第196話 ゴブリンガールは一輪車乗りと出会う!
広大なグリタ平野の原っぱを3体の魔物と1人の人間が歩いている。
超絶美少女ゴブリンのアタイとスケルトンのジョニーにスライムのスラモン。
そして最近になって合流した転生勇者のヘミ子だ。
ヘミ子はパラメータを操作して幸運値を上限突破させているハイパーラッキーガール。
その周囲にいる者でさえも幸運バフにあやかれちゃうというチートスキル持ちだ。
今日はその運気とやらがどれほどのものか腕試しをするために連れ出したのだが……。
「なんだいなんだい……! なんなんだよこれは!?」
競馬もパチンコもボートレースも、すべてが見事な大空振り!
かろうじてヘミ子だけは勝ち越したものの、みんなの昼飯を奢ってくれる程度の儲けしか得られなかったのだ!
「この役立たず! こんなんじゃアタイの立てたバラ色人生計画が全部オジャンじゃないか!」
本当なら今ごろヘリをチャーターしてリゾート島へ飛び、タワマンの上層階で優雅にシャンパンをがぶ飲みしているはずだった!
それもマンションの一室と言わずビルひとつをそのまま買い取ってやるくらいの心持ちだったのに!
怒りに打ち震えるアタイと対照に、ヘミ子はニコニコと幸せそうにはしゃいでいる。
「ギャンブルをしたのって初めてだったの! 興奮しちゃった。最高の思い出になったわ――!」
そこでジョニーがひとつの仮説を立てた。
「もしかしたらヘミ子と俺たちとで幸せの基準が違うのかもな。こいつにとってみればすでにバフは十分発揮されてるのかもしれないぜ」
ふざけんじゃないよ!
もっとハングリーになれよ!
「ええい! こうなったらガチャを引くよ! ヘミ子! SSRが出るように祈りな!」
「SSRで何をするの――?」
「バズーカでもライフルでも引いて、そいつで村を襲って金品を奪うんだよ!」
おそらくヘミ子の望む幸福の形から離れるほどにバフの効果は弱まるだろう。
それどころか逆の作用が現れてもおかしくない。
アタイの邪なセリフによってたぶん☆1確定となったガチャ。
それも構わずアタイは力を込めて液晶画面をタップした!
課金フルパワーでミラクル起きろや頼むでえ!
なあ!
いい加減ゴブリンチーレムアドベンチャーをしたいんやあ!
七色の光が辺りを照らし、目の前に現れたアイテムは……!?
~一輪車(使用推奨レベル10)~
ペダルとサドル、そしてひとつの車輪のみからなる乗り物。
ハンドルがないため体を傾けて舵を取る必要があり、主に遊戯や曲芸に用いられる。
「ハングリーになれって! 言ったでしょおおおお!」
絶叫するアタイをよそにヘミ子は目を輝かせる。
そうしてアタイと一輪車とを交互に見つめてウズウズし始めた。
「ゴブ子ちゃん! 乗ってみて!」
「いやだ!」
「お願い! ね、お願い――!」
………。
このヘミ子という女は前の世界で搾取子&社畜として悲惨な人生を辿った。
一輪車で遊ぶという些細な楽しみすらとも縁のない生活を送ったのだろう。
そんなヘミ子に期待を込めた目で見つめられるとNOと言えなくなってしまう。
アタイは大きくため息をすると仕方なく車輪に跨った。
「うわ。結構ムズいよこれ」
前へ後ろへ勝手に進んで、油断すればすぐに転んでしまいそうだ。
両手を水平に伸ばしてバランスを取りながらぎこちなくペダルを回す。
キーコキーコ……。
「キャー! かわいい――!」
大はしゃぎのヘミ子。
なんだかアタイは無性に温かい気持ちになって、車輪を回しながらへへへと鼻をこすった。
すると突然背後から何者かの声がした。
「へえ! ここらじゃ見かけない顔だけど、なかなか良いマシンに乗ってるじゃねえか!」
ああん?
振り返ると、そこにはアタイ同様に一輪車に跨る男がいた。
「車輪はトモダチィー!」
短パン半そででキャップ帽を逆さに被り、鼻柱に絆創膏を貼っている。
いい年して熱血スポ根マンガのキャラみたいないで立ちをしやがって!
なんなんだいこいつは!?
「俺の名前はケン! 未来の一輪車界に名を馳せることになる伝説ライダーとは俺のことだぜ! おもしろカッコイイぜ!!」
「はあ?」
「なんかウザそうな奴でてきたよ」
「ここいらで一輪車に乗るってことは、お前も『一輪車マスター』の実績解除を狙ってるんだろ!? だったらこの俺と勝負だぜ!!」
一輪車マスター?
だっさ(失笑)
そんなどうしようもない称号もらって何になるんだい。
「これだからトーシロは困るぜ! 一輪レースの総当たり戦で最後まで勝ち残ることができれば、称号と共に全国一輪車協会から莫大な賞金が贈られるんだぜ!!」
「なんだって?」
「いつぞやの大会クエストみたいなもん?」
「どうだい!? 血が騒いできただろ!? おもしろカッコイイぜ!!」
『一輪車マスター』の称号を巡るクエストは特に期限が設けられてるワケではない。
ライダー同士がエンカウントするたびに戦いを挑み合い、レースで勝ち負けを競う。
そうして皆が認める最強のひとりが決まるまで切磋琢磨を続けるというフリーバトル制だそうな。
「この近くによく練習コースとして使う峠があるぜ! お前らも来いよ!!」
「ふん……! 冷やかし程度に見に行くくらいは良いかもね!」
アタイたちはケンの勧めでさっそく峠に向かうことにしたのだった。
いざ行かん、徒歩と一輪車で。
キーコキーコ……。
~曲がりくねりのツヅラ坂(探索推奨レベル12)~
新緑が生い茂る自然豊かな山の頂。
高木から香る樟脳と野鳥のさえずりに囲まれて見下ろす景色は心をリフレッシュしてくれる。
……ただし、観光目的でこの峠に立ち寄った者はすぐにそそくさと立ち去ることになるだろう。
なぜならここは走り屋たちの巣窟。
荒々しい風貌と自信に満ちた佇まいの男たちが目を光らせ、ご自慢の愛車(一輪車)を片手に熱いバトルを求めて漂っている。
モヒカン頭やトゲ肩パット姿の無法者たちがさっそく洗礼の視線を浴びせてきた。
「ククク。なんだいその新ピカのオモチャはよぉ」
「遊びでやってんじゃないんだぜ、お嬢ちゃんたち……!」
ゴクリ……。
アタイたち、もしかしたらとんでもない世界に足を踏み入れちまったのかもしれないよ!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
なんかスポ根レーシングマンガみたいなノリ始まったよ!?
よくしらんけどイニシャルがDから始まりそうな気配がプンプンするねえ!
恐怖に震えるアタイたちの前に立ちはだかった大男、ボンバイエたけしはこの峠を仕切る古強者!
ケン、今こそあんたの走りを見せてみな!
【第197話 ゴブリンガールはくらえ正義の鉄槌! エキセントリックアタック!】
来週もおもしろカッコイイぜ!




