第218話 ゴブリンガールはマグナムを撃つ!
尊い犠牲を払いながら図書館へと向かう一行。
あと数ブロック先が目的地だ!
しかし街のメインストリートに面しているため、ゾンビどもの数も多い。
うかつに近づけばあっという間に囲まれちまうね。
物陰に息を潜めて活路を探すアタイたち。
「くそたれっピ」
「そこかしこも敵だらけや……」
アタイたちは既に満身創痍。
それもそのはず、レベル2のザコモンスターがここまで生存していること自体奇跡に近いのだ。
おそらくヘミ子の幸運バフのおかげだが、それでも限界は近いだろう。
改造されたジョニーの草刈り機の威力は絶大だが、燃料があとどれほど持つのか心許ない。
一方シリコンスラモンの方は……。
「ゲッ! あんたその体どうしたんだい!?」
なんとスラモンの体積が元の半分ほどにまで縮んでいたのだ!
「見境なくシリコン弾を撃ちすぎだろ! もっとペース配分を考えな!」
「そんなこと言われても、ゾンビが迫ってきたら撃つほか無いンだわぁ……」
涙目のスラモン。
その隣ではグリ坊が放心状態で座り込んでいた。
虚空を見つめながらブツブツと何かを呟いている。
「みんな死ぬんだ……もうおしまいさ……あはあは」
かわいそうに。
ショッキングな出来事の連続に精神が疲弊しちまったようだね。
「チッ。役立たずは置いていくでやんす」
バールを握りしめ、ギラギラとした瞳で威嚇するように周囲を睨みつけるヤンフェ。
「グズグズしてても埒が明かないでやんす! 一点突破で攻め込むしかないでやんす!」
「ようし……。あんたたち、覚悟を決めな!」
アタイたちは決死の形相で立ち上がると、雄叫びを上げながらゾンビの群れに突っ込んでいった!
「う~」
「あ~」
「そんなに喰いたきゃこれでも喰ってろ!」
アタイは爆竹(レベル8)に火を点けると、ゾンビの開いた大口の中に投げ込んだ。
そいつはゴクリと異物を飲み込んで目をパチクリさせ、一拍を置いて炸裂音と共に上半身を四散させた。
血の霧雨が降る。
「皆殺しだっピ!」
キュッピイのボウガンとスラモンのシリコン液が次々と敵を転ばし、取りこぼした敵をジョニーの草刈り機とあずにゃんのハサミが突く。
「キャー!」
ヘミ子がグリ坊の手を引いて走り、その後ろをのたのたとゾンビが追っている。
「あんたたちは先に行きな!」
アタイは2人の後に立ちふさがり、点火した爆竹を握ったままゾンビに腹パンを打ち込んだ。
皮膚を突き破ってズブリと体腔に入る握りこぶし。
そこに爆竹を残して手を引き抜くと、アタイは背後に飛びのいて頭を伏せた。
パパパン!
飛び散る肉塊!
「堪忍してえや~!」
顔を上げると、あずにゃんが敵に掴まって悲鳴を上げているのが見えた。
「ちぇああ!」
ヤンフェがバールを振り落とし、あずにゃんに抱き着くゾンビの半身を削ぐ。
そこにアタイが駆け込んで、口に爆竹を詰めると同時に顔面を押さえながら地面に引き倒した。
ボン!
鈍い爆音を発し、全身を震わせて事切れるゾンビ。
「おおきに!」
「立ち止ってる時間はないよ!」
なおも迫るゾンビの肉壁を助太刀に来たジョニーの草刈り機が捌いていく!
ギャギャギャギャ!
「走れ走れ!」
「もうひと踏ん張り!」
図書館はすでに目の前。
アタイたちは全速力で走り、正面階段を駆け上ると門扉をくぐった。
と、待ち構えていたように死角から数体のゾンビが現れた。
パンパン!
アタイのマグナムが火を噴き、ゾンビどもの頭を吹き飛ばす。
「おねむの時間でやんす!」
ヤンフェが残りの一体の眼球にバールを突き刺し、回転捻りを加えながら引き抜く。
ほとばしる体液を浴びて全身が赤黒く染まる。
「オールクリア!」
「みんな中に入ったか!?」
膝に手を付き、肩で息をする面々。
だが数えてみるとひとり足りない。
「ジョニー!」
振り返ると、正面階段の中腹辺りでジョニーが囲まれていた。
機械の刃に砕けた肉や骨が噛んで回らなくなってしまったらしい。
ダメ押しで草刈り機を棒のように振り回してみるが、先端がゾンビの腹に刺さって抜けなくなった。
ジョニーはとっさに肩関節ごと機械を外して自由になり、こちらに向かって走り出した。
「ジョニーを援護するんだ!」
アタイのマグナムとキュッピイのボウガンが敵を撃つ。
ジョニーの背後で汚い花火が上がるかのように肉片が飛び散っていく。
……だが、どう見ても間に合いそうになかった。
このままではジョニーと共に大量のゾンビが館内になだれ込んでしまうだろう。
「しゃーない!」
アタイは苦渋の決断を下した。
火炎瓶を取り出して目前の門扉に投げつけたのだ。
瞬時に炎の壁が立ち上がり、外界とを完全に遮断する。
「え? 俺まだ入ってないんだけどw」
燃え盛る炎を前に立ち尽くすジョニー。
「何やってンだわ! 仲間を見捨てるンだわ!?」
「うるせえな! そうだよ!」
こういうのは一瞬の判断の遅れが命取りになるんだよ!
「情を見せた奴から餌食になるっピ!」
「心を鬼にしなあかん!」
「んなことホラー映画の鉄則でやんす!」
吐き捨てるように言うとアタイたちはそそくさと扉から離れる。
その向こう側からジョニーの断末魔の悲鳴が轟いた。
あばよジョニー。
覚えてたら後で立派な墓を作ってやるから、安心してあの世へお行き。
胸で十字を切ると、アタイたちは気を取り直して先へと進みだした。
しかし、早々にあずにゃんが立ち止ってしまった。
なにやら首元を押さえて痛そうにしている。
「どっかでぶつけてもうたんかなあ?」
「ああん? 手当てしてやるから見せてみな」
そうして覗いてみると……。
がっつり歯形が付いていた。
「お前、それ……」
「噛まれてるぞ!」
「え?」
アタイたちは手元の武器をあずにゃんの頭に突き付けた。
「ちょ、ちょっと待ちいや(焦)」
「黙れ!」
「自我のあるうちに首をはねてやるでやんす!」
「ちゃうねん! これはただの擦り傷やねん! ホンマそういうのとちゃうから!」
両手をブンブン振りながら後ずさりするあずにゃん。
だが必死の弁明もアタイたちの心を動かすことはできない。
「あずにゃん。あんた自分で言ったことだろ? 心を鬼にしなあかんってね」
「頼む! 見逃してくれ! そしたらなんでもしてやるさか……」
パアン!
――――。
乾いたマグナムの銃声がこだまする。
無慈悲にも放たれた弾丸のそれは静かな講堂の隅々にまで響き渡った……。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ちくしょう、よくも!
よくもジョニーとあずにゃんをー!
……ていうかこれほとんど仲間内で殺し合ってない?
【第219話 ゴブリンガールは心を鬼にする!】
ゴブリン・オブ・ザ・デッド――――




