第213話 ゴブリンガールは修羅場を見る!
アタイたちは毎晩キャバクラに出勤し、閉店後はそのまま下の階のホストクラブで散財するという荒れた生活を送っていた。
ていうか系列店の中で労働者でもあり消費者でもあるって、永久機関じゃね?
マチェリーオの罠にはめられてる気しかしない。
でも今を精一杯に生きるアタイたちにはそんなことはどうでもよかった。
努力の甲斐あってキャバクラの客足は次第に増えてきた。
就業前のスタッフルームで化粧を整える嬢たちにボーイのヤンフェが伝達事項を告げる。
「今日は週末なので特ににぎわうことが予想されるでやんす。気を引き締めてほしいでやんす。あとゴブ子殿、タバコはほどほどにしてほしいでやんす」
アタイはヤンフェの顔にタバコの煙を吹きかけた。
「はん。キャバクラで禁煙? バカ言ってんじゃないよ」
「吸うのは勝手ですが客にタバコ代たかるのは控えるでやんす。普通にクレーム入ってるでやんす」
「うるさいね! 金欠なんだよ! だったら給料上げな!」
「業績を上げてから言うでやんす」
……当然ながらアタイの固定客は例のオタクファン以外つかない。
一方でクラリスは続々とオヤジたちの心を掴み、このクラブのエースとしての働きを見せていた。
ハイネもよく当たる占いが話題となり、わざわざ遠くの街から怪しげな成金社長が訪ねてくるくらいの有名人になっている。
だがしかし、スージーには依然としてほとんど指名が入らなかった。
始業ベルが鳴って嬢たちが各々の席へ移動する中、今日もスージーは待合室に残ったまま。
「討論やレスバなら負け無しなのに、どうして接待は上手にできないんだろう……」
落ち込むスージーにマチェリーオ様が優しく囁きかける。
「スージー様。肩に力が入りすぎているようですね」
「オーナー……」
「大丈夫。あなたにはあなたにしかない魅力があるのです。自信をお持ちなさい。さあ、ご指名の殿方が見えておりますよ」
「私に指名? 頑張ります!」
マチェリーオ様に促されてソファー席に向かうスージー。
だが驚いたことにそこで待っていたのは、彼女に片想い中の骨なしチキン勇者、ヒューゴだった!
「え? なんで先輩がここにいるんですか?」
「い……いやァー!? 偶然だだな~! まさかスージーがこんなところで働いてるとは……」
……あいつ絶対念入りに下調べして来たやつだろ。
わかりやすすぎて見てらんないよ。
あまりにも挙動不審なヒューゴだが、それでもスージーは指名をもらえたことが嬉しかったらしい。
稀に見るご機嫌顔で飲み物を作ってやり、それを受け取ったヒューゴも緊張で指を震わせながらもチビチビと飲んでいる。
いつものように会話は弾まないながらも、なんとなく良い感じに寄り添ってるふうにも見える。
しめたね!
これをきっかけにスージーがヒューゴになびけば邪魔な競合者がひとり消えることになるよ!
「思えば先輩っていつも私の傍にいてくれますよね」
「そ! そそそ・そりゃあ! まあね……」
「最近忙しいみたいですけど、また一緒にクエストに行きましょうよ」
「うん……!」
「次の週末なんてどうですか?」
まるでデートの約束をする友達以上恋人未満の男女のよう。
青臭くってこそばゆいねえ!
アタイとオタク客たちはソファー越しに息を潜めて成り行きを見守った。
……だがしかし、
「あれ? ヒューゴ先輩じゃないですか」
なんと通路を通りがかったクラリスがヒューゴの存在に気付いてしまったのだ。
「この前は一緒にクエストに参加してくださってありがとうございました! ギルドのみんなも喜んでましたよ!」
「あ……」
「次の週末も来てくれる予定でしたよね! 頼りにしてますから、先輩!」
スージーは殺気を放った。
「最近忙しいのって、クラリスのギルドを手伝ってるからなんですか?」
「ちょ……! それは……!」
おやおやまあまあ……。
雲行きが怪しくなり始めたねえ。
「ハイベンジャーズって散々私たちを苦しめてきたギルドじゃないですか。どうして手を貸すんですか」
「ちょっと! 私のことは悪く言ってもいいけどギルドに口出しはしないでください!」
ヒューゴを挟んで喧嘩を始めるスージーとクラリス。
キャバ嬢同士の威信を懸けたキャットファイトのゴングが鳴った。
クラリスはヒューゴの肩に手を回しつつ先制攻撃に出た。
「先輩この前嘆いてましたよね? スージーさんとクエストに行っても荷物持ちばかりやらされるって」
「はあ(怒)」
「そっそそれは……ああ……」
スージーも負けじとヒューゴの太ももに手を付いて寄りかかる。
「弱小ギルドの請け負えるクエストなんて低級レベルでしょうから、先輩にはつまらないんじゃないですか。私と行く方が刺激的ですよね。ね? そうよね?」
「は……はひい……」
「チッ!」
気付けばフロア内の全員が結末を見届けようと3人の周りに集まっていた。
「先輩は私といるときの方がリラックスして幸せそうです!」
「私といる方がなんかキモい笑顔で幸せそうよ!」
「どっち!?」
「ねえ、どっちですか!」
ヒューゴは完全に目を回していた。
女に耐性の無い童貞野郎にこのシチュエーションはあまりにも酷すぎる。
見てて辛いからそろそろ解放してやりなよ……。
だがスージーはどうしてもこの場でクラリスをギャフンと言わせないと気が済まないようだった。
「仮にですよ! 私とクラリスが同時にデートに誘ってきたら、先輩はどっちを選ぶんですか!?」
「………!」
核心を突く問いに思わず息を飲むギャラリー。
空気がピンと張りつめる。
……言っちまいなヒューゴ。
面と向かって想いを伝えるにはまたとない機会じゃないか。
その一言で何かが始まるかもしれないし、逆に始まらないのかもしれない。
だとしても恋の障壁を越えていくには勇気を振り絞る以外ないんだよ。
無言のアイコンタクトでヒューゴにエールを送るアタイ。
しばらくして、ついにヒューゴは口を開いた――――。
「でも仮にデートしても、スージーは俺のこと好きにはならないよね……?」
……………。
………!?
マジかよこいつ……!
この骨なし童貞ポークビッツ野郎、ヒヨリかましやがったよ!
ビシッと決めるべきところを、あろうことか質問に質問で返すとかさあ!
お前それでもタマ付いてんのか!?
煮え切らない返事にスージーがキレた。
勢いよく立ち上がり、手に握りしめていたコップの中身をヒューゴに浴びせ掛ける。
バシャリ!
「そんなこと! 試してみなきゃわからないじゃないですかーッ!」
「ヒイイー!」
「ちょっとぉー! 先輩がかわいそうー!」
スージーに飛び掛かるクラリス。
2人はもつれて転がり、テーブルがひっくり返ってガラス片が舞う。
死闘を繰り広げる女子たちの脇で縮こまってブルブルと震えるだけの情けないポークビッツ。
どうやって収拾付けんのこれ!
騒ぎを聞きつけて下の階からホストや女性客たちがゾロゾロとやって来た。
「スージーさんにクラリスさん。どうしたんですか?」
「も~喧嘩は良くないって~! 悩み事なら俺が聞いてやるからさ☆」
同じ空間にホストとキャバ嬢、そしてそれぞれの商売客たちが集結するという濃すぎる絵ヅラ。
そこでついにこの事態の責任者、マチェリーオが鶴の一声を上げた。
「こうなってしまえば仕方ありません。本日は臨時休業としましょう。申し訳ありませんが、お客様はお帰りの準備をなさってください」
しかし、偶然にもその宣言の直後に玄関扉が開いて何者かが入店してきた。
カランカラン♪
「本日の営業は終了いたしました」
「構わないよ~! ウチらは客じゃなければ男漁りをしに来たワケでもないからねえ~!」
その聞き知った声に思わず振り返ると、なんとそこに仁王立ちしていたのはピク美のババアとサキュバス嬢たち!
「ふっ。どうやら招かれざる客のようですね」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ここでピク美のババアかよ。
こいつら何しに来たん。
え? マチェリーオの正体を暴く?
そういやそういう趣旨だったんだっけ。
【第214話 ゴブリンガールは街コンする!】
ぜってぇ見てくれよな!




