第206話 ゴブリンガールは粉塵爆発する!
「着火着火着火ア!」
「はあ……うるさいわね……」
依然として激しい攻防戦を続ける花火師バンベエと雪女シャーノン。
花火が飛び交い雪の結晶が舞う。
だがアタイとジョニーとスラモンは早くもこのサドンデスミュージカル鑑賞に飽き始めた。
「小腹空いたなー。なんかないの?」
「ガチャで引いたホットケーキミックスあるけど?」
「焼くなら卵と牛乳が必要なンだわ」
ちっ。
こんな氷の城の中じゃあ調達できそうもないね。
「あの氷漬けの鳥モンスター、卵とか産んでないかな?」
シャーノンの力によって氷に閉じ込められ、そのまま空気と化していた妖怪アオサギビ。
その周囲を物色してみるが目ぼしい物は見つからない。
「ていうか卵あっても牛乳無いし……」
「氷の溶け水で作っちゃう?」
「マズそうなンだわ」
粉袋を前にアレコレと首をひねってみる。
するとそんなアタイたちに戦いの流れ弾が飛んできた!
「ウワーッ!」
ジョニーは火の粉を浴びて頭に火が付いてしまい、逆にスラモンは冷気を浴びて半分固形の氷状態になった。
「ったく仕方ないね」
アタイは氷スラモンを拾い上げるとジョニーの頭に乗せてやった。
湯気を出して状態異常が回復する2人。
なかなか便利なもんだねえ。
ウンウンとうなずいていると、今度は火花と冷気が一直線にアタイに迫ってきた!
ひやああ!
アタイはとっさに粉袋を持ち上げて盾代わりにする。
すると直撃を受けた袋が破裂し、周囲にホットケーキミックスの粉が広がった。
煙幕のように空間を漂う粉の中でバンベエがニカッと笑う。
「地勢が味方に付いたな! この勝負、もらったぜい!」
胸の前で印を結び、その指を大きく弾いて鳴らした。
バチン!
するとどうしたことだろうか、バンベエの周りに突然火の手が上がり、それはとぐろを巻くようにして城の広間全体に燃え広がった!
何が起こったってんだい!?
「これは……粉塵爆発……!」
――――ホットケーキミックスの成分は小麦粉を主体とし、それに砂糖やベーキングパウダーが加えられている。
これらはどれも可燃性の粉体。
高密度で浮遊する粉に火が付くと、それが連鎖的に燃焼して大爆発を引き起こすことがある。
それが粉塵爆発なのだ!
ちなみにこうした現象は木くずや金属粉などでも起こるという。
みんなも火遊びをするときは必ず野外で行い、十分な風通しがあるかを確認しよう!
氷のフィールドはシャーノンに有利だったが、ホットケーキミックスのおかげでそのバランスが崩れた。
ここぞとばかりに魔力を注いで火の勢いを強めるバンベエ。
「うりゃあああ! 燃えてきたぜい!」
熱によって氷の柱や床が溶けて、城はゆっくりと崩壊を始めた。
このバカ!
加減ってもんを考えな!
このままじゃみんな瓦礫に潰されて生き埋めになっちまうよ!
……だが、それ以上に恐ろしい問題が起こってしまった。
異様な地鳴りと振動が始まり、それに混じって轟く獰猛なケモノの唸り声。
音のする方を見やれば、なんとアオサギビを覆っている氷塊にピシピシと亀裂が走っていく。
「まずいわね……。火の鳥が眠りから覚めるわよ……」
「ええ!?」
「あいつ死んでたんじゃないの!?」
「いいえ。動きを封じていただけ……。氷が溶ければまた動くどころか、休眠していた分だけ力を蓄えてより凶暴化するでしょうね……」
そういう大事なことは前もって教えといてくんないかな!?
それなら悠長にお前らのバトルなんか見物してないでさっさとトンズラしてたわ!
バーン!
ついにアオサギビは氷を砕いて勢いよく飛び出し、宙に翻った。
真っ青な翼が羽ばたくたびに高温の火の粉が周囲に舞う。
その姿には不死鳥のごとき貫禄がある。
くそったれ!
これまでの戦いで勇者たちは疲弊してるってのに!
こっからさらに大型魔獣戦に移行とか、勘弁してよ!
「下手こいたな! こいつはちいとばかし厄介だぜい!」
「はあ、ダルい……」
アオサギビの翼が起こすつむじ風が強烈な熱波となって襲いくる。
シャーノンは氷の壁を生成して耐え、一方バンベエは飛び退いて回避しつつ花火弾を打ち込んだ。
だが火属性に火属性では有効なダメージには至らない。
いや、それどころかアオサギビは熱を帯びてますます勢いを上げるようだ。
「奴には氷属性が弱点のはず! シャーノン! あんたの必殺技をお見舞いしてやんな!」
「無理よ……。もうほとんど魔力を使い尽くしちゃったもの……」
はあ!?
この大事なときにガス欠とか、ペース配分考えとけよ!
シャーノンはその場にパタンと尻餅を着く。
「ふわあ。眠い……。あの鳥も目覚めたことだし、入れ違いに私は寝るわ。春になったら起こして。じゃ……」
「この危機的状況で冬眠しようとすなー!」
「ったくふてえ野郎だぜい! テメエの後始末はテメエで付けろい!」
「なによ……。あいつを溶かし出しちゃったのはそっちでしょ……?」
アオサギビそっちのけで睨み合う勇者たち。
この期に及んで余計なエネルギー使おうとしてんじゃないよ!
あんたたちが手を取り合わないでどうやってこの妖怪を退治するってんだい!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
関係ないけど今年(2023年)の酷暑やばすぎない?
なんか観測初めた100年間の中で一番過酷だとか。
みんな熱中症なってない? 水分飲みな。
でもコロナも落ち着いたし花火大会も各地で再開してるらしいね。
やっぱ真夏に眺める打ち上げ花火は格別だねえ!
【第207話 ゴブリンガールは夏祭りする!】
ぜってぇ見てくれよな!




