第184話 ゴブリンガールは幽閉される!
アタイとシブ夫を城に幽閉すると宣言したユーリアン。
周りを見ればマデランティーユの兵だらけ。
アタイたちは即行で囲まれて拘束された。
「このクソガキ! こんな一方的なやり方じゃまるで暴君じゃないか!」
「なんとでも言うがよい。すべては国のためである」
冷徹非情な幼女王を老代官が弱々しく止めようとする。
「姫様、どうか冷静になられてください。これではあまりに……」
「黙れ。まだ私に逆らうつもりか」
「ハハッ……!」
ハハッじゃねえよじいさん!
周りの大人が甘やかすからこういうクリーチャーが出来上がるんだろ!
「ハハハ。浜田シブ夫。良いザマだな」
縛り上げられたシブ夫を見てご満悦のオズワルド。
だがシブ夫はそれには目もくれず、背後のモリ助に向けて訴えた。
「モリ助。キミはそれでいいんですか」
「……人間ってさ、いつも前ばかり向いてはいられないんだよな。俺はユーリちゃんの想いを肯定したいんだ」
「クソが! 覚えてなこの裏切り者―ッ!」
こうしてアタイとシブ夫は地下牢に投獄されたのだった――――。
~それから半日後~
薄暗い牢の中に体育座りし、アタイはさめざめと涙粒を落とす。
ロクなことにならないとわかっていながら、どうしてこんな蛮国なんぞにノコノコ出向いちまったんだろうね?
もうお家に帰りたいよう……。
でもその前に仲間を売ったモリ助の奴をズタズタのボコボコにしてやらないと気が済まないねえ……!
ったくどうしちまったんだいあのバカは!
話の内容はモリ助らしいとも思えるけど、それをあの状況で口走り、さらにはアタイらが捕まるのを止めようともしなかったのはらしくないと思える。
「モリ助は僕たちが出会うよりずっと前からバックパッカーとして世界を放浪していました。やるせない出来事や解決のしようもない惨事にもたくさん立ち会ってきたはずです」
だからこそあいつなりに思うところがあったってこと?
疑いようもなく、マデランティーユは強大な国だ。
でも煌びやかな外装だけで本質を推し量ることはできない。
ユーリアンの見せる威圧感の裏にはこの国を必死に繋ぎとめようとする脆さが隠れていたことに、モリ助だけがそっと気付いてやれたのかもしれない。
シブ夫は冷静に牢獄の中を見回して策を考えている。
「ここを脱する方法はあるはずです。でもただ抜け出したんでは兵たちに追われる身になりますし、第一にモリ助と離れ離れになってしまう」
思い悩むシブ夫。
「ゴブ子さん。あなたはどうしたいですか?」
「モリ助もホイ卒もケツ顎も全員まとめてぶっ殺したい……」
「いや、それはちょっと……」
そのとき、廊下の先から何者かの足音が近づいてくるのが聞こえた。
やがてその人物は鉄格子の前で止まり、窓から差すわずかな月明かりがその姿を露わにする。
ウワサをすれば、それはホイ卒暴君のユーリアンだった!
「あんた! よくも閉じ込めてくれやがったね! 今すぐ出せばまだ半殺しで許してやってもいいよ!」
そこでふと気付いたが、ユーリアンはひとりきりで護衛の兵はついていない。
安全な城の中だとしても王様としては無防備がすぎるね?
「一対一で話をしたいと思ったのだ、シブ夫殿。そなたにゴン太殿の再来と言わしめる器があるのかを確かめるために」
「………」
「はるか昔、ゴン太殿がこの国を訪れたときは余の曽祖父が国を治めていた」
100年前、まだマデランが今ほどの繁栄を築いていなかったころ、凶悪な魔獣の脅威にさらされるこの地をゴン太が守ってくれたという。
そして当時の王と親しくなり、自身の転生前の半生についてを打ち明けたのだそうだ。
「ゴン太殿には心に決めた女性がいたという。幼馴染として長くを共に過ごし、互いに想いを寄せ合っていた。だが彼らの暮らす地を天変地異が襲い、2人の仲は引き裂かれた」
天変地異?
なんのことだい。
「大地を揺るがす激しい振動と、それを起因とする大津波。それがすべてを飲み込んだ。家を、街を、生活を。そして愛する者までも」
シブ夫は表情を硬くしてうなずいた。
「……僕が生きていた時代に大規模な震災がありました。僕は遠方に住んでいたので直接の被害はありませんでしたが、現地にはかなりの惨状が広がっていたといいます。ゴン太はその被災者だったんですね」
「生きる希望を失った彼は自ら命を絶ったそうだ。そしてこの世に転生した」
ゴン太の奴にそんな重たいエピソードがあったとはね。
だけど、一度絶望を味わった彼がどのように勇者として立ち直ることができたのだろうか。
「この輪廻を罰と捉えた。自決という弱い方法で現実に背いたことを黄泉にいる恋人が嘆き、やり直しの機会を与えたのだと」
ゴン太は自分を見つめ直した。
そして二度と再会はできなくとも、彼女に胸を張れるように誇りのある生涯を全うすると誓ったのだ。
「ゴン太は転生の意味をそのように見出したんですね」
「そなたはどうだ。なぜ魔王を追う。なぜ人を救う。それにどれだけの想いを乗せている」
「僕は……」
言葉に詰まるシブ夫。
そんな彼にユーリアンは悲し気な瞳を向けた。
「人が人を強くする。ゴン太殿にとっての恋人のように、余は民たちのために強くあらねばならん。転生者として、まだそなたはこの世に生まれ直した意味を解してはおらぬようだ」
踵を返して獄舎を出て行くユーリアンに、アタイは鉄格子をガチャガチャ揺らしながら喚き散らした。
「それっぽい物言いで偉そうに窘めやがって! 人に講釈垂れる前に自分の性格見直しな! 弱冠6歳でその横暴ぶりじゃ先が思いやられんだよ!」
だがその叫びも静まり返った廊下に虚しく響くだけ。
「シブ夫! あんな保育園上がりの言うこと真に受けんじゃないよ! 気に入らないから魔王の奴をブチのめす! それだけで冒険をする立派な理由じゃないか!」
「……僕はただ、誰かの役に立てることが嬉しかったんです」
シブ夫はポツリポツリと呟く。
「どんな時でも僕の一番近くにいて頼ってくださるのがゴブ子さんでした。あなたの隣にいるあいだ、僕は迷うことなく前に進んでいられた気がしたんです。だけど、それだけでは足りなかったのでしょうか」
そんなことはない!
シブ夫はいつだって困ってる奴らに無償で手を差し伸べてきた!
そんな優しいシブ夫が責められる謂れなんてひとつも無いはずだ!
「シブ夫!」
あんたとアタイは何も間違っちゃいない!
だから弱気になんてならないで!
――――そこで再び足音が廊下に響いた。
何かの言い忘れでもしたのか、またあのクソガキが戻って来たのかい?
と思ったら、現れたのは数人の兵士と代官たち。
その中にはユーリアンの側近をしている老齢官もいた。
彼らは辺りをキョロキョロと警戒しながら牢の鍵を開ける。
「あなた方を解放します。ですが、代わりに頼みを聞いていただきたい」
「何をするつもりです?」
「ユーリ姫様を失脚させます。クーデターを起こすのです!」
ええ!?
超展開すぎない!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ゴン太の死因とかモリ助との対立とか、今回ちょっとシリアスすぎでしょ!
果ては軍の中で内紛が勃発かよ!
モンスターを狩るだけのクエストなら頭を使う必要もないのにね!
ああもう、どいつを殺せば解決するのか誰か教えて!
【第185話 ゴブリンガールはクーデターする!】
ぜってぇ見てくれよな!




