第197話 ゴブリンガールはくらえ正義の鉄槌! エキセントリックアタック!
曲がりくねりのツヅラ坂――――。
それは荒れくれ者のライダーたちの巣窟。
中でも一際大きな体格をしたスキンヘッドの男がアタイたちにちょっかいを出してきた。
「うへへ……! 嬢ちゃんたち、そんなピカピカの一輪車持って何しにきたんだい? ここは女児の遊び場じゃねえぞ!」
「ぴええ……!」
涙目になってガタガタ震えるアタイたち。
するとケンが熱いまなざしをして立ちはだかった。
「弱い者イジメなんてダサすぎだぜ! ケンカを売るなら正々堂々と一輪車で戦ったらどうだ!!」
「ナニィ!?」
スキンヘッドの取り巻きたちがギャースカと騒ぐ。
「この峠を仕切ってるボンバイエたけし様に楯突くとは!」
「何者だ! 名を名乗れ!」
「俺の名前はケン! 逃げも隠れもしないぜ! おもしろカッコイイぜ!!」
ボンバイエたけしはこめかみに怒りの血管を浮き上がらせてケンを睨む。
そんなボンバイエに取り巻きのひとりがそっと耳打ちした。
「ケンといやあ最近ここらで名を上げている新顔ライダーですぜ。なんでもこの前奴の相手をした男が惨敗した挙句に全治数週間の怪我まで負ったとか……!」
場にどよめきが広がる。
「どうした? 怖気付いてんだぜ!?」
「調子に乗ってんじゃねえ! お前ごとき俺様がひねり潰してやらあ!」
かくしてボンバイエとケンの一騎打ちが行われることになった。
峠中のライダーたちがその戦いを一目見ようとコースに集まってくる。
ケンが試合前のメンテナンスをしているとギャラリーの中からひとりの美女が飛び出した。
「ケンちゃん!」
「純裏愛。お前こんなところで何してるんだぜ!?」
「だって……! ケンちゃんのことが心配なんだもの!」
目に涙をためる可憐な乙女じゅりあ。
「ボンバイエは危険な男よ。ケンちゃん! 今からでも試合を棄権して!」
「じゅりあ……」
ケンはさめざめと泣くじゅりあの肩に手を置くと、太陽のように輝く笑顔を見せた。
「俺は必ず生きて戻るぜ! だから信じて待っててくれよな!」
「ケンちゃん……! バカ。男っていつもそう」
時間が来た。
白線の前に並んでそれぞれの愛車のサドルに跨るケンとボンバイエ。
「位置について。よーい、どん!」
号令とともに一斉に坂道を下る2つのタイヤ!
キーコキーコ!
「車輪はトモダチィー!」
だが並走していたのはわずかな間。
すぐにボンバイエがリードを取った!
「うへへ! どうしたケン! お前の走りはその程度かよ!?」
「くっそぉ! おもしろカッコよくないぜ!!」
ボンバイエの車輪は彼の体格に合わせて作られた特注品。
その直径は実に通常の1.5倍。
故に同じ1回転でも進む距離はケンよりずっと長い。
「車輪のデカさはリーチの長さ! この差をどうやって埋めるつもりだ、ケン!?」
ボンバイエはその屈強な脚力を持って荒々しくペダルを回し、一気に距離を離していく!
「あんなのドライブテクニックでもなんでもないわ! ただのゴリ押しじゃない!」
頬を涙に濡らしてじゅりあが叫ぶ!
「ケンちゃん!」
「……慌てるにはまだ早いぜ! 勝負は始まったばかりだぜ!!」
ケンが正面を指差す!
するとそこには急カーブを知らせる標識が!
――――この峠コースはスタート地点からしばらくは単調な直線が続く。
だが次第に蛇行していき、所々で急激なカーブも現れ始める。
山頂から下るにつれて初級・中級、そして上級者向けの危険路へと移り変わるのだ。
ライダーたちが競争に使うのはせいぜい5合目あたりまでとされる。
「そろそろ7合目に差し掛かる! ここから先はカーブが連続する中級向けコースだぜ!!」
ボンバイエの愛機は大輪のために舵を取りにくい。
大きな腕を水平に伸ばしてバランスを取ろうとするが、いくらかの失速は免れなかった。
その隙にケンがドリフトで迫る!
「追いついたぜ!!」
「ちいっ……!」
ウオオオーッ!
ギャラリーの白熱の歓声が峠中に響き渡る!
しかし、いくつかのカーブを抜けた先には再び200メートルほどの直線路が!
その終わりがゴール。
これではまたボンバイエにリードを奪われて勝負が決まってしまうだろう!
ケン、大ピンチ!?
「もらったな!」
「ケンちゃん……!」
「くっそおお! こうなったら禁断の技を出すしかないぜ!!」
ケンは一輪車の上で力を溜めるように腕を回す。
「はああ~! 必殺! 『エクセントリックアターック』!!!」
すると懐からサッと何かを取り出した!
「な、なんだあれは!?」
息を呑む観客……!
なんとそれは長さ30センチほどの棒切れだった!
ケンはそれを隣に並ぶボンバイエの車輪、その回転する骨組みのあいだにすっと差し込んだ。
「えっ?」
回転を続けるタイヤに異物を挟むと何が起こるか?
当然タイヤとサドルに続くフレームとのあいだにガチリとつっかえ、車輪は急停止してしまう。
「うわああああッ!」
突如動きを止めた一輪車から投げ出され、ボンバイエの巨体は坂道を豪快に転がる!
結構なスピードが出ていたために彼の体は擦り傷で血濡れになってしまった!
「決まったぜ! エキセントリックアタック!!」
「キャー! ケンちゃん!」
血だるまとなってピクリとも動かないボンバイエを横目に、ケンは余裕の走りでゴールテープを切った。
激闘を終え満身創痍の彼にじゅりあが駆け寄って抱き着く。
「信じてたわ! ケンちゃん!」
「言っただろ!? 俺は誰にも負けられないんだぜ!!」
「いや何やってんだよ!?」
「反則ゥ!」
「いさぎよすぎて目を疑うわ!」
ギャラリーから非難ゴウゴウの嵐が飛ぶ。
しかし当のケンはどこ吹く風で軽くあしらう。
「俺は間違ったことは何ひとつしていないぜ!」
「してるだろ!?」
「いいえ! ケンちゃんの言う通りよ! これを見てみなさい!」
そう言ってじゅりあがなにやら紙資料をバサリと掲げた。
それは一輪車クエストにおける大会規約の記された用紙。
「ここには『相手の車輪に異物を挟んではいけません』なんて文言、どこを探しても書いてないわよ?」
「お前バカ!?」
「当たり前すぎて省いてるだけでしょ!?」
じゅりあはやれやれとため息を吐いてなおも続ける。
「ならここを見てみなさい。『競技中に起きた事件・事故等について一輪車協会は一切の責任を負いかねます』」
それはつまり……。
面倒事には関わりたくないという意思表明!
「文句があるなら問い合わせでもしてみればいいぜ! それで協会が重い腰を上げるとは思えないけどな!!」
「ふふ。万が一ケンちゃんがお叱りを受けたとしても、それで改心するなんて馬鹿げた期待はするだけ無駄よ!」
「なんなんだコイツら……!」
「狂ってやがる!」
唖然とするギャラリーに背を向けてケンとじゅりあは一輪車に跨った。
そして高笑いをしながら颯爽と2人乗りで峠道を走り去っていく。
恐るべし狂気の風雲児、一輪ライダーケン!
「正義は必ず勝つんだぜ! 俺の冒険はまだまだ終わらない! 次の戦いもおもしろカッコイイぜ!!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
激闘の末に見事ボンバイエを打ちのめしたケン!
だがそんな彼の前に新たな刺客が立ちふさがる!
負けるなケン! その車輪に仲間たちの想いを乗せて走るのだ!
闘志の炎は決して燃え尽きることはない!
【第198話 燃え上がれ俺の車輪! 怒りの奥義バーニングファイヤー!】
来週もおもしろカッコイイぜ!




