第15話 ゴブリンガールは村を襲う!
~平凡な村アキルノ(探索推奨レベル13)~
「村人どもを蹂躙し、ここにある物資のすべてを奪う! それが盗賊流のやり方だ!」
「オオーッ!」
「お前たち、準備はいいか! 行くよ!」
「オオーッ!」
アタイの怒号を合図に盗賊たちは一斉に村へ突入した!
村人たちは悲鳴を上げながら逃げまどう。
「キレイな村だなあ。花壇の手入れが行き届いてるぜ」
「季節の草花がお出迎えだあ……」
「こんな村に住まわせてもらえたら夢のようだな」
「よそ見してんじゃないよ! あんたたち!」
「ハ、ハイッ!」
まったく、能天気な盗賊どもだね!
戦争をなんだと思ってんだい!?
「いいかい! この村は焼き尽くす! 住人も一人残らず殺しな! 殺して金品を奪うんだよ!」
「そ、そこまでしなくても。俺たちは洗剤や清涼剤を少し分けてもらえれば……」
「うるさいねぇ! アタイの言うことに従いな!」
キレるアタイをジョニーが止めに入った。
「やりすぎだぜゴブ子! 完全にお前の私情が絡んでんじゃねえか!」
「そうだよ! ここの奴らはクエストと称したお使いで散々アタイをこき使ってくれたんだ! いい気味じゃないか!」
アタイら一団は目障りな村人どもをなぎ倒しながら突き進み、村の中心部である集会場へとなだれ込んだ。
迎え出た村長がアタイの姿を見て悔しそうにうめく。
「ぐぬぬ……。あのゴブリンが敵として帰ってくるとは!」
「観念しな村長! たった数百ゼニで人を飼い慣らそうとした罰を受けるんだよ!」
「黙って村を明け渡すことはできん! こうなれば全面戦争じゃ!」
村人たちはクワを手に立ちはだかる!
盗賊たちと睨み合い、一触即発の状況だ!
「小癪にも抵抗する気かい……」
「どうしやすかゴブ姐?」
「このまま勢いで押し込めるんだよ! 単発ガチャを回す!」
頼むぞ課金フルパワー!
ガチャの力で最凶モンスターにメイクアーップ!
虹色に輝くスマホから飛び出したのは――――!
一膳の割りばしだった。
~割りばし(使用推奨レベル2)~
縦に割れ目の入った木の棒で、二つに割って食事に使う。
一般的な使い捨て用の箸。
……アタイはそっと割りばしを床に捨てる。
みんなの視線が痛い。
「なに見てんだよ! さっさと殺し合えよ!」
たまらず叫んだアタイに、みんなはさっと視線をそらした。
そのときだった。
集会所の外で村人の叫び声が上がった!
「イノシシのモンスターだ! ワイルドボアが出たぞー!」
ただ事じゃない様子にアタイたちは外へ出てみる。
そこでは大きな図体をしたイノシシが鼻息荒く暴れ回っていた。
~ワイルドボア(討伐推奨レベル13)~
獰猛な巨大イノシシ。
しばしば生息地の山から人里に下りてきて畑地を荒らす厄介者。
「こいつじゃ! クエストボードに討伐依頼をかけておいた畑荒らしの犯人じゃ!」
「別クエストが横入りしてきたってのかい!? この忙しい時に!」
「このままじゃ村を破壊されちまう! どうするんだゴブリンガール!」
村人も盗賊もアタイに意見を求める。
どうするも何も、説得を聞くような相手じゃないんだからやれることは限られる。
「戦うしかないだろう!」
「だけど俺たちじゃレベル不足だぜ!」
「勇者ならまだしも、わしらはただのモブキャラじゃしのう……」
「なに弱音吐いてんだい! アタイたちの村だよ!? 自分で守らないでどうすんのさ!」
アタイはみんなに向き直って声を張り上げる。
「今こそ立ち上がる時だよ! たとえ低レベルの烏合の衆だろうが、みんなが集まって力を合わせれば困難も乗り越えられるはずだ!」
「ウオーッ!」
「勇者なんかクソくらえ! モブの底意地を見せてやれ!」
「ウオオーッ!」
士気は爆上がりした。
村人と盗賊は手を取り合い、共にワイルドボアに立ち向かう。
その熱気に押されてワイルドボアも困惑気味だ。
「ジョニー! アタイらも加勢するよ!」
「おうよ!」
アタイとジョニーも必死になってクズアイテムの割りばしやらつまようじやらを投げつける。
「そうれっ!」
アタイの投げつけた薬草がワイルドボアの鼻先に当たった。
するとワイルドボアはひどく情けない鳴き声を上げて暴れ出した。
「様子が変だね。どうしたってんだい?」
「あの薬草は悪臭を取り除く清涼剤としても使われる。自分のマーキングの匂いが消えるのを嫌がってるのかもしれないぜ」
「そうとわかれば……! みんな、村の薬草を持つんだよ!」
みんなが手に薬草を握りしめ、雄叫びを上げてワイルドボアを追いかけ回す。
「ほぅれほれほれ!」
「そいや! そいや!」
ワイルドボアはたまらずに悲鳴を上げて村を飛び出し、そのまま一目散に逃げてしまった。
「大イノシシを追い払ったぞー!」
村人も盗賊も敵対していたのを忘れ、互いに抱き合いながら勝利を喜ぶ。
村中に歓声が沸き起こり、それはしばらくやむことなく続いたのだった。
~それから一夜明けて~
「あの薬草を畑の周りに植えておけば二度とワイルドボアが荒らしに来ることはないだろうね」
「しかし、まさかクエスト攻略の鍵になるのが別クエストで入手できるアイテムだったとはな」
「わしは多くの勇者と出会ってきたが、基本は剣や魔法でゴリ押しするだけじゃった。こんな攻略の仕方は初めてじゃったぞ」
興奮冷めやらぬまま昨日の武勇伝について語り合うアタイたち。
そんなアタイの前に盗賊団の一人が近づき、改まって話し始めた。
「村長の許しが出て、俺たち盗賊団はこの村に住まわせてもらうことになった。キレイ好きが功を奏して村の衛生管理の仕事をもらったんだ。これで真っ当に生きていけるぜ」
「ふん……。あんたたちがカタギになるとはね。随分丸くなったもんだよ」
アタイはへへへと鼻をこする。
「ゴブリンガールよ。少ないが報酬金を用意した。感謝の印に受け取ってくれ」
村長がゼニを差し出す。
きっと村中の金をかき集めたんだろう。
アタイはその金を前にクルリと背を向ける。
「……昨日の騒動で少なからず村に被害が出たんだ。その金は復興のために使いな」
「じゃが……」
「俺たちゃ400万越えの借金を背負ってんだぜ。その程度の金じゃ足しにもならないってよ」
「……ありがとう。ゴブリンガール。スケルトン」
「へへっ! 次のクエストが待ってんだ! アタイらはもう行くよ!」
アタイとジョニーは照れ隠しのために勢いよく走り出した。
活気を取り戻した村を後にして、振り返ることなく走り続ける。
ふん、これがクエストの達成ってやつかい。
悪くないじゃないのさ。
勇者の奴らもなかなか爽快な気分を味わってるみたいだねえ。
アタイたち、なんか良いことやっちゃいました……!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
次に出会うのは弓使いの女勇者!?
こいつも例に漏れず人をイラつかせる才能をお持ちのようだね!
どんなモンスターだろうが人の敵なら退治するのが勇者の役目?
どんなモンスターだろうが困ってるなら助けてやるのが勇者の情け?
ええい、矛盾だらけの理想論を並べやがって!
あんたの話を聞いてると頭が爆発しそうになるよ!
【第16話 ゴブリンガールは矢を向けられる!】
ぜってぇ見てくれよな!




