第207話 ゴブリンガールは夏祭りする!
崩壊の続く氷城の中で神々しく炎をまとう妖怪・アオサギビ。
相対するバンベエとシャーノンは既にスタミナを消耗しきっている。
「俺の手元に残ってんのは尺玉ひとつだけでい!」
「私も冷気をあと一撃飛ばすのが限界ね……」
終わった。
たったこれだけの手数で何ができるっていうんだい。
火の鳥の業火に焼かれるのが先か、はたまた崩れ落ちた氷の城に押し潰されるのが先か。
儚い生涯だったねえ……(涙)
「てやんでい! まだ手はあらあ!」
バンベエは最後の尺玉を手筒に装填する。
「おい雪女! テメエと手を組むのは気が進まねえが、こうなりゃ仕方ねえ!」
「あら、何か策があるの……?」
「あたぼうよ! 俺の打ち出した玉にありったけの魔力を込めて凍らせろい!」
はあ、なんで花火を凍らせるんだい?
そんなことしたら火と氷が打ち消し合ってなんにもならないじゃないか。
さすがの江戸っ子男児も絶望を前にしてトチ狂っちまったようだねえ!
バンベエは両腕に手筒を抱いて発射体勢をつくる。
その脇にシャーノンが立って援護の構えを取った。
「ド派手に決めてやるぜい! いっぱぁつ!」
ドン!
ヒュルルル~!
勢いよく飛び出した尺玉は光の尾を引きながら一直線に飛んでいく。
「スノウフレーク……!」
シャーノンの振るった腕から冷気が飛び、それは狂いなく直進する花火玉に追突した。
表面に氷の膜が広がり、瞬く間にカチカチと厚みを増して人間の頭大の氷塊にまで膨らんだ。
「くっ……」
力の尽きたシャーノンはその場にガクリと膝をつく。
一方バンベエの瞳は炎を滾らせるようにして紅蓮色に輝いた。
「たぁまやー!」
バチン!
指を鳴らすのと同時に火薬が内から爆発し、氷の表層が砕けて強烈な勢いではじけ飛んだ。
――――このときバンベエは、氷を溶かさないよう火薬の熱量を抑え、代わりに爆破力を限界まで強めるように魔力を調整していた。
それによって氷塊は無数のガラス片のようになって四散し、360度に放たれた。
「グエーッ!」
鋭利な刃と化した氷の礫がアオサギビの全身に突き刺さり、肉を貫く。
これは氷属性の斬撃を全身に浴びるのと同じ。
断末魔の雄叫びを上げ、火の鳥は力なく地面に墜落してしまった。
こいつは驚いたね!
花火を氷攻撃のアシストとして使うだなんて!
ただの脳筋野郎かと思ってたけど見直したよ!
喜びのあまり両手を上げてハイジャンプするアタイとジョニーとスラモン。
……だが、のほほんと勝利を祝っている余裕はなかった。
城の崩壊が進み、とうとう天井が落ちてきたのだ!
「何ボサッとしてんでい! 脱出だ! ついてこい河童ども!」
バンベエは横たわるシャーノンを肩に担ぎ上げるとアタイたちを振り仰いだ。
ひええ!
せっかくここまで来たのに生き埋めのバッドエンドなんて御免だよ~!
………――――。
~それから数日後~
丘を下った麓の村では待ちに待った夏祭りが開かれていた。
列を成した赤ちょうちんが頭上を照らし、太鼓の音頭に合わせて村人たちが踊り狂う。
アオサギビを退治したことでもう供物を捧げる必要もなくなった。
おかげで余計な気遣いもなく、みんな心から催し物を楽しめているようだ。
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
バンベエの手がけた花火も夜空に打ち上がり、いくつもの色鮮やかな大輪を咲かせている。
ヒュルルル~……。
ドドン! パチパチ……。
「はえ~」
「なかなかに風流なもんじゃないのさ」
もう花火なんて懲り懲りだと思ったけど、こうして遠くから眺める分にはまた別の見応えがあって良いもんだね。
見入っているアタイとジョニーとスラモンの背後では、浴衣姿に着替えたシャーノンがブツクサとぼやいていた。
「うるさくて眩しくて、こんなの暑さに拍車を掛けるだけじゃない……」
うんざり顔でうちわを扇ぎ、冷やしパインを口に突っ込んでいる。
するとそのぼやきを聞き取ったのか、どこからかバンベエが現れて彼女の前に無言で立ち塞がった。
「………」
「なによ……?」
また怒鳴りだすのかと思ったが、予想に反してバンベエはニカッと笑い、なにか糸くずのようなものを取り出した。
上の端をつまんでシャーノンの目の前にぶらりと垂らし、逆の手でパチンと指を鳴らす。
すると糸くずの下端に控えめな丸い火が灯った。
「わあ」
「線香花火だ」
アタイたちもシャーノンの脇に並び、取り囲むようにして小さな火球を見守る。
ジジジと火花を飛ばして震える様がなんとも愛おしい。
だがややあってポツッと地面に落ち、儚くも色を失ってしまった。
「あっ……」
しーん……。
「テメエら夢中になって見つめてたぜい。どうでい。暑苦しさなんぞ忘れちまってただろう?」
「あっ。そういや確かに」
「夏は暑くて当然! 暑いままでいいんでい。それをどう工夫して快く過ごそうか。そういう心意気を大事にすんのが小粋ってもんよお!」
心なしか、シャーノンの仏頂面がいくらか和らいだように見えた。
ふん、花火師と雪女なんて犬も食わない組み合わせだと思ったけど、割と相性良かったんじゃないの。
アタイは今回も傍観してただけだったけど、妙な達成感を得られて気分が良いね。
さて、真夏のシーズン&和風クエスト、これにて完結。
めでたしめでたし。
……となる前に!
村人どもから報酬をいただくのを忘れちゃいけないねえ!
寒波を止めるだけじゃなくオプションで火の鳥まで倒してやったんだ。
こりゃあ弾むに違いないよ!
ぐへぐへと顔をほころばせるアタイ。
だがしかし、騒いでいた村人たちは不自然に静まり返り、バツが悪そうに口を開いた。
「実はなあ、村の危機はまだ去ってねえんだべ」
「追加で別のクエストも頼まれてくれたらまとめて支払いすっからよお」
「は?」
嫌な予感!
「補助金欲しさに他の移住者を募ったらよ、雪女よりもーっとやべえ妖怪が越して来ちまっただよ」
「そいつも退治してくんねえと、この村はおしまいだあ!」
顔を覆ってさめざめと涙を流す村人たち。
てめえら学ばねえなあ!?
「うわダル……。私はパス……」
「へん! 祭りが終わりゃあ用はねえ! あばよ!」
足早に立ち去る勇者たち。
ちょっと待ちな!
アタイらザコモンだけでこっからもう一戦なんて無理ゲーだっての!
ええい、どうやっても無報酬オチに持ってきたいみたいだねえ!
もう二度と妖怪クエストなんか受注してやんないかんな!
べらぼうめえーッ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
なんだか妙に街中がざわついてると思ったら、ホストクラブとかいう夜の店がオープンしてたらしいよ。
毎晩女たちが押し寄せて大繁盛なんだとさ。
カッコ付けのキザ男なんぞに興味は無いけど、バーンズビーンズの風紀を乱されるのは見過ごせないねえ!
いかがわしい連中じゃないかアタイが調べてやるとしよう!
揺るぎない正義心とほとばしる下心を胸に店内へと足を踏み入れたアタイ。
すると客の中にちらほらと見知った顔の女勇者たちがいて……!?
メインクエスト【ホスト狂いする!】編、始まるよッ!
【第208話 ゴブリンガールはホストと出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




