第212話 ゴブリンガールはキャバクラする!
「ほらほら! ボサッとしてないで指名通りに席についてほしいでやんす!」
ヤンフェに急かされてアタイたちは店内に散らばった。
「ども~……」
アタイがついた席にはチャック柄のシャツに瓶底メガネのモヤシ男どもがいた。
あれ?
このいで立ち、なんか既視感あんな……?
「んほぉ~! ホンモノのゴブリンガールですぞ~!」
「拙者昂ぶって参りましたぞ! ふんふん!」
……あれだわ。
大昔にアイドルやってた時についたコアなオタクファンだわこいつら。
※詳しくはサイドクエスト【アイドルになる!】(第41話~)を参照。
世の中にはとんでもない物好きもいたもんだね。
まあだからといってありがたい気持ちが湧くワケでもない。
アタイは舌打ちをするとドカッとソファーに座って足を投げ出した。
「酒は自分で適当に作って飲みな」
「ハイ!」
「作らせていだたきますぅ!」
せっせと氷を割ってグラスに移すオタクどもを尻目に、アタイは他の席の様子を見てみた。
クラリスは一回りも二回りも年上のオヤジたちを相手にしているらしい。
「はいどうぞ! ロックの水割りです!」
「ありがと~! ……ん? うわっ生臭いぞこれ!」
「わわっ! お酒と間違えて雑巾のしぼり汁を入れちゃったみたいです!」
まーた異次元級のドジをやらかしてるみたいだねクラリスは……。
だがオヤジたちからしたら若い娘が失敗に慌てる様も可愛らしく見えるのだろう。
鼻の下を伸ばして優しく笑い飛ばす。
「いいよいいよ~! クラリスちゃんは頑張り屋さんだねえ~!」
「はい! 皆さんが楽しく過ごせるように精一杯頑張ります!」
一方ハイネの席にもたくさんの男たちが集まっている。
テーブルの上にタロットカードを並べてひとりずつ運勢を占ってやってるらしい。
「あなたは近い内に事故に遭って全身骨折するみたいです」
「えっ!?」
「あなたはギャンブルで全額失うようですね」
「そんなあ。逆にどうやったら一山当てられるの?」
「残念ですが祈祷師の視る未来は確定した出来事だけなので……」
不吉なことばかり予言してるようだが、それなりに盛り上がってはいるみたいだね。
ああいう小技がひとつあるだけでもだいぶ人気出るんじゃないの。
ふいにネットリとした歓声が上がったのでそちらを見やると、オネエふうの男たちが集まっている一角があった。
その中心でタジとゴンザレスが半裸になってポールに絡まりストリップダンスを披露していた。
「あらやだ~!」
「どんだけ~!」
盛り上がりは最高潮。
客たちも脱ぎだしてみんなで和気あいあいと踊っている。
良く見たらヤンフェも参加して激しくケツを振っていた。
「朝までノンストップやんす~!」
「ヒューッ!」
「はいドドスコスコスコ♡ ドドスコスコスコ♡」
なんでゲイバーが併設されてんだよ!
これどういうコンセプト?
せめて仕切りかなんかでフロア隔てるくらいしろや!
とまあ、なんだかんだでみんな接客業を奮闘している中、ひとりだけ行き詰っている女がいた。
スージーである。
スージーは見た目は良いのだが、トークがまずい。
生徒会長みたいな堅苦しい性格が災いしてるみたいだね。
なにせ酒を作りながらアルコールの危険性について説き始めるのだ。
「年間に何万もの人がアルコール中毒で救急搬送されているんですよ。このバーンズビーンズの街だけでも、1日に数人は酒で倒れているという報告もあります」
「そ、そうなんだ……。それよりスージーちゃんはどんな男がタイプ?」
「話を逸らさないで! しかるべき機関が行った研究によると、酒類の過剰摂取による健康被害は年々高まっているのよ! 私たち町民が行政に声を上げるべきじゃないですか?」
こんな奴の隣でおいしく酒飲めるはずないじゃん。
客たちはクモの子を散らすようにして帰っていった。
ポツンとソファー席に取り残されるスージー。
「なんで私ばっかり……。恋も仕事も上手くいかない。こんなのもう嫌!」
不憫にも目に涙を溜めてしまった。
自業自得ではあるものの、なんだか胸が痛くなっちまったね。
見かねたアタイはそっと席を立ち、スージーの手を引いて裏手へと連れ出した。
非常口のドアを開けると外階段の踊り場に出る。
「あんた何やってんの。客のご機嫌取るのが仕事だろ?」
元気なくうくつむスージーの隣でアタイはタバコの火をつけた。
ぬるいビル風が2人の体を撫でるように流れていく。
「……やっぱり私にキャバ嬢なんて無理だったのよ。キャラじゃないし」
「なに弱気なこと言ってんだい。つまらない失敗で簡単に挫けてんじゃないよ」
いつもは忌々しいお邪魔虫のスージーだけど、こんな姿を見せられたら調子狂っちまうじゃないか。
そこで控えめにドアが開き、嬢たちが心配そうに顔を覗かせた。
「スージーさん、負けないで。私たちも側にいます」
「へん、お前の根性はその程度だったのかよ?」
「どんなに辛いことがあっても前を向いて歩くのだ!」
「みんな……」
そんな中でクラリスは腕を組みそっぽを向いていたが、やがてハンカチを取り出してスージーに突き出した。
「……はやく涙を拭かないと、化粧崩れちゃいますよ」
「クラリス……」
性格も境遇もまったく違うけれど、アタイたちはひとりの男の子に恋をし、そしてこの店に集まった。
これまでは互いを憎しみ、足を引っ張るだけだった。
だけど、たとえ恋仇だとしても、潰し合うんじゃなく高め合う関係にもなれるはずだよね。
それがライバルじゃん!?
いつか必ず良い女になって、シブ夫を振り向かせる日が来る。
そのときに選ばれるのはひとりだけだけど……。
それまでの間は、アタイたちは同じ目標に向かうライバルであり仲間だよ!
アタイたちはうなずき合うと円陣を組んで気合を入れた。
「っしゃあいくぞオラああ!」
「女磨いたるでえ!」
「見とれようおああああ!」
扉を蹴り開けてフロアへと戻るアタイたちをオヤジどもの歓声が出迎える。
その様子を影から見守っていたマチェリーオが優しくほほ笑んだ。
「ふっ……。どのような鉱石でも丹念に磨き続ければダイヤに負けない輝きを持ちます。いやはや、彼女たちはどのような色を放つのでしょう。磨き甲斐があるというものです」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
なんだこれ。
【第213話 ゴブリンガールは修羅場を見る!】
ぜってぇ見てくれよな!




