第202話 ゴブリンガールは花火師と出会う!
ようみんな!
元気してた?
あれ? なんかめっちゃ久しぶりな感じしない?(笑)
なんだかひと月くらい何者かに主人公の座を奪われてたような気がするんだけど気のせいかな。
※詳しくはサイドクエスト【乗っ取られる!】(第196話~)を参照。
不思議なこともあったもんだねえ。
不思議といえば、最近妙なウワサ話があってね。
なんでもとある村で気象が狂うっていう怪奇現象が起こってるらしいよ。
邪悪な魔物の悪事に違いないと、ドンフーの旦那に呼び出されたアタイとジョニーとスラモン。
ひとまず調査に向かえとの指示を受けて、そのままグリタ平原にほっぽり出されたのだった。
季節は真夏。
ジリジリと照り付ける日射が容赦なく体の水分を奪い去る。
何時間もさまよい続けて汗すらも枯れ果てたころ、とうとう地図に書かれた村に到着することができた。
だが既にアタイたちは死ぬ寸前だった。
「目の前が……かすむ……」
「おかしいぜ……暑いはずなのに体が震えて……」
「悪寒が止まらないンだわ……」
脱水症状のひとつだろうか?
限界を超えた暑さに自律神経がイカれてしまったのかもしれない。
ガチガチと歯を鳴らして身を寄せ合うアタイたち。
「あれ……? なんか吐く息が白くない……?」
こりゃあ傑作だね。
夏場だってのに白い息を吐けるはずがないじゃないか。
死を前にしていよいよ幻覚まで見え始めたみたいだよ。
そこでようやく村人たちがこちらの存在に気付き、心配そうに駆け寄ってきてくれた。
だが男たちの姿には奇妙な違和感があった。
なぜならみんな揃って厚手の防寒着を身にまとっていたからだ!
「わざわざ遠くからご苦労さんだべなあ」
「ところでおまいさんたち、そんな薄着で寒くねえのかい?」
はあ?
ちょっと待ちな!
ってことは、この寒気はアタイたちの勘違いじゃなく……?
村人は無言で手中にあった気温計を掲げた。
驚いたことに、示された針は氷点下を指している!
……男たちの話によると、村を襲っている怪奇現象とはまさにこの異常寒波のことだったらしい。
こいつは一体どういうことだい!?
「雪女のせいだべさあ」
「雪女だあ?」
「んだんだ。近頃ここいらに越してきて、見境なく冷気を放って夏を冬に変えちまっただ」
ったくなんだいその迷惑極まりない女は!
季節外れもいいとこだよ!
そもそもどうして妖怪の類がこんな人里近くに降りてきてんだよ!
「わしらが呼んだからだべさ」
「はあ!? なんで!」
「村おこしの一環でな。一定数の移住者を呼び込むと国から補助金が出るだべさ」
そうしてニタリと笑って懐からチラシを取り出す。
そこには【田舎で憧れのスローライフ! お試し移住体験プログラム!】の文字が……。
「せっかく呼ぶなら若えねーちゃんの方がええしなあ?」
「おまけに雪女ならこの猛暑をいくらか和らげてくれるだろうと」
「だけんど、ここまで寒くなっちゃあ話が違え」
村人たちはさめざめと涙を流して顔を覆う。
「これじゃ毎年恒例の納涼祭も中止だべさあ……」
「浴衣も花火も盆踊りも……。村で唯一の娯楽だってのに!」
アタイらはブチギレた。
「祭りくらい我慢しろや!」
「自分らで蒔いた種じゃねえか!」
「んな理由で呼ばれた挙句退治される妖怪の方が不憫なンだわ!」
確かにこの寒さは身に堪えるが、家に籠ってりゃやりすごせるだろ!
時代遅れの風習ばかり優先してないで、こんな僻地にわざわざ移住してくれた魔物と共存する努力を見せてみな!
そんなんだから地方の村民性は排他的だなんて揶揄されるんだよ!
怒りに任せてギャースカ喚くアタイたち。
だがしかし、まだこの話には続きがあったらしい。
「祭りを開けねえと大変なことになるんだべさ。火の鳥様がお怒りになって村を燃やしちまう!」
――――この村には古くからの言い伝えがある。
この地域には火の鳥を模る神様が住んでおり、毎年供え物をして盛大に祀ってやらないといけない。
でなければヘソを曲げて災いを引き起こすのだとか。
その伝統行事が夏祭りの形となって今なお引き継がれているというのだ。
「うわ。なんかメンドクサイ話になってきたよ」
「雪女に火の鳥ねえ……」
どうせどっちも倒す流れになるんじゃないのこれ。
勘弁してよ。
疲れきった顔を力なく寄せ合うアタイたち。
「こなったら……、ガチャを引くしか……」
「はあ……」
「引けよ。俺らは止めねえよ」
アタイはスマホを取り出すとため息交じりにタップした。
出ろよSSR。
どうせ出ないだろうけどさ。
虹色の光が辺りを照らし、次の瞬間に現れたアイテムは……。
~ホットケーキミックス(使用推奨レベル3)~
小麦粉に砂糖やベーキングパウダーなどを調合した粉末材料。
手軽に美味しくホットケーキを焼き上げることができる。
やっぱ出ないわ。
クソが。
アタイは乾いた舌打ちをして村人たちに振り向いた。
「卵と牛乳ある?」
「それで何をするんだべ?」
「決まってんだろ? パンケーキを喰うんだよ!」
そのときだった。
村の入り口の方から何やら男の騒ぐ声が聞こえてくる。
「祭りが中止たぁどういうことでい!? こんのべらぼうめえ!」
ズンズンと足音を鳴らしてアタイらの前までやってきた男。
腹にサラシを巻いて法被を羽織り、ツンツン髪を逆立てるようにねじり鉢巻きを付けている。
そして極めつけは両肩に背負う細長い筒。
その表面には縄がグルグと巻かれ、【花火】という封紙が貼られている。
「俺は花火師のバンベエ! 祭りと聞いて駆け付けたってえのに、花火のひとつも打ち上げらんねえとは笑止千万! 俺を怒らせるんじゃねえぜい!」
一息にまくし立てると、目の前で縮こまっているアタイたちをギロリと睨んだ。
「河童にシャレコウベに水まんじゅうだあ……? 盆だからってそこかしこで雑魚が湧きやがる!」
「ひええ……!」
「へん! テメエらよく燃えそうじゃねえか! その血で夜空を彩ってやろうか! てやんでい!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
今年の夏は妖怪クエストの第4弾!
巫女やサムライ、忍者に続き、お次の和風勇者は江戸っ子花火師!?
ていうか毎回訂正させられるけど、アタイは河童じゃねーから!
こんなんで邪悪な雪女を黙らせることができんのかい!
【第203話 ゴブリンガールは雪だるま作る!】
ぜってぇ見てくれよな!




