第217話 ゴブリンガールはアポカリプスする!
完全武装で虚勢を張ったものの、やはりアンデッドの大群を見ると足が竦む。
「本当に俺たちに戦えるのかな……」
弱気な声が上がるのも無理はない。
だってアタイたちレベル2だし……。
そこでヘミ子が元気づけるように笑顔で言った。
「みんなならきっと大丈夫。私にとっておきのアイデアがあるわ。ジョニー、ちょっとこっちに来て――」
「え? 俺?」
恐る恐るヘミ子の前に立つジョニー。
するとヘミ子はいきなりジョニーの右ひじ関節を外した。
ボキッ!
「ギャアア!」
そして外した腕の代わりに草刈り機(レベル42)を取り付けた。
「これでいくつかの手順を飛ばしてすぐに攻撃することができるわ――」
次はスラモンの元へ行き、おもむろにシリコンシーラント(レベル17)を練り込み始めた。
「何やってンだわ!?」
「シリコンは強力な接着剤の一種よ。スライムの中では粘性を保つけど、外気に触れればゴムのように固まってゾンビの動きを鈍らせられるの――」
そのまま続けてスラモンの額に2丁のコーキングガン(レベル16)を取り付ける。
これはシリコンを効率よく射出するための専用の押し出し器である。
かくしてジョニーとスラモンは魔改造を施された。
さらに軽トラの正面や側面にシャベル(レベル10)やらクマ手(レベル8)やらの農機具を突き出すようにセットし、対物戦用に強化した。
「準備は整ったね! あんたたち、軽トラに乗りな!」
アタイたちは各々の武器を握りしめて荷台に乗り込む。
ちなみに運転を担当するのはジャック。
「Glooming な Driving もキミと一緒なら Exciting」
トラックはフルスロットルで発進し、店の壁を突き破って外に躍り出た。
衝撃で何体ものゾンビが吹き飛ぶ。
「ぐおー」
車の前に出てくるゾンビたちを軽快に跳ね飛ばしながら、トラックは死で彩られた大通りを爆走する!
「みんな、これを使って――!」
「群がる敵をやっつけるのさ!」
ヘミ子とグリ坊が酒瓶(レベル8)に布の切れ端(レベル2)を浸し、手製の火炎瓶を作る。
それにヤンフェがライター(レベル9)で火を灯して他の者に手渡していく。
「オラオラー!」
「汚物は消毒やーっ!」
ジョニーとあずにゃんが火炎瓶を投げつけて群がるゾンビどもを牽制し、その脇でアタイのマグナムとキュッピイのボウガンが脇から近づく敵を射抜く。
前方を見やれば、トラックにセットしたクマ手に何体ものゾンビが串刺しになっている。
だが奴らは穴を開けられても生きているようで、蠢きながら腕を伸ばしてフロントガラスを叩き始めた。
「Jooooooooooy!」
ジャックはハンドルを切り、歩道に乗り上げて車の側面を建物の外壁に擦らせながら走行した。
クマ手に刺さったゾンビたちは摩擦で半身が削られ、バラバラと自壊して地面に零れ落ちていく。
いいよいいよ!
今のアタイたち輝いてるよ!
――――だが好調だったのはそこまで。
何体ものゾンビを踏み潰したことでタイヤが疲弊したらしく、パンクしてしまったのだ。
舵が利かなくなり、トラックは左右に振れた後で派手に横転してしまった!
「Fooooooo!」
荷台にいたアタイたちはそこらに放り出された。
「うわあー!」
……一瞬気を失ったかもしれない。
ハッと顔を上げると、アタイは地面にうつ伏せで倒れており、周囲にはおぞましいゾンビどもが揺らめいている。
そして仲間たちが必死の形相で闘っていた。
ギャギャギャギャギャ!
ジョニーの腕の草刈り機が空を斬り、鋭い回転刃によって次々にゾンビの胴体を分断していく。
「こなくそー!」
襲い来るゾンビの足元にスラモンのシリコンが射出され、動きを止めたところであずにゃんの刈り込み鋏(レベル18)が胴を貫く。
さらにキュッピイが頭部にボウガンの矢を撃ち込んで完全に沈黙させた。
一方ヤンフェは小高い丘の上で孤立していた。
バール(レベル15)をめったやたらに振り回しているが、とうとう追い詰められたようだ。
「ぴぃやああああ!」
雄叫びを上げるとバールを勢いよく振り上げ、一体のゾンビの頭頂部に突き刺した。
それは垂直に体内に差し込まれ、完全に背骨を砕いたらしい。
続けてバールを引き抜くと、噴き出した脳液が降りかかってヤンフェの全身を濡らした。
「来るなら来いでやんす! 絶対に生き抜いてやるでやんすうう!」
そのさらに先ではグリ坊が窮地に陥っていた。
手に握るターボドライバー(レベル39)を使うことも忘れて逃げ惑うことに必死らしい。
「ひい……ひい……!」
やがて息を切らして倒れ込み、そこにゾンビが覆い被さった。
「いやあああ!」
迫るゾンビの顔を遠ざけようと、とっさにターボドライバーを突きつけた。
これは見た目がドリルのような日用工具で、空気の力でネジを自動射出することができる。
いわずもがな、木工作業に使う物であり、間違っても人に向けて打ってはいけない。
ただし、今はそれが許される非常事態だった。
ビシュビシュビシュビシュ!
トリガーを引き続けることでゾンビの顔面に連続で鉄ネジが突き刺さっていく。
受ける反動のたびに体液が吹き出し、それがグリ坊の顔に降りかかる。
「ウワーッ!」
絶叫しながらも指を外すことのできないグリ坊。
だがネジは肌の表面に刺さるだけで頭の深部は破壊できないようだ。
ゾンビは顔中を針山のようにしながら、なおグリ坊に噛みつこうと歯を鳴らす。
「させへんでえ!」
駆け付けたあずにゃんが敵の首に刈り込み鋏を差し込んでザクンと断ち切り、ゴロゴロと生首が転がる。
そこへ側面からアタイが走り付け、脇腹を蹴り上げてどかせた。
「ウワー!」
なおも叫び続けているグリ坊を往復ビンタで黙らせる。
「みんな無事だね!?」
「いいえ。ジャックが見当たらないわ――」
ジャックが……?
あいつまさか、まだ車の中に!?
視線を移すと、はるか前方に横転して煙を上げている軽トラがあった。
やはり運転席にジャックが残ったままだ。
「ヘルプミー足首―!」
どうやら足首を挟まれて身動きができないらしい。
さらに運転席のドアは片方が地面で塞がれ、もう片方には群がり始めたゾンビによってまた塞がれようとしている。
そして一番の問題は、車体からオイルが漏れて黒い水たまりを作っていることだ。
引火すれば大爆発は免れまい!
「ジャックー!」
状況が絶望的なのは火を見るより明らか。
そこでアタイはとっさに火炎瓶の残りに手を伸ばした。
「ゴブ子ちゃん――?」
「何するつもりなンだわ」
「決まってんだろ! 軽トラを爆破する!」
「ええ!?」
タイミングよくトラックを炎上させれば一度にかなりの数を捌くことができるからね。
そして奇しくも、今のジャックは奴らを誘導するエサの役割を担っている。
これほどの好機はまたと来ないよ!
アタイの意を汲んで作業を手伝うあずにゃんとキュッピイ。
「あいつはもう助からないっピ」
「安心せえ! 無駄死にやないで!」
「なんてことを……」
「お、お前ら頭イカれてるのさ!」
「たわけ! 見てみいジャックのあの顔! あれは仲間のために死を覚悟した漢の顔や!」
涙と鼻水をまき散らしながら必死にフロントガラスを叩いているジャック。
どう都合よく解釈しようとしても、まったく死を受け入れているふうではない。
「るせえええ! ママゴトやってんじゃないんでやんすよォ! 生き残るためにはなりふり構ってられないでやんすーッ!」
周りの制止をヤンフェが怒鳴りつけて黙らせ、その隙にアタイは勢いよく火炎瓶を放った。
それをゆっくりと弧を描き、宙を飛んで地面に落ちる。
噴き上がった炎、それがオイルだまりに触れ、バッと青い揺らめきが地面を走った。
「フォーーーーーー!(泣)」
ドオォォォン!
――――。
……ありがとうジャック。
あんたの雄姿は絶対に忘れない。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ちくしょう……よくも……!
よくもジャックをーー!
【第218話 ゴブリンガールはマグナムを撃つ!】
ぜってぇ見てくれよな!




