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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
メインクエスト【運気が巡る!】編
194/251

第193話 ゴブリンガールは社畜OLと出会う!

挿絵(By みてみん)



 ヘミ子のスマホの機能『パラメータ管理』によって彼女のステータスは『幸運値』に一極振りされている。

 なるほど、運を味方に付ければ戦闘力が皆無でも問題なく生き残れたワケだね。

 襲い来るモンスターも彼女のまとう加護の前に勝手に自滅していったのだろう。

 まるで先ほどアタイたちを襲ってきたガーゴイルどものように。


 ……ん?

 もしかして、さっきの怖いくらいに出来過ぎた偶然の連続って……。


「察しの通りよ。ヘミ子の幸運バフは周囲にいる者にも恩恵を与えるの」

「マジ!?」

「じゃあ一発でSRを引けちゃったガチャも?」


 それが本当なら話が大きく変わってくるよ!


「レアアイテムをバンバン引けるってことじゃん! ガラクタしか排出しないアタイの腐れスマホがついに本領発揮だよ!」


 朗報朗報!

 これでやっと本来の趣旨であるゴブリンのチーレムアドベンチャーがスタートできるじゃないか!


 ……ククク!

 これまで散々アタイをいたぶってくれたクソ脇役ども!

 恐怖にすくみながら待っていな!

 まずはどいつから復讐を果たしてやろうかねえ?


 懐からブラックリストを取り出しながらどす黒い笑みを浮かべるアタイ。

 するとヘミ子はそんなアタイの隣に座って興味しんしんに顔を覗き込んできた。


 にこっ……。


「な、なに見てんだよ……?」

「ゴブ子ちゃん、かわいいな――!」


 そう言って突然アタイに抱き着いてきた。


「悪だくみ顔も、口の悪さも、小生意気な態度も。ゴブリンってこんなにかわいいのね――!」

「い、いきなり何すんだよ! 離しなっ!」

「私ね、こんな妹がずっと欲しかったんだ。ゴブ子ちゃん、私の本当の妹になって。ね――!」


 ハアア!?

 ヘミ子の柔らかい体が密着して、ふんわりと清潔な石鹸の香りがする。


 ぎゅっ……。


 誰かに抱きしめられるということを久しく経験していなかったアタイは無性に気恥ずかしくなって仕方がない。

 でもどこか一方でほっと安心するような温もりも感じられた。


「あーっ! ゴブ子ちゃんだけずるいぞ! 俺も家族に加えてよ~お姉さま♡」


 アタイはこちらに駆け寄ってくるモリ助の顔面をガラスジョッキではたいた。

 バキン!

 破片を散らして床に倒れ込むチャラ男。


「……しかし、ヘミ子さん。幸運値の一極振りというのはそれなりにリスクもある行為だと思います。その危険性についてはご存じですか?」


 シブ夫が憂い顔で声を掛けた。

 はて、幸運であればあるだけ良いことしか起きなさそうなもんだけど、一体何が危険なの?


「幸福量一定の法則ですよ」


 幸福量一定の法則……。

 人生で経験するツキは総量が決まっていて、幸・不幸の出来事は順繰りに起こってバランスを取るという考え方である。

 その仮定でいえば、今のヘミ子の状態は幸の前借りをしているようなもの。

 どこかのタイミングでこれまでのラッキーをふいにするほどの強烈なしっぺ返しが起こるかもしれないのだ。


「あなたの身が心配です。これを機に、もう少し違ったパラメータの振り方を試してみるのはどうでしょう」

「私を気遣ってくれるの? シブ夫くん、ありがとう――!」


 ヘミ子はなおもアタイに抱き着いたまま、キラキラとした目でシブ夫を見つめる。

 本心から嬉しくてたまらないといった様子だ。

 だけどゆっくりと首を横に振って、


「ごめんね――。ねえ、シブ夫くん。二度目の人生を過ごす中であなたが一番大切にしたいことは何?」

「えっ……?」


 突拍子もない質問に言葉をつかえるシブ夫。

 ヘミ子は物柔らかにほほ笑んでその場の全員を見回した。


「こんなに素敵な子たちに出会うことができて私はとっても幸せよ。よければこのまま、少し昔話を聞いてもらえるかな――。あまり楽しい話ではないけど、みんなには知っていてもらいたいの」


 ヘミ子は語り始める。

 彼女が転生前に過ごした人生について――――。


 ヘミ子の両親は小さな工務店を営んでいた。

 だが不況の煽りを受けて倒産し、多額の負債を抱え込んだ。

 愚直な両親は誰かに助けを乞うことを考えず、まだ物心付く前だった幼いヘミ子と共に海に身投げした。

 一家心中である。


 ヘミ子だけが死に損なった。

 彼女は心肺への後遺症と親の借金とを抱え、自治体の斡旋する里親の元へと送られた。

 だがその家族は支給される養育費目当てで孤児を受け入れるだけの守銭奴(しゅせんど)だった。

 ひねくれた夫婦と意地汚い義理の妹たちの中でヘミ子は肩身を狭くして思春期を過ごした。


 働ける年齢になってからは何よりも優先して金を稼がねばならなかった。

 妹たちを養うことが彼女の生きる意味だと教え込まれた。

 来る日も来る日も体を酷使し、家に帰れば持ち帰った金をむしり取られる。

 そんな毎日が続いた。


 妹たちは成人しても職に就かなかった。

 それどころか気付けば親たちも仕事を辞めていた。

 血も繋がらない大勢の生活の肩代わりをヘミ子ひとりが負わされた。


 持病が悪化して次々に臓器がだめになったが、薬を飲んで耐えられるフリをした。

 山ほどの薬剤で腹が膨れ、それが食事代わりになった。


 ある日、職場で残業をしているときに盛大に吐き戻してしまった。

 溶け残った無数の錠剤がのどに詰まった。

 誰もいない深夜の仕事場で、ヘミ子はひとりもだえ苦しみ、ひっそりと息を止めた。

 それがヘミ子の死因。

 彼女の人生だった。


「違う生き方を選べたのならって、私は願い続けていたわ。もしそれが叶うなら次は楽しいことばかりに囲まれて生きていたいって――」


 そうして儚い笑顔でシブ夫を見つめる。

 にこっ……。


「この先にどんなに大きな不幸が待っていても、いいわ。それまでの毎日を精一杯幸せに過ごすと決めたから。それが天が私にくださった二度目の人生だと信じているの――」

「――――うわあああああ」


 その場にいる全員の涙腺が崩壊していた。

 まるでシンデレラの出だしの部分を数倍生々しく煮詰め直して、そのまま魔法使いが来てくれなかった的な鬱エンド!

 ここまで悲壮な生き様などあっていいのだろうか?


 ていうかアタイも借金まみれで働き詰めなのは同じだけど、まったくノリ違うじゃん。

 ガチのやつじゃん。

 こんなん幸運値極振りも納得だよ!


「おーいおいおい!(泣)」

「ヘミ子ちやあ~~ん!」

「こっちの世界では幸せになってねえー!」


 今度は逆にアタイがヘミ子の体を抱きしめてやった。


「アタイたちがあんたの仲間になってやる! だからもう辛いことは一片たりともしょい込むんじゃないよ! わかったね!?」


 あふれ出る涙と鼻水がヘミ子のスーツを汚したが、彼女はそれも構わずに力強く抱擁を返してくれた。

 ぎゅっ……。


「ありがとう。ゴブ子ちゃんは魔物なのに、とっても心の澄んだゴブリンなのね――」


 ピク美のババアが焼酎の大瓶を次々とカウンターに並べ始める。


「こんな話を聞かされちゃあ黙ってられないね! 今夜は大盤振る舞いだよ! 好きなだけ呑みなあ~!(涙)」

「ヘミ子の歓迎会だ!」

「朝まで呑むゾ~!」


 ヘミ子の恵まれない半生を労わるかのように、アタイたちは殊更に騒いで呑んで、宴を盛り上げまくったのだった――――。




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 ヘミ子おぉぉ……!

 あんたは絶対に幸せにしてやるからぁ!

 さあ、新たな仲間と強力なスマホチートも加わったところで冒険の仕切り直しといくかい!

 ……と思ったら、なにやら転生者同士で小難しい話を始めたよ?

 転生の意味と魔王の思惑?

 またそのつまんない話かよ。あんたたちも飽きないね。


【第194話 ゴブリンガールは考察する!】

 ぜってぇ見てくれよな!




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