第152話 ゴブリンガールは航海する!
ジョニーが磔にされた海賊船に乗り込み、その背後に赤服団の艦隊が追従するという形で海原を突き進むアタイたち。
目的地へと先導をするのはセイレーン(オットセイ)の魔獣トセイ子。
「マーメイドっていろんな場所を棲みかにしてるのよお。サンゴ礁の海底にステキな人魚の街があるのは知ってた? 煌びやかなマリーン歓楽街。みんなも気に入っちゃうわよぉ♡」
マーメイドの街だなんてなんともメルヘンな話だね。
まあその人魚ってのがみんなトセイ子のような体型だとしたらなかなかの魔境だろうけど。
「『竜宮城』っていう行きつけの店があるのよぉ。手ごろな料金で休憩一泊、多彩なプレイを朝まで楽しめちゃうのお♡ まあこれだけの人数を入れようと思ったら大部屋オプションは必須だけどねえん」
なんの話!?
それ絶対竜宮城って名前のラ〇ホ的な施設でしょ!?
赤い巻毛をクルクルと指でいじり倒しながらトセイ子は腰を振る。
「追加料金で海の幸の限界大皿女体盛りコースもあるわあ。あんたたちも私のバミューダトライアングルから噴き出すエロティック潮流で海底2万マイルまで窒息潜水よお♡」
それっぽいけどまるで意味の分からない隠語ばかり並べてんじゃないよ!
この淫乱ドブス半魚人が!
案の定ジョバンニが鋭い鉤爪をトセイ子の顔面に突き付けた。
「俺たちが欲しいのは『黒真珠』だ。その在りかを教える気が無いなら今すぐサメの……」
「んも~う! そんなに先走っちゃイヤ~♡」
トセイ子曰く、真珠を守る水龍は荒潮を作り出し、それが人魚の街にも被害をもたらしているそうだ。
つまり水龍退治はセイレーンたちにとっても願ったり叶ったりなのだ。
「じゃあなんで岩礁洞窟で邪魔してきたんだよ」
「タフな勇者を選別してたのよぉ。だってえ、すぐに果てちゃうオトコじゃつまんないもおん。ンフフ。あんたたちは合格ぅ♡」
アタイは上目遣いで舌を舐めずり回しているこの珍獣をぶちのめしてやりたい衝動に駆られた。
――――そうこうしていると急に視界が暗くなり始めた。
波が荒くなり、まき上がったしぶきが霧のようになって太陽の日差しを遮っているのだ。
何かが始まりそうな妙におどろおどろしい空気。
~荒れ渦潮の禁海ドブリーン(探索推奨レベル54)~
進行方向の海面に巨大な渦が巻き始める。
その直径はみるみるうちに拡大し、アタイたちの艦隊すべてを飲み込んでしまいそうなほど大きくなった。
ジョバンニの指示で大砲が空打ちされる。
その音を合図にサンタルチア率いる後続の赤服団が戦列を揃え始めた。
渦潮を取り囲むように配置に着く海賊船たち。
その中央からズズズと音を立てて、ついに伝説の水龍が海上に姿を現した!
~リヴァイアサン(討伐推奨レベル72)~
大海を棲みかとする伝説の龍の海獣。
巨大な身体が創り出す渦潮はいくつもの船舶を海の底へと引きずり込む。
リヴァイアサンって神話とかゲームとかによく出てくる名前だよね?
めっちゃ強そうじゃないあれ?
チラチラと煌めく海水の雨を降らせ、長い首を天へと伸ばすリヴァイアサン。
表面の藍色の鱗は体をくねらすごとに美しく濃淡を変化させる。
その荘厳な迫力たるや!
リヴァイアサンが瞳を光らせ頭を振ると、周囲の水面がとぐろを巻き始めた。
やがてそれは小規模の竜巻のように空へ向かって水柱を伸ばしていく!
「ウワー!」
水竜巻の直撃を受けて次々に難破していく海賊船!
アタイたちの乗るジョバンニの船も回避運動が間に合わず、水柱に乗って宙へと浮き始めた!
「船底が割れたぞ!」
「もうダメだ! 粉々にされる前に脱出しろ!」
逃げまどう船員たちに続いてアタイとスラモンも海へとダイブした。
初っ端から絶望的だよこれは!
運良く通りかかった赤服団の船に引き上げてもらい、ゼエゼエと飲み込んだ海水を吐き出すアタイたち。
「あらあら♪ もうギブアップ~?」
偶然にもこの船はサンタルチアが乗る旗艦だったらしい。
青ざめて涙を流すアタイらと対照に、このイカれサンタは大興奮で手を叩いている。
「出たわね~、伝説の水龍! 早くあの返り血を体中に塗りたくりた~い!」
「何バカ言ってんだよ! あの意味不明な範囲攻撃を見ただろ! さっさとここからトンズラするんだよ!」
「やだ~! ここまできて逃げちゃうなんてダサすぎ~。フック船長だってまだ戦ってるのに」
「え、ジョバンニが?」
空を見上げれば、水柱に乗って崩れゆく船の甲板にジョバンニが1人居座っている。
そうして龍の顔の位置まで高度が上がるのを待ち、砲台の導火線に火を付けた。
「……全弾発射!」
向けられたすべての大砲から火の粉と共に鉛の玉が飛び出す!
それらは竜の顔から腹にかけて縦列に当たって激しい爆炎を上げた!
――――しかし、リヴァイアサンの藍色の鱗はまったくの無傷。
対して、かろうじて形を保っていた海賊船は砲撃の反動で自壊してしまった。
砕けた破片が水柱に呑み込まれていく中、ジョバンニが残骸を足場にし、助走をつけて水龍に向けて飛び掛かった。
「……サメのエサにしてくれる!」
~ウィラッパークロウ(アビリティレベル39)~
鉤術闘勇士の習得する攻撃戦技。
鋭利な鉤先を突き刺し、大振りで肉を引き裂くことで裂傷・出血ダメージを与える。
ジョバンニの振るった会心の一撃!
……だが、その鉤爪はリヴァイアサンの堅強な鱗を破るどころかひっかき傷ひとつ付けられなかった。
「……くっ!」
火花を散らしながら鉤の先を鱗に滑らせ、海面に向かって落下していくジョバンニ。
やがて荒れ狂う波しぶきに隠れて姿が見えなくなってしまった。
さすがは海の化身ことリヴァイアサン!
まるで歯が立たないよ!?
サンタルチアの船の上でブルブルと震えるアタイとスラモン。
「あれ? そういえばジョニーは?」
「まだ帆に磔にされたままだったンだわ」
見ると空から落ちてきた船の残骸の中にジョニーが縛り付けられたままの柱があった。
「エンダァ――――イヤァ―――w」
ひとりタイタニックポーズでブクブクと水の中に沈んでいくジョニー。
「ジョニー!」
「あのバカ、無茶しやがって……!」
全米が泣いた。
……さあて!
ジョニーもジョバンニも海の藻屑となったことだし、全部の船が沈む前にさっさと陸地に帰るとしない!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ムリムリ! こんなの勝てるワケないじゃん!
いくら海賊船の数を揃えたって見込みゼロだよ!
大体さあ、もう10月に差し掛かってんだよ?
いつまでも海とか海賊とかサマーとか、お前ら暑苦しいんよ。
さっさと次のクエスト行かせてよ!
【第153話 ゴブリンガールは水しぶきを浴びる!】
ぜってぇ見てくれよな!




