンスターのヒエラルキーを上げたくて旅してるんだ。元の生活に戻りたくないってんなら魔王をブチのめす戦いに力を貸してくれないか?」
「レベル2で魔王と戦う? お前ら頭イカれてンだわ」
スラモンはドン引きしてアタイらの顔を見比べる。
「ちょっと冷静になった方がいいンだわ。調子こいてると今に痛い目に遭うンだわ」
「うるっさいね! すでに散々痛い目に遭ってきてんだよ!」
「こっちが下手に出りゃ好き放題言いやがって!」
「自分の立場をわきまえるべきでやんすねぇ!」
キレたアタイは手のひらサイズのスラモンをつまみ上げる。
「今日からあんたはアタイのシモベだよ! 捨て駒としてせいぜい有効活用させてもらうとしよう!」
「お前! さっき弱者を救いたいとかなんとか言ってたクセにそりゃねンだわ! ヒエラルキーの前に人権を守ってほしいンだわ!」
「うるさいね! お黙り!」
さあ、新たな仲間(捨て駒)も増えたことだし冒険の仕切り直しといこうじゃないか!
「首洗って待ってなクソ魔王! あんたを倒すためにSSRを引いて……。そのためにはまず金稼ぎをして……。いや、その前に借金の返済をして……?」
あれれ?
なんだか壮大な旅路すぎてまったく終わりが見えてこないよ!
ええい、前途多難とはこのことだね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
どうも~! マ〇オですぅ~!
サ〇エのやつ~!
ノリスケの嫁(名前失念)とランチだとか女子会だとか、湯水のように金使いやがってぇ~!
勘弁してほしいですよ~!
パートくらい探してこいよ~! 日中ヒマしてんだろが~!
こうなったらタ〇ヲの保育費と称して一本ハゲから金絞るしかないですねぇ~!
さて次回は!
【サ〇エ、抜けられぬママ友マウント合戦】
【マ〇オ、妻の頭部を殴打した疑い】
【一本ハゲの一本の価値】
の3本ですぅ! 嘘ですぅ!




