第182話 ゴブリンガールは王都防衛する!
~グリフォン(討伐推奨レベル67)~
雄々しい獅子の胴体を持つ巨大な鷲の魔獣。
大翼で空を旋回しながら狙いを定め、鋭い鳥爪で獲物を引き裂く。
王都マデランティーユの上空に飛来した魔獣グリフォン。
城兵たちが弓矢を飛ばすが、ゴツゴツとしたワシの翼になんなく弾かれてしまう。
有効にダメージを与えられぬまま、接近したグリフォンは城壁に着地してその勢いのまま石垣を豪快に崩した。
「うわああ!」
雪崩れた瓦礫に飲まれてしまう兵士たち。
「大丈夫ですか!」
「ヤバいってヤバいって! さっさと逃げようぜ!」
駆け付けたシブ夫が怪我人に手を貸してやり、その脇でモリ助がバタバタと騒ぐ。
「わ、我々はまだ戦えます……!」
「マデランティーユの防衛力はこのようなものではありません……!」
血を流しながら、なおも武器を離そうとしない負傷兵たち。
だがそんな彼らにホイ卒女王ユーリアンがピシャリと言った。
「もうよい。万全でない者は下がれ。攻勢に出るのではなく守りに徹しよ」
「ですが……!」
「下がれと言った」
そうしてオズワルドに振り向き、
「パラディンよ。貴様がゆけ。このような事態のために雇い入れたのだ。働きを見せてもらうぞ」
「仰せのままに。ご期待に応じてしんぜましょう」
地に立つグリフォンは荒々しく胴を振り、なおも石壁を破壊し続けている。
オズワルドは悠々とした足取りでその前に立つと、近くに転がっている残骸の中から他の兵が落とした槍と盾を拾い上げた。
オオオオオ!
グリフォンは雄叫びを上げて鋭い爪を振るう。
オズワルドは臆することなくその攻撃を盾で弾き、同時に前脚に槍を突き立てた。
強大な魔獣の力に耐えきれず、一手で盾や槍は壊れてしまう。
だがオズワルドは次から次に新しい武器を拾っては、違った立ち回りで戦闘を続けていく。
「ハハハ。これがいくつものジョブを掛け持つ伝説騎士ならではの戦法よ。とくと拝んでおくがいい」
その大袈裟な身振りに、まるで実演ショーでも見せられてる気分がするね。
だがしかし、戦闘が長引くにつれてグリフォンの怒りのボルテージは溜まっていくようだ。
ぶつかり合いが派手になるほど建物の被害も広がっていく。
アタイたちのいる城は都の高台に位置している。
ここが崩れれば瓦礫が城下町に降り注ぎ、住民たちへ戦禍が及んでしまいかねない。
見かねたシブ夫は鞘から剣を引き抜いた。
「闇雲に刺激せず、速やかに撃退する方法を探さなければいけません」
「ゴブ子ちゃん。今こそQRコードの出番だよ」
「おうよ! 任せとき!」
アタイは仁王立ちになって両手にスマホと巻物を持つ!
そして決めゼリフを叫びながらそれらを交差させた!
「ミラクルダウンロード! スキャン・フラーッシュ!」
朝の女児向けアニメで聞けそうな掛け声と共にコードがスキャンされ、表示されたのはグリフォンのページ。
その長々とした解説文から必要な情報を抜き出した。
どうやら有効なダメージ部位はいくつかあるようだが、一定の攻撃を与えると凶暴化してしまうらしい。
そうなると一時的に攻撃力や防御力がアップして攻略が難化する。
それに対して尻尾へのダメージは逆に鎮静化の効果があるらしいとわかった。
「シブ夫! 狙うなら尻尾だ!」
「わかりました!」
シブ夫は攻防を続けるグリフォンとオズワルドに向かって突き進む。
「浜田シブ夫、邪魔をする気か?」
「あなたと張り合うつもりはありません」
グリフォンの爪先がシブ夫に向かって一直線に飛ぶ。
それを流れるようなスライディングで躱し、そのままシブ夫はグリフォンの腹下に滑り込んだ。
そして後ろ脚のあいだから抜けて出るのと同時に素早く太刀を放った。
~アインニッシュ(アビリティレベル32)~
剣術闘勇士の習得する攻撃戦技。
前方にテクニカルな小ぶりの高速斬撃を打つ。
判定範囲が狭いがヒットすればクリティカルダメージを追加で与える。
見事に太い尾に直撃を与え、血しぶきが飛ぶ。
グリフォンは悲痛な唸りを上げると翼をはたいて宙へと上がった。
そして悔しそうにアタイたちを見下ろすと、しばらく旋回してから空の彼方へと飛び去って行った。
「チッ……!」
オズワルドは一瞬憎悪のこもった殺気をシブ夫へ向けたが、すぐに大衆に振り向いて笑顔で拳を掲げた。
「皆の者! 我がオズワルドが転生勇者と共闘の末、見事に魔獣を撃退したぞ!」
「うおおー!」
「オズワルド様ー!」
だからしれっと自分の手柄にしようとしてんじゃないよ!
自己アピールすることに関しては戦闘技術と同じくらい腕が立つみたいだね!
まったくイライラするねえ!
兵士たちは歓声を上げて喜び合うが、グリフォンのもたらした爪痕は決して浅いものではなかった。
城の一部は無残に崩れ落ち、多数の怪我人も出てしまっている。
ユーリアンは負傷兵たちに寄り添ってひとりひとりに痛ましい視線を向けた。
「ユーリ様。ここはまだ危険です。早く王室へお戻りください」
「構わん」
彼女は意を決した顔で立ち上がると側近のひとりである老齢代官を呼びつけた。
「これ以上民が傷つく姿は見られん。計画を前倒しにするぞ」
「ハッ……。実行の日にちは」
「今すぐだ」
代官たちのあいだにどよめきが上がる。
「時期尚早にあられます。姫様、どうかもう一度ご検討を……」
「くどい。今の私は姫ではなく王である。その命に背くと言うか」
なんだいなんだい、この緊迫した雰囲気は。
計画って一体なんの話?
老代官が渋々目配せをすると近くののろし台に火が灯された。
この王国マデランは環状隔道と呼ばれる万里の長城のごとき防壁で国全体が囲われている。
国境をたどるように領土の外周すべてを覆っているのだ。
王都周辺の景観を見渡すことのできるこの城からも、そそり立つ壁の一部を望むことができる。
するとその壁道の上に等間隔にのろしの煙が立ち上っていくのが見えた。
城を起点にしてぐるりと合図が伝播していくみたいだね。
そして続く、ゴゴゴという地響きのような振動音……。
「やいやい! 何だいこのヤバそうな空気感は! 少しはアタイらにも説明をしてくんな!」
「環状隔道に開いているすべての出入り口を閉じたのだ」
えっ……。
つまり、外界を完全にシャットアウトしたってこと?
とんでもない規模の物理的な鎖国みたい。
「現刻を持ってマデランは国防を主眼とした要塞国家となる。何人も領地を出ることも、その逆もできぬ」
ちょっとちょっと!
それってアタイら閉じ込められてんじゃん!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
万里の長城はアホみたいにスケールのでかい防御壁だったのね!?
いや確かにグリフォンの襲撃は怖かったけどさあ。
何の説明もなく全方位バリア張ってくれちゃってんじゃないよ!
この王女様、体は小っこいくせにやることは大胆すぎだっての!
【第183話 ゴブリンガールは鎖国する!】
ぜってぇ見てくれよな!




