第191話 ゴブリンガールは麺をすする!
「うわああああん!」
バーンズビーンズの大通りを泣き叫びながら爆走するアタイたち。
そのすぐ後ろを凶悪なガーゴイルどもが地面スレスレの低空飛行で追いかけてくる。
こんなん絶体絶命だろ!
奴らは魔王の指示を受けてアタイの所持するスマホを破壊するつもりなのだ!
「あれ? だったら追われるのはゴブ子ひとりで十分じゃねえ?」
「俺らは関係ないンだわ」
バカ言ってんじゃないよ!
やられ役が何人かいないとヘイトを分散できないだろうが!
あんたたちは何のために30話ぶりに登場したのかを察して、さっさとバラバラにビチビチに飛び散ればいいんだよ!
「はあ……。お休みしてたあいだはマジで平和だったよな」
「あのままひっそり降板したかったンだわ」
などといつものやさぐれトークを繰り広げていると、気付けばアタイたちは街の工事現場に差し掛かっていた。
酒場の改修工事をしているらしく、大工たちがせわしなく通りを行き来している。
「右見て左見てー」
「オーライーライ」
作業員たちはアタイら3人が道を通ったのを確認すると巨大な窓ガラスを抱えて横断し始める。
「ギョギョー!?」
追走してきたガーゴイルは目の前に現れた透明の障害物にドリフのコントよろしく頭から突っ込んでしまった。
ガッシャンガラガラ!
飛び散ったガラス片と共に地面を盛大に転がっていく。
おやおや?
なんかしらんけどラッキー!
「なんだなんだあ?」
騒音に気付いて大工たちが顔を向ける。
屋根の上で作業をしていた男が身を乗り出すと、その拍子に手からトンカチが滑り落ちてしまった。
それはグルグルと回転しながら自由落下し、運悪く直下を通りかかった別のガーゴイルの頭頂部にクリーンヒットした。
「ギョッ!」
およよ、またしてもラッキー♪
「ウワー! ブレーキとアクセルを間違えたー!」
ダメ押しで高齢ドライバーの操作する暴走馬車が突っ込んできて複数の敵をまとめてなぎ倒していく。
……なんだか今日のアタイたちめっちゃツイてない!?
そうこうしていると前方には視界一杯の人混みが!
アタイたちはとっさにその中に紛れ込んだ。
しかし、空から見ればどこに隠れているか一目瞭然だったのだろう。
1体のガーゴイルが近くに着地し、アタイたちの体を掴もうと強引に人をかき分けてくる!
万事休す!?
……かと思われたが、
「おいあんた、何やってんだよ。順番守れよ」
「ギョ?」
ふいに近くにいたおっさんがガーゴイルの肩を掴んで止めた。
そこでよくよく周りを見渡してみると、ここは巷で人気のラーメン店に並ぶ行列の中ほどらしいとわかった。
ははあ、端から見るとガーゴイルがあからさまに横入りしようとする図になったワケだね。
おっさんに咎められたガーゴイルはバツが悪そうに最後尾に並び直した。
アタイたちとのあいだには4、5人の間隔が空いている。
ひとまず即死案件は免れたみたいだね。
だが背後に恨めしい視線をビシバシ感じて居心地が悪くて仕方ない。
アタイたちは縮こまってヒソヒソと顔を寄せ合った。
「こっからどうすんだよ」
「行列がはけたらすぐに捕まるンだわ」
「とりあえずラーメン喰いながら考えるよ」
ほどなくして列が進み、アタイたち3人は店内に入った。
「野菜マシ」
「俺はカラメマシマシ」
「ニンニク少なめで」
運ばれてくる背油コッテリ太麺のゴツ盛りラーメン!
器の縁から溢れんばかりの濃厚なスープと、その上にはこんもりとしたモヤシの山!
立ち昇る湯気が空腹中枢を刺激する!
「ハフハフッ!」
アタイたちはまるで養豚がエサにあり付くがごとき勢いで丼に食らいつく!
んほお~!
許容量オーバーの油分を胃に流し込むのたまんねえ~!
夢中になって麺をすすっていると、数人遅れでやっとガーゴイルも入店してきた。
アタイたちを睨みつけながら券売機に小銭を入れている。
だがそこで問題が起こった。
「お客さん。こいつはどういうことだい?」
「ギョ?」
なんとガーゴイルが購入した食券は半ライスと生卵のみ。
おそらくささっと食事を済ませてアタイらの先回りをしようという魂胆だったのだろう。
しかしこれは悪手だった。
「ウチは遊びで商売してんじゃないんだよ! 冷やかしならよそに行きな!」
……一部のラーメン界隈には厳格なマナーが敷かれている。
例えば食事中は私語を慎む、完食後は速やかに退店するいったものが暗黙のルールと化しており、一種の殺伐とした雰囲気を作り上げているのだ。
悪気はなくともあまりにマイペースな行動を取れば店員や周囲の客に注意を受ける恐れもある。
今回ガーゴイルの選んだ食券はトッピングの部類。
ラーメンを食べる気もないのに列に並んだと受け取られれば、怒りを買う十分な理由になる。
みんなも初めて○郎系へ行くときは注意しよう!
「やっちまえ!」
「嫌悪マシマシ殺意多め!」
狭い店内で集団リンチされるガーゴイル。
「ギョーッ!(断末魔)」
ラッキーラッキー!
戦わずして何体ものガーゴイルをやっつけちまったよ!?
ついにアタイらにも運気が巡ってきたのかねえ!
「この流れに乗って商店街の福引きでも回しに行っちゃう?」
「駅前のパチスロ屋に新台入ったらしいぜ」
「ロト6買うンだわ」
腹を満たして笑顔で店を出るアタイたち。
……だがその勢いを挫くかのように、扉の先には残りのガーゴイルたちが怒りの表情で待ち構えていた。
やっぱりバトルは避けられないのね!(泣)
「こうなったら最後の手段! ガチャを回すよ!」
どうせ今回もゴミしか出ないだろうけどな!
アタイの荒々しいタップで虹色の光を発するスマホ。
課金フルパワーで最凶モンスターにメイクアーップ!
~ピッチングマシン(使用推奨レベル74)~
野球ボールを自動射出する自立型の装置で、広くバッティングセンターに置かれている。
球速やストライクゾーンを細かく調整でき、連射性能も有する。
ほらね、やっぱりガラク……。
「え?」
【おめでとう! SRのアイテムをゲット!】
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
まだ新キャラ出てこないの。
焦らすねえ!
はやくはやくぅ!
【第192話 ゴブリンガールは運気が巡る!】
ぜってぇ見てくれよな!




