第159話 ゴブリンガールは木の葉隠れする!
今日もクソ修行のために山に登る道中でアタイとヘテの喧嘩が勃発した。
「ふざけんじゃないよエセクノイチ! あんたねえ、最近の投稿サイトやTwitterの反応知ってるか? 読んでくれたみんな呆れ返ってんだよ!」
「あんたらが不甲斐ないせいだけん! ウチのせいじゃないけん!」
激しいど突き合いをしていると偶然通りがかった長身の女が話しかけてきた。
「ちょっと尋ねたいことがあるんですけど……」
「ああん!? いま取込み中なの見てわかんだろ?」
「後にしときー!」
女は不気味に目を細めながら恨めしい声でなおも続ける。
「わたしの顔……綺麗……?」
「黙ってろっつってんだろドブスが!」
「言ってわからんなら痛い目見るけん! 死にさらせ!」
臨戦態勢のアタイたちを前に、女はギロリと目を見開く。
次の瞬間、アタイたちは驚きのあまり飛び上がった。
なぜなら女の首がぬるりと伸びて数メートルの長さになり、その場でとぐろを巻き始めたからだ!
~ろくろ首(討伐推奨レベル12)~
若い女の姿をしていて、首を伸ばしたり頭を外して空を飛び回る妖怪。
人を脅かしてイタズラするポピュラーなマスコット的オバケ。
「ぴえええええんッ!」
アタイたちは一目散に駆け出した。
ろくろ首の胴体は全力疾走でアタイらを追いかけつつ、伸びた首は大笑いしながらクルクルとその頭上を回っている。
そのおぞましい恐怖演出にアタイはチビる寸前だった。
「今こそウチの忍術の出番だけん!」
そう言うとヘテは山道を逸れて林の中に分け入った。
そうしておもむろに落ち葉をかき集め始める。
「………」
「なにボサッと見とるんね! さっさと手伝いんしゃい」
アタイとジョニーとスラモンはやれやれと肩をすぼめてみせる。
さて、今回はどんなインチキ術を披露してくれるんだろうねえ。
手分けして落ち葉を一カ所に集めると、すぐにこんもりとした小山ができた。
「忍法、『隠れ身の術』!」
ヘテは高らかに叫ぶとその落ち葉の山へ埋もれるようにして体を隠した。
「………」
アタイとジョニーとスラモンはやれやれと肩をすぼめてみせる。
「どうする?」
「焼き芋の要領でこのまま火つけてやろうぜ」
「どうせ燃やすなら一緒に食べ物も入れときたいンだわ」
アタイたちは手分けして落ちてる栗や銀杏を拾い始めた。
「ドングリって焼いたら食べれる?」
「アルミホイルがあればキノコ類もいけるぜ」
「焼きリンゴっていうのもおいしいらしいンだわ」
紅葉真っ盛りの山の中は秋の味覚の食材でいっぱい!
いろいろと目移りしちまうね!
アタイたちはホクホク笑顔で収穫物を持ち寄り、濡れた新聞紙にくるんで落ち葉の山に突っ込んでいく。
そして火打石を使って火をとばした。
パチパチと燃え広がる炎。
ちなみに、最近は公園やキャンプ場では焚き火を禁止している場所も多い。
条例で禁止されている自治体もあるので、火を取り扱うなら事前に確認をしておこう。
それに山菜を採る場所が個人の所有地でないかの確認も忘れずにね。
ルールとマナーを守ってエンジョイ秋の行楽!
「あったか~い」
何食わぬ顔で暖を取る3人。
ヘテは落ち葉の中でやせ我慢でもしているのか、まったく気配を示す素振りが無い。
「おうこらエセ女。そろそろ情けない悲鳴を上げて許しを乞いながらその憐れな泣き顔をさらしたらどうだい?」
木の枝でツンツンとつつくと、焚き火の中からゴロンと何かが転がり出てきた。
しかしそれはヘテではなく、なんと彼女の背丈と等身大の太い丸太だった。
いつの間にこんなものが!?
「ふふふ……」
押し殺すような笑い声を聞いて顔を上げると、近くの高木の幹に掴まってこちらを見下ろすヘテの姿があった。
「恐れ入ったと? これぞ忍法『変わり身の術』だけん!」
「バカな……!」
「どのタイミングでこんなものを仕込んだんだ!?」
「俺たちの目をかいくぐるとは、なかなか侮れないンだわ」
食べ物集めで目を離しまくってたアタイたちにもこの展開は予想外!
「ふふふ。今ならその落ち葉と丸太がセットでお値段……」
「いや落ち葉集めは俺たちも手伝っただろ」
「燃えてる最中だし」
「こんなもん売りつけるなんて図々しすぎなンだわ」
「しゃーしか! 黙らんね!」
ヘテは高木から飛び降りてアタイたちの前に着地した。
だがそこで問題が起こった。
着地の位置取りに失敗し、拍子にジョニーが突き飛ばされてしまったのだ。
「ウワーッ!」
すっ転んで脱臼した骨がバラバラと辺りに飛び散る。
「あっゴメン」
「あ~あ。めんどくさ」
「あんたがやったんだから1人で拾い集めなよ」
冷たくあしらうアタイとスラモンの前でヘテがすまなそうにジョニーの骨片を拾っていく。
「おいおい何やってんだよ。それは俺じゃなくて枯れ枝だろ」
「そげなこと言われても全然見分けがつかんばい」
ここは落ち葉や枝が乱雑に広がる林の中。
ただでさえ目立たない色味をした棒状のものを正しく見つけ出すのは想像以上に困難だ。
「もしやこれも一種の隠れ身の術……! 恐ろしや、シャレコウベも忍術使いだったとは!」
悔しさのあまり歯ぎしりをするヘテ。
「おのれ卑怯な! 隠れてないで姿を見せるたい! ここか! ここか!」
「ククク。残念。またハズレだぜ」
ヘテはむやみやたらに落ち葉の中に手を突っ込み、ゴソリと持ち上げてはまき散らす。
騒がしくて仕方ない。
そうこうしているうちに本気で骨が見つからなくなってきて焦った。
みんなで協力して探しても必要なパーツは一向に揃わない。
「もう足りない所は枝でよくない?」
「勘弁して」
涙目のジョニー。
気が付けば日が暮れて辺りが暗くなり、帰り道もわからないアタイたちは途方に暮れた。
心細く焚き火の前に身を寄せ合い、すっかり焦げ付いてしまった焼き物をモソモソと齧って飢えをしのぐ。
誰に言うでもなく、ボソリとヘテが呟いた。
「……忍法、『火遁の術』」
いやこの火つけたのあんたじゃないから!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
え? ろくろ首?
……呆れて寝床に帰っちゃったんじゃないの?
【第160話 ゴブリンガールは口寄せの術する!】
ぜってぇ見てくれよな!




