第185話 ゴブリンガールはクーデターする!
一部の兵たちの助けを借りて地下牢を脱獄したアタイとシブ夫。
階段を上っていくにつれて戦いの喧騒が大きくなっていく。
どうやらすでに正規兵と反乱兵との抗争が始まっているらしい。
「我が方に付いた兵の数は元の半分。戦力は五分五分ですが、ユーリ様の身柄を抑えられれば我らの勝ちです」
先導する老代官にシブ夫が問いかけた。
「このクーデターの真意は? 王を失脚させてどうするつもりです」
「あのお方に国の行く末を背負わせるには酷すぎたのです。この争いはマデランの歴史で最大の汚点となりましょう。その業はすべて私が被ります」
王の間に向けて突き進むアタイたちを阻もうと正規兵たちが襲いかかる。
「無闇に血を流したくはありません!」
シブ夫は敢えて剣は使わずに体術だけで敵を叩き伏せていく。
一方王の間ではユーリアンを中心にして近衛兵たちが守りの陣を固めていた。
「謀反者たちは次々と城内を制圧しています! このままでは!」
「オズワルド様はどちらに!? 名誉騎士がいれば百人力なのに……!」
「忘れよ。どうせ名ばかりの張子の虎。こちらも奴の威名を利用するために雇い入れたにすぎぬ」
ユーリアンは幼女とは思えない落ち着きで兵たちに指示を飛ばす。
「シブ夫殿が向こうの手に落ちたとすれば、いずれこの扉も突破されよう」
「ならばすぐにでも城からの脱出を……!」
「それでどこへ向かえと言うのだ? マデランの壁は閉じられた。その外へ出て国の立て直しなどできん」
そこでモリ助が騒然とした空気に似つかわしくない笑顔で言った。
「シブ夫がここへ来るなら俺が止めてみせるよ。ユーリちゃんは安心して見ててよ」
「そなたにやれるのか」
「俺はあいつのこと良くわかってるからさ」
何か考えでもあるのだろうか、場違いにもぱちりと余裕のウインクを飛ばすのだった。
――――抗争は激しさを増し、どこかの部屋で火の手が上がったらしい。
マデンランティーユの城下町からは、高台に建つ城からうっすらと黒煙が立ち上る様子を遠目に窺うことができた。
オズワルドはそれをぼんやりと眺めながらケツ顎を手で撫でる。
「悪い予感はしてたんだよなあ。早めに抜け出しておいて正解だったよ。しかし栄枯盛衰とはよく言ったものじゃないか」
感慨深くうなずいていると、どこから現れたのか、彼のすぐ脇にウィッチハットを被った女がヒラリと並んだ。
「さすがの逃げ足の速さよね~。つくづく、あんたみたいのを見てると反吐が込み上げてきちゃう♡」
「これはこれは、凶魔女のアルチナ。隆盛を極めたマデランティーユの落城だからな。見ごたえのあるショーになるぞ。もっとも、立場的に俺様はゆっくり見物とはいかんがな」
「あら、どうせなら見届けていきなさいよ。まだあの中に残ってるんでしょ? シブ夫とモリ助」
「勇者どもが殺し合うのを見るのが趣味か? 悪いが俺様には興味が無いね」
オズワルドはニヤケ顔で手を振るとアルチナに背を向けた。
「この国以上に甘い汁を吸わせてくれる新天地、見つけるのは難儀そうだ。まあ適当に流れてどこかに落ち着くさ。それじゃあまたな」
立ち去る彼に返事もせず、アルチナは近くの柵に腰かけて戦いの続く城を見上げる。
「さあさあ、ここからどんなふうに盛り返しちゃうの~♡ 楽しみ~! ね、ゴブリンガール」
~王の間の扉の前~
城内はくんずほぐれつの大混戦!
「造反者め!」
「この国のために必要なことだ!」
「どのような理由であれ王に逆らうことは許されない!」
正規兵が反乱兵のひとりを押し倒し、彼めがけて剣を振り下ろそうとする。
その寸前に駆け込んだシブ夫が敵兵の小手を叩き、剣をはたき落とした。
「大義を持たない勇者が!」
なおも殴りかかる兵の拳を受け流し、回し蹴りで足を払って転ばせる。
そして胴と兜の隙間に手刀を打ち込んで黙らせた。
「これ以上争いは続けさせません!」
「シブ夫殿! この先が王の間です!」
シブ夫は固く閉じられた扉に両手を付いてゆっくりと押し開ける。
その先にはユーリアンと武装した近衛兵、そしてモリ助の姿があった。
「モリ助……!」
「シブ夫。ついに決戦だな」
アタイは怒り心頭でズカズカと広間に乗り込んでいく!
「このバカモリうんち! 今の内に謝らないとそこのガキ王と一緒にタコ殴りの刑だよ!」
「ゴブ子さんは下がっていてください」
「これは転生者同士の問題でもあるんだからさ」
2人はアタイなど眼中にないかのように視線をぶつけ合っている。
「この国が存続してこられたのはひたむきに生きる人々の姿があったからです。殻に篭ればその場をやりすごすことはできますが、それで未来に誇れる国を残せるのでしょうか」
「お前の言ってること、綺麗事すぎるんだよ。守りたいものがあるほどに意固地になる気持ち、お前にだってわかるだろ?」
「わかりますが……」
「ユーリちゃんはずっと助けを求めてたんだよ。あんな物々しい壁で国境を塞いじまうくらいに思い悩んだんだ。勇者だからって、その想いを否定する権利があるのかよ!」
「……このことは不甲斐ない勇者たちに責任があります。だけど僕もキミも万能ではありません。この世界に生きるみんなが協力しなければいけないんです」
シブ夫はモリ助の背後のユーリアンに視線を移した。
「100年前にゴン太がやり遂げられなかったことを、僕とゴブ子さんとで続けます。だから魔王を倒すまで僕たちを信じて待っていてくれませんか」
「……いい加減にしろよ!」
モリ助がキレた。
「お前はそうやってずっとずっと! ゴブ子ちゃんの影に隠れてるだけじゃないか!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
え?
なにこれ。
……………。
アタイどんな顔すればいいの?
【第186話 ゴブリンガールはのけ者にされる!】
ぜってぇ見てくれよな!




