第215話 ゴブリンガールはうなされる!
※今回のクエストは一部に残酷表現があります。
ありますけど普通に心臓の弱い方やお子さんでも笑って読めると思います。
『――――……ちゃん』
『ううん……?』
遠くからアタイを呼ぶ声がする。
「……子ちゃん。起きて、ゴブ子ちゃん」
「……ハッ!」
アタイは体をビクリと震わすようにして飛び起きた。
そこは見慣れたスナックのカウンター席だった。
「ゴブ子ちゃん。大丈夫? とってもうなされていたわ――」
ヘミ子が心配そうに顔を覗き込んでくる。
……どうやら深酒して寝落ちしちまってたみたいだね。
しかしよっぽど酷い悪夢でも見ていたらしい。
内容は覚えてないけど、汗ビッショリで気分も最悪だ。
「なんやあ河童。まーた酔い潰れとったんかい」
「飽きもせずによくやるっピ」
「んもう~お寝坊さぁん♡」
ああん?
ガヤガヤと騒がしい背後を振り返ると、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。
過去に登場した一発出オチクソ雑魚モンスターどもが大集結していたのだ!
グリンチのグリ坊!(語尾は~なのさ)
小豆洗いのあずにゃん!(語尾は関西弁)
セイレーンのトセイ子!(語尾はねっとりお色気)
キューピットのキュッピイ!(語尾は~っピ)
そしてパンプキンヘッドのジャック!(語尾は横文字英語)
同窓会か何か?
「Non Non! なぜなら今宵は! So! よい子も泣き出す恐怖のHalloween Night フォーーーーーー!」
「ということでみんなで悪だくみをしに来たのさっ!」
そこにジョニーとスラモンも合流した。
「こいつら凝りもせず人間に復讐する計画を練ってるらしいぜ」
「まあ話だけでも聞いてみるンだわ」
「なんだかとっても楽しそうね――!」
あずにゃんが何やら年季の入った分厚い本を掲げて得意顔をした。
「これはこの日のために仕入れてきたとっておきの魔導書や!」
どうやら魔術を使って呪いでも掛けようって魂胆らしい。
「はあ。魔導書ねえ……」
「本当に効果あるのかしら――?」
「ちなみにその本どこで手に入れたの?」
「図書館や」
バカか?
街の図書館にモノホンの呪いの本が置いてあるワケないだろうが!
良く見れば本の帯には【実録! 本当にあった怖い呪文】のアオリ文が書かれている。
アタイは長い溜息を吐いた。
そこでピク美が大皿を円卓テーブルに運んできた。
「はいよ~! ご注文の品」
「おお、来た来た!」
皿の上には大きな生肉の塊。
それに何本ものロウソクが突き立てられている。
さらに周りにはご丁寧に血のソースで五芒星の模様が描かれていた。
「これで準備は揃ったわねえん♡」
「ついに始まった惨劇Show 滑り出しは好印象」
「まあそう慌てなさんな!」
あずにゃんは咳払いすると付箋の付いたページを開き、重々しく呪文を唱え始めた。
今は使われていない古の言語であるらしい。
のだが、このジジイが唱えるとどことなく念仏のイントネーションに聞こえてきてしまう。
「なんみょーほー、れんげーきょー、しゃーりーしー、しきふーいーくー……」
「……詠唱ってアクセントとかメチャクチャでもちゃんと効くの?」
「さあ?」
せわしなく口を動かしながら徐々に昂ぶりを見せるあずにゃん。
ワナワナと震わせる手を天に掲げ、最後は雄叫びに近い声を張り上げた。
「破ァ――――ッ!」
その演技がかった仕草に思わずプッと笑いが零れてしまう。
アタイたちは苦笑いで互いに視線を交わし合った。
――――だが、そこで信じられないことが起こった。
雨雲ひとつなかったはずの夜空からピシャリと稲妻が落ちたのだ。
窓から強烈な光が差し込み、その一瞬を昼間のように錯覚させた。
「結構近くに落ちたみたい」
「ちょっとビビったンだわ」
まあでもそれ以外に特に目立った変化は起こらなかった。
「なんや、まーたぬか喜びかい!」
「んな胡散臭い本を信じる方がどうかしてるっての」
「もうやめやめ! 飲み直そうぜ!」
やさぐれたアタイたちは輪になってやけ酒を煽り、人間どもへの愚痴や陰口に花を咲かせるのだった。
~そうして夜が更けて~
時計の針は丑の刻を大きく過ぎようとしていた。
「サンタクロースに散々こき使われて、生きた心地がしなかったのさ……」
「ワイなんてサムライにバッサリ斬られそうになったで!」
「バレンタインなんてクソ喰らえっピ」
「みんな辛い目にあってきたのね。良く頑張ったわね――」
皆がこれまで人間に受けてきた仕打ちを涙ながらにヘミ子に訴えている。
ヘミ子のバブみに包まれていくザコモンスターたち。
「うえええん」
「お姉ちゃん良い人なのさ」
「ようし女! いつかワイらが世界征服した時にはあんさんの命だけは見逃したるで!」
「まあ。とっても優しいのね――」
などと騒いでいると、唐突に玄関扉が開いて異様な風貌の男が来店した。
そいつは青白い顔に焦点の合わない目をして、あーとかうーと呻きながらヨダレを垂らしている。
服もズタボロで腐臭まみれ。
明らかにホームをレスしてる感じの人だ。
アタイたちはこれ見よがしに煙たげな顔を向ける。
「なんだいあんた、店の残飯目当てかい? 金の無い奴に来られても迷惑だよ!」
ピク美がヒラリと男の前に浮遊して小言を言う。
だがその剣幕にも動じず、男はフラフラと体を揺らしている。
……とそのとき、目を疑う出来事が起こった。
突然ガバリと大口を開け、そのままピク美の上半身をバクリと呑み込んでしまったのだ!
「ぎゃあああ!?」
「ちょっなにしてんの! きめえ!」
想定外の光景にギャースカ騒ぐアタイたち!
いくら腹が減ってるにしても、食いつくならもっとマシなもんいくらでもあるだろ!
男の口の先からはピク美の両足がはみ出し、バタバタと苦しそうにもがいている!
その状態のまま、男はゆっくりと腕を伸ばしてアタイたちに向かってきた!
「ひい! こっち来んな!」
「なんなのお前!」
アタイたちは席を飛び退いて壁際まで後ずさりする。
そうして男が近づくと壁伝いに逃げて距離を取る、そんな一進一退を繰り返した。
そうこうしてると男が床に転がるコップを踏み、ツルンと滑って転んでしまった。
グギッ!
嫌な音が響き、倒れたまま沈黙するカニバリズムホームレス。
よく見れば首がありえない方向に曲がっている……。
ひええ!
口内のピク美も既に事切れているのか、完全に動きを止めていた。
「たすけて~~~~!」
ふいに店の外から絶叫が聞こえてきた。
アタイたちは半開きのドアを押して恐る恐る外を覗く。
そしてたちまちに悲鳴を上げた。
なんとバーンズビーンズの街中が大混乱に陥っていた。
逃げまどう人々と、それを追う緩慢な動きの酩酊野郎たち。
住人たちが2手に分かれて壮絶な鬼ごっこを繰り広げているみたいなのだ!
「たすけてくれでやんす~!」
通りの先からギャン泣きのヤンフェが駆けてくる。
おそらく先ほど聞いた悲鳴の主だろう。
アタイは遠目にヤンフェの姿を確かめると、速やかにドアを閉めて鍵を掛けた。
「え? ゴブ子ちゃん――?」
「なにやってるのさ! ヤンフェが助けを求めてるのさ!」
「シッ! ここは見なかったフリ一択だよ!」
面倒事に巻き込まれるのは御免だからね!
ややあってヤンフェがドアに取り付いたようで、激しくノックをしながら泣き叫ぶ。
「開けてくだせえ! このままじゃアンデッドたちに食い殺されちまうでやんす!」
アンデッド……!?
アタイたちは青ざめた顔を見合わせた。
「もしかして……」
「ワイらの呪文が死者を目覚めさせたっちゅうことか?」
「そんなのUnbelievable お気にのコートはReversible」
開かないドアに痺れを切らしたヤンフェは建物の側面に回ったらしい。
そして勢いよく窓を突き破って店の中に転がり込んできた。
ガッシャンガラガラ!
「ひいい……! 助かったでやんす……」
「てめえ! なに勝手に入ってきてんだよ!」
ガラス片を浴びて血濡れのヤンフェに蹴りをぶち込むアタイ。
「大変――! あれを見て!」
ヘミ子が震える指で示す先。
そこには騒ぎの音に反応したのか、路地にいる大量の死者たちがこちらに向かって一斉に近寄って来る光景が広がっていた!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに始まったね、恐怖のハロウィンクエストが!
ゾンビまみれのバーンズビーンズでレベル2のザコモンたちは無事に生き延びることができるのか!?
ホラーが苦手なチビッコたちは今のうちに便所済ませときな!
漏らしちまっても知らないよ?
【第216話 ゴブリンガールはオーブンで焼く!】
ゴブリン・オブ・ザ・デッド――――




