第16話 ゴブリンガールは矢を向けられる!
~広漠のグリタ平原(探索推奨レベル19)~
広大なグリタ平原を横断する何本かの交易道路。
それらが交錯する十字路に目印として立っている一本松があった。
アタイとジョニーはこの木にぶらさがる蜂の巣の駆除クエストを請け負っていた。
だけど油断したね。
まさか蜂というのがキラービーのことだったとは!
~キラービー(討伐推奨レベル6)~
すばしこく空中を飛び回る巨大バチ。
針に刺されると麻痺の状態異常にかかってしまう。
ブンシャカ羽音を鳴らして飛び回る無数の蜂たち!
「俺たちじゃ手に負えないぜ! またガチャを回すか?」
「いいや。今回のクエスト報酬は低額だ。10連ガチャ一回分の方が高くついちまうよ」
このところアタイたちは、せっかくクエストを達成してもガチャ費の方が報酬を上回るという本末転倒を繰り返していた。
こんなことを続けてても借金は減るどころか赤字まっしぐらだよ!
「なんとか金を使わずに解決したいとこだけどねえ……!」
「んなこと言ってもよお!」
グズグズしてるとキラービーたちが襲い掛かってきた!
「うわあっ! やられる!」
「アナフィラキシーショック待ったなし!」
そのとき、どこからともなく弓矢が飛んできた。
ギュン!
それは目にもとまらぬ速度で一匹の蜂の胴体を貫き、そのまま勢いを落とさず一本松の幹に突き刺さった。
立て続けに2本、3本目が飛んできて、面白いように蜂たちに命中しては地面へ叩き落としていく。
「な、なんだいこれは!?」
アタイとジョニーが驚いて固まっている内にキラービーは全滅してしまった。
「あなたたち! そのまま動かないで!」
草原の先から現れたのは一人の女。
凛々しい顔つきで後ろに束ねたポニーテールを揺らしている。
自分の背丈ほどの長さもある弓を構え、矢をギリギリと引きながら近づいてくる。
彼女が指を離すと限界まで弦に引かれた矢が高速で打ち出され、それは一本松にぶら下がっているキラービーの巣を突き破って破壊した。
「……こんなものかな」
女はふぅとため息をついて額の汗をぬぐった。
「お見事!」
「百発百中だな! すごい弓さばきだったぜ!」
思わず賛辞を送るアタイとジョニーに女はニッコリ笑顔で返す。
そしてキリリと弓矢を構え、次の狙いをアタイらに定めた。
「さあ覚悟しなさい! 凶暴なモンスターめ!」
「いやいやいや!」
「俺たちを助けてくれたんじゃなかったのかよ!」
「助ける理由がないでしょう! いかなるモンスターも私たち人間の敵! それを退治するのが勇者の役目よ!」
「なんだって? それじゃあんたは……」
「私の名前はスージー。女勇者よ!」
チッ!
またもや勇者のお出ましかい!
こんな奴に窮地を救われたとはゴブ子一生の不覚だよ!
まあ、すぐ次の窮地に陥ってんだけどね!
「それにしても、なぜこの平原にあなたたちのような低級モンスターが? 本来の出没地点はずっと遠いはずよ」
「まあそれは、いろいろあってだな」
「この辺りをうろついてて『ウワサの献身家』に出くわさずにいられたのは幸運だったわね。でなければきっと退治されてたはずでしょうから。まあどっちみち、今から私が倒しちゃうんだけど」
「ちょっと待て。『献身家』ってのは誰のことだ?」
「最近この近辺の低レベルクエストを軒並み消化していってる冒険者がいるらしいのよ。それも特に報酬金額の少ないクエストばかり選んでね。きっと富や名声に囚われずに困っている人々を助けて回る心優しい人なんでしょうね。私も一勇者としてお目にかかりたいと思って追っているの。キラービー討伐を請け負ってここに寄ったのもそのためよ」
スージーは夢中になって『ウワサの献身家』の素晴らしさを語る。
……かなり言い出しにくい空気だけど、それってたぶんアタイらのことだよね?
というかアタイらの受注クエストってそんなに低額の案件だったのかよ!
選り好みできる身分じゃないにしても、一気にやる気が削がれちまったね!
「実は勇者業ってどんどん成り手が減っているのよ。一見きらびやかな職に見えるでしょうけど、レベルが上がるまでは地味な修行が多いし、危険な目に遭うことも少なくないしね」
スージーはいつの間にか構えた弓を下ろしてお喋りに熱を入れている。
「新人勇者が現れないと低レベルのフィールドで発生するクエストはいつまでも放置されてしまうでしょ。私は中堅クラスの勇者なんだけど、困ってる人のために時々こうして序盤のフィールドの様子を見周りに戻ってくるの」
自分の冒険を差し置いてでも他の地区のクエスト攻略を優先するだって?
お人好しにもほどがあるだろ!
なんだか聞いててイライラしてくる女だね!
「あんたの信念とやらには微塵も興味が無いね! さっさと『ウワサの献身家』探しを続けたらどうだい? アタイらはもう行くからさ!」
「待ちなさい」
スージーは長弓を背中に背負い、両手を腰に置いて仁王立ちした。
「あなたたち、大方自分の出没地点を見失ってしまった迷子モンスターなんでしょ? しょうがないから私が本来の持ち場まで送ってあげるわ」
「ハア!?」
「フィールドには危険な魔獣がいっぱいよ。あなたたちのレベルで出歩くにはリスクがありすぎる」
「だからって、なんであんたが手助けをするんだよ!?」
「いかなるモンスターでも人間の敵なんじゃなかったのか?」
「それはそうだけど、困っているなら人だろうがモンスターだろうが関係なく手を差し伸べるべきよ。ね、それが勇者ってやつじゃない?」
なんだい、こいつの一片の曇りもなく輝く瞳は!
正義漢な上に生真面目な優等生キャラってところか!
クソが!
アタイはこういうタイプの女が一番嫌いなんだよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
アタイらのもとに突如飛来した巨大魔獣!
ランダムに発生する強敵との遭遇イベントだって?
まったく、はた迷惑なクエストもあったもんだよ!
即席パーティとは言え勇者と組むなんて気が進まないけど、四の五のは言ってられないね!
さあスージー、あんたの実力を見せてみな!
【第17話 ゴブリンガールは傍観する!】
ぜってぇ見てくれよな!




