第18話 ゴブリンガールは風に舞う!
広大なグリタ平原。
開けた視界の中で一歩も退かずに睨み合うスージーとコカトリス。
そしてその様子を見守る役立たずのアタイとジョニー。
ふいにコカトリスがクチバシを大きく開いて咆哮を上げた。
それと同時に紫色の毒ガスが噴出される。
「コカトリスの猛毒だぜ!」
「スージー、避けな!」
スージーは弓の構えを解き、そのまま弦を手首に引っかけてグルリと回した。
長弓はプロペラのごとく回転し、スージーの正面を守るように旋風を起こす。
吐き出された毒ガスはその風に弾かれて軌道を変えた。
さすがは勇者!
とっさの機転と動体反射で敵の攻撃を防いじまうとはね!
……ただひとつ、問題が起こった。
軌道の変わった毒ガスが近くにいたジョニーに直撃してしまったのだ。
「グエーッ!」
「しまった!? ジョニー!」
紫色のガスに包まれるジョニー
だが、そのガスが晴れるとジョニーはピンピンして立ち上がった。
「危ねえ危ねえ! 俺は単なる骨だから毒のたぐいは効かねえぜ!」
まったく、ヒヤヒヤさせてくれるね!
だけどジョニーの体の表面は毒の成分でうっすらと紫に染まっている。
キレイに洗い流すまではソーシャルディスタンスを保ってほしいもんだね。
「よくもやってくれたわね!」
スージーはまたも矢を構えるが、コカトリスは間髪を入れずに毒ガスを吐き続ける!
スージーは草原をアクロバティックに跳び回りながら敵の攻撃を避けていくが、やはり一人で戦い続けるには荷が重そうだ。
歯がゆいねえ!
アタイらにもなにかできればいいんだが、かといってむやみにあの戦闘域へ立ち入ろうものならたちまちオーバーキルされちまうだろう。
疲労が蓄積し始めたのかもしれない。
一瞬の気のゆるみで、コカトリスから繰り出された衝撃波がスージーの体をかすめた。
その拍子に背負っていた矢筒が吹き飛ばされてしまった。
「ああ! 矢が!」
絶体絶命のピンチ!
コカトリスはここぞとばかりに力を溜めると、大きく翼をはたいて渾身の一撃を繰り出した。
巻き起こったつむじ風は小規模の竜巻ほどの威力があった。
「うわーっ!」
スージーだけでなくアタイとジョニーも一緒に吹き飛ばされて空に舞い上がる!
「こりゃあたまらん!」
ジョニーの骨は関節で外れてバラバラになった。
関節の脱臼は一度起こると癖になって外れやすくなってしまうのだ。
みんなも怪我には気を付けよう――――!
風の渦に舞い上げられながらも、スージーは空中宙返りをして体勢を立て直す。
そうしながら同時に近くを飛んでいたジョニーの鎖骨を掴み取った。
「ジョニー! あなたの骨を借りるわよ!」
「何に使うつもりだ!? ちゃんと返せよ!」
「約束はできないけど!」
スージーはそのまま骨を矢の代わりに装填し、コカトリスの眉間に向けて狙いを定める!
「毒を持って毒を制す! 行けっ!」
放たれた鎖骨は強風をもろともせずに一直線にコカトリスへ向かって飛んだ。
~フォーカスボウ(アビリティレベル21)~
弓術闘勇士の習得する攻撃戦技。
矢を放つ直前の時間の流れを遅く感じさせ、狙撃精度を上げる。
レベルの上昇に合わせて体感時間が長くなる。
スージーの一撃はコカトリスの額にクリティカルヒットした!
さらにジョニーの骨に付着していた毒がコカトリス自身に返り、これが追加ダメージとして致命傷になった。
コカトリスは断末魔の悲鳴を上げて倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。
スージーはキレイな着地を決めて地面に降り立つ。
対してアタイはモロに地面に激突し、さらに上からパラパラとジョニーの骨が降り注いだ。
「ふう、こんなものかしら」
爽やかな汗を流すスージー。
クソが!
そんなにカッコよく決められたらアタイが相対的にダサく見えるだろ!
ちょっとはこっちにも気を遣えってんだ!
すると突然どこからともなくファンファーレが鳴り響いた。
パンパカパーン!
【スージーのレベルは50にアップした!】
【『セブラルボウ』スキルの矢の本数が増加した! 『フォーカスボウ』スキルの体感時間が延長した!】
「やったー!」
嬉しそうに飛び上がるスージー。
チッ、これだよ!
勇者はレベルアップするのにアタイらモンスターはEXPをひとつももらえない!
こっちだって命がけだってのにさ!
まあ結局命がけで見てるだけだったんだけどね!
「おおーい! 俺を直すのを忘れないでくれよなー!」
野原の上に転がってるジョニーの頭蓋骨が情けない声を上げた。
「仕方がないね。またボンドが出るまでガチャを回すか……」
「ちょっと待って」
スージーはバラバラに積み上がったジョニーの骨を見つめて、腕を組んで考え込んでいる。
「コカトリスの毒が塗られた骨……。矢の素材として見たらかなり強力なアイテムだわ!」
「ちょっと待て。本気かい?」
「私はいつだって本気よ。ねえジョニー。あなたのアバラ骨って何本あるの?」
「いい加減にしてくれ! 一本たりともお前には渡さないからな!」
「安心して。足りない分は代わりに私の矢で組み上げればいいじゃない。強度はちょっと足りないし曲がらない関節もあるかもしれないけど、それなりのサマにはなるんじゃない?」
んなことを大真面目に考察してんじゃないよ!
優等生ってのの実直さは愚直さと紙一重のようだね!
やっぱりアタイらは勇者とは気が合わないみたい。
もうパーティを組むなんて懲り懲りなんだからね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
旅を続けるアタイらを突然呼び止めた男。
誰かと思えばいつか電気拷問にかけてやったクソエルフのヤンフェだね!
ちょうどいいから日頃の鬱憤を晴らすためのサンドバックになってもらうよ!
なに? ドンフーの奴からクエスト受注の通達だって?
あの短足、またアタイらをこき使うつもりなのかい?
またひとつ鬱憤が溜まっちまったねえ……!
【第19話 ゴブリンガールは聞き取り調査する!】
ぜってぇ見てくれよな!




