第204話 ゴブリンガールは扉開ける!
襲い来る雪だるま軍団の猛攻を凌いだアタイたち。
次第に雪深くなっていく道中を進み、目的地である小丘をえいこらと登っていく。
すると視界をちらつく粉雪の向こうにとんでもなく巨大な影が佇んでいるのに気が付き、思わずその目を疑った。
「あれは……、氷の城!?」
高台に見上げるほどの立派な城が立っていたのだ!
その外観はまるでおとぎ話に出てくるシンデレラ城。
刺々しく天へと伸びる三角錐型の塔がいくつも並び、そのどれもが半透明の美しいクリアブルー色に統一されている。
アタイたちはやがて城の門まで行き着いて、改めてその壁面がすべて氷で造られていることを知った。
「ふざけんじゃないよ! こんなんそこらの妖怪に作り出せる代物じゃないだろ!」
ていうか雪女のクセになんで城は西洋風?
この前の「雪だるまつくろ♪」といい、明らかに寄せていってんだろ!
何にとは言わない(言えない)けどなあ!
アタイは早々に西洋雪女のもとへ殴り込みに行こうとした。
だが氷の門が固く閉ざされていてビクともしない。
「しゃらくせえ! ドカンと風穴開けてやらあ!」
荒々しく手筒を構えるバンベエだったが、それをジョニーとスラモンが止めた。
「まあ待て。物事には作法ってもんがある」
「そんな物騒なもの出さなくても俺たちが華麗に突破してやるンだわ」
そう言うと2人はコホンと咳払いして門に近づく。
そして互いの目を見やってうなずき合うとリズミカルにノックした。
コンコンコン♪
「とびら開け~て~♪」
「飛び出せる~よ~♪」
輝くスマイルで手を取り合い、氷の玄関口をステージにステップを踏み始める2人。
晴れやかでウキウキとした歌声が辺りに広がる。
陽気なリリックに釣られて雪ウサギがヒョコリと顔を出し、小鳥たちが頭上を駆け抜けた。
……唐突に始まったミュージカルふう茶番劇。
ちなみに知らない読者のために解説しとくと、数年前に世界的ブームを巻き起こした氷の女王がレリゴーするアニメ映画のワンシーンを模している。
「ふたりだか~ら~♪」
スラモンが助走を付けて氷の床に飛び込み、回転しながらツルツルと滑っていく。
それを受け止めたジョニーと絡まり合い、そのまま2人は手を繋いで組体操のアーチのようなポーズを作った。
「ねえ、おかしなこと言ってもいい?(セリフ調)」
「もち……」
ドカン!
バンベエの放った炸裂花火がジョニーとスラモンともども氷の門に直撃して爆散した。
「クソみてえな時間取らせやがって! すっこんでろい!」
激昂するバンベエに併せてアタイもツバを吐き捨てた。
パロるにしても相手を選びなボケどもが!
天下のデ○ズニー様を怒らせたらタダじゃ済まないんだよ!
冗談抜きで消されっからな!?(サイトから)
あんたたちは反省してそこらで転がってな!
開いた穴をくぐって城内に入ったアタイとバンベエは怒り心頭でズンズン奥に進んでいく。
するとさっそく城の主の声が出迎えた。
「いらっしゃい……。待ちくたびれて二度寝するところだったわ……」
消え入りそうなか細い女の声。
それは聞き方によっては恨めしい囁き声にも聞こえる……。
顔を上げると、氷でできた螺旋階段の中腹にひとりの女が佇んでいるのが見えた。
淡い青色のポンチョを身にまとい、色素の抜けた髪をなびかせる。
大きな瞳は半分ほどまでまぶたが下がり、その表情は眠たげなのか、はたまたすっかり生気を失っているかのように伺えた。
どうやらこいつが例の雪女で間違いないみたいだよ!
……しかし、アタイはその女の姿に見覚えがあることに気が付いた。
「まさかあんたは……! 雪山暮らしの魔勇士、シャーノン!?」
「あら……。誰かと思えばいつぞやのゴブリンガール……」
シャーノンは年中吹雪の過酷な雪山でロッジの管理人をしていた女。
呼び込んだ登山客に法外な値段の日用品を売りつけて荒稼ぎをする銭ゲバ勇者だ。
いつかこいつの主催した雪合戦クエストで散々な目に遭ったことを思い出し、アタイの背筋はことさらに薄ら寒くなった。
※シャーノンについてはシーズンクエスト【雪合戦する!】(第109話~)を参照。
雪女の正体ってこいつだったん!?
ふざけんじゃないよ!
妖怪でもなんでもないじゃないのさ!
「知らないわよ……。村人たちが勝手にそう呼び始めたんだから……」
「やいシャーノン! なんであんたがこんなとこに越してきてんだい!」
「決まってるでしょ……。僻地に移住すると国から補助金が出るからよ……」
こいつも補助金目当てかよ!
ったくどいつもこいつもよお!
「廃村寸前の片田舎といえば避暑地と相場が決まってるのに、予想と違ってバカみたいに暑いんだもの……。仕方ないから魔力を練って雪を作り出していたの。止まらなくなって、ついついお城を建てちゃってたわ……」
「ついついで建てちゃうレベルの建造物じゃないんだよ!」
そこで話を聞いていたバンベエが怒号を上げた。
「こんのすっとこどっこい! 自分勝手に他人様を巻き込むな! 暑くなきゃあ祭りもねえ! 祭りがなきゃあ花火も飛ばせねえだろうが!」
「何よこの男……。聞いてるだけで蒸し暑くなる声量ね……」
ギロリとガンを飛ばすバンベエに冷ややかな視線を返すシャーノン。
一触即発の状況。
だがそこでアタイの目がとある異物の存在を捉えた。
シャーノンの背後に不自然に大きな氷の塊がどっかりと鎮座している。
うっすら鳥の形をした氷の彫刻かと思ったが、どうやら違うらしい。
本物のモンスターが氷漬けにされているようなのだ!
「なんだいあのバケモノは?」
「あいつは確か……。炎を操る鳥の妖怪、青鷺火だぜい!」
~青鷺火(討伐推奨レベル37)~
青白く発光する鷺の妖怪で、口から炎を吐いて木々を燃やす。
火事の際に度々目撃され、この鳥の飛翔した範囲が特にひどく延焼すると言われる。
妖怪? アオサギ?
……まさかこいつが村人たちを苦しめていた『火の鳥』の神様だったりして?
「俺と同郷の出のモノノケでい。いつからか大陸に渡り住んでいやがったのか」
「シャーノン! なんでそいつがそこで氷漬けになってんだい!」
「ああ、これ……。城を建てるのにぴったりのロケーションに居座ってたの。ウザかったから凍らせておいたわ……」
ウザいで片付けられるレベルのバケモンじゃないんだよ!
いい加減にしな!
ちょっと待ってこの雪女最強じゃね?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
続けざまに雪女と火の鳥の正体が判明したよ!
あとはこいつらをまとめて始末すれば早々にクエスト完了だね!
一気に終わらせちまおうじゃないか!
さあシャーノン、観念しな!
戸惑い傷つき、誰にも打ち明けずに悩むのはもうやめよう!
ありのままの姿見せるのよ!
【第205話 ゴブリンガールは少しも寒くない!】
少しも寒くないわ――――。




