第148話 ゴブリンガールは海賊王に俺はなる!
鉤爪の義手を付けた海賊団のリーダーはジョバンニと名乗った。
だがそれ以降は口をつぐんだまま。
どうやら相当無口な男らしいね?
見かねた下っ端乗組員がいろいろとアタイたちに教えてくれた。
「賞金首クエストを受注するなら俺たちに手を出すのはお勧めしないぜ。ジョバンニ船長はここらで一番腕の立つ海賊だからな。なんたって元勇者だし」
「元勇者?」
「なんでも昔に参加した魔獣討伐のクエストで大怪我を負ったらしくてな。一線を退いて冒険の場を海に移したって次第さ」
ふうん。
ジョバンニの眼帯と義手はそのときのものらしい。
しかし、当の本人はさっきからダンマリを貫いたままだ。
舌まで欠損してんじゃないかと疑うほどの寡黙ぶりだよ。
「元勇者様がどうして海賊なんかに成り下がったんだ?」
「腕が無くたって他に仕事はいくらでもあるンだわ」
「……ふん。お前たちにはわかるまい」
アタイたちの問いかけにやっとジョバンニが言葉を返した。
遠い目で水平線を見つめながら過去を振り返る。
「……あの惨事を経て俺は自分のあるべき姿を見失った。迷走したんだ」
そうしてしみじみと右腕の鉤爪に視線を落とす。
……確かに、自分の腕が無くなるなんて体験は相当なショックだったに違いない。
義手を付けて海賊業を始めることになるまで、きっと様々な逡巡を経たんだろうね。
「……そうだな。ひとまずこの腕にサイコガンを取り付けてみたり……」
「え? サイコガン?」
「スペースコ〇ラ?」
「鬼の手を付けて熱血教師に転職してみたり……」
「地獄先生ぬ~〇べ~?」
「全身青スーツでロックバスターを振り回したり……」
「ロック〇ンだね」
「ロックバスターっつっちゃったね」
「そうして最後にこの鉤爪に行き着いたのだ」
うん、な~るほど!
形から入るタイプですね!?
「……海が俺を呼んでいる」
呼んでねえよ!
お前単に海賊コスプレが気に入っただけだろうが!
それからジョバンニはポツポツと海賊業について語ってくれた。
彼曰く、一口に海賊と言っても大きく分けて2つの人種がいるそうだ。
『海の盗賊』として人々を襲うことを生業とする野蛮な連中と、純粋に秘宝を求めて大海を冒険するトレジャーハンター。
ジョバンニ海賊団は後者にあたるという。
「海の秘宝だって?」
「……ああ。俺たちが今探しているのは『黒真珠』と呼ばれる希少アイテムだ。マーメイドしか道筋を知らない秘境に隠され、水龍が守ると言われる伝説のお宝」
ほおー。
海の探検家たちがこぞって探し回る黒真珠とやら。
そんなもんを入手できれば大儲け間違いなしだね!
「……だが問題がある。宝を求めてむやみやたらにこの海域を荒らす『赤服の海賊団』の存在だ」
前回もちらっと話に出た『赤服の海賊団』。
最近になって突然出没した新手の海賊団のようで、そのリーダーと思しき人物は名の通り全身を真っ赤に染めているそうだ。
その一味は手当たり次第に海賊船を襲い、倒した者たちを配下にしてどんどん勢力を増しているという。
「……話ではすでに一個艦隊ほどの船数を従えているらしい」
「艦隊!? ヤベーじゃん!」
「……ああ。だが海の秩序を乱す者は俺が必ず捕らえてサメのエサにしてやる」
そう言って再び遠い目をするジョバンニ。
「……赤服団を下し、財宝を手にし、そして海賊王に俺はなる」
……………。
……はあ?
お前そのセリフ言いたかっただけちゃうんか?
アタイはもうこの男に出オチキャラとしての存在意義しか感じることができなかった。
~それから数時間後~
真夜中の海に浮かぶ船の上、アタイたちは見張りを命じられてマストによじ登っていた。
でも見張ろうにもどの方向を向いたって暗い波しぶきしか見えやしない。
「あーあ、面倒なことになっちまったな」
「今回のクエストはガッツリ戦闘回っぽいンだわ」
「ふん。まあいいじゃないか。ジョバンニが赤服団ってのを倒したらしれっとアタイらが報告に上げて賞金首クエストの手柄にしちまえば良い」
「もしジョバンニが負けたら?」
「そしたら代わりに奴の首を差し出せばいいだけのこと。どっちも海賊なんだから誰が勝とうが報酬金は手に入るよ」
隙あらば漁夫の利を狙いまくろうという頭脳プレイ。
アタイってば賢い!
……まあ問題は、この海原から陸地までどうやって逃げおおせるかってことだけどね。
「そう上手くいくワケねえよな」
「ゴブ子が悪だくみするときはいつも悲惨なオチになるに決まってるンだわ」
「うるさいね! ピンチはチャンスの精神だよ! ポジティブシンキングさえあればなんでも上手くいくもんだよ!」
――――とそのとき、アタイたちの背後からけたたましい炸裂音が轟いた。
続いて近くの海面が大きなしぶきを噴き上げ、巻き起こった荒波で船体が揺さぶられる。
「うわあーっ!」
「これは一体何事だい!?」
慌てて振り返ると、いくつもの海賊船がアタイらの船を取り囲んでいるではないか!
どうやらさっきのは敵の大砲がこちらを攻撃したものらしいね!
「バカヤロォ! 見張りはどこ見てやがった!?」
「ヒー! すんません!」
こちらに迫り来る謎の艦隊。
その帆には黒地の上に真っ赤なペンキでドクロマークが描かれている。
「赤服団のお出ましだぞォー!」
もう来たの、赤服団!?
展開はやっ!
敵艦隊の先頭にいた数隻が体当たり覚悟でこちらに突き進んでくる!
「回避ィ―!」
「ダメだ! 間に合わねえ!」
その内の一隻の船首がアタイらの船の横っ腹に激突し、大きく横揺れを起こして止まった。
そのまま敵の乗組員たちがこちらの甲板へと次々に飛び移ってきた。
「戦闘だあ!」
壮絶な斬り合いを始めるジョバンニ団と赤服団の男たち!
アタイらはマストの上で震えながらその様子を窺うことしかできない。
「……ピンチはチャンス?」
「ポジティブシンキング?」
ジョニーとスラモンが誰に言うでもなくボソリと呟く。
……ふざけんじゃないよ!
こんなもんのどこがチャンスだってんだよバーカ!
そうこうしてると背後に回っていた敵艦が砲撃を放ってきた。
大砲の玉が命中し、アタイたちのいるマストの根元がボキリと折れる。
「イヤーッ!」
3人はバラバラに海へと投げ出された。
「ごぼごぼごぼ……!」
水面が上か下かもわからないあぶくの中でもがきながら、次第にアタイの意識は薄れていった――――。
~~~
……ン?
気を失ってからどれだけ経っていたのだろう。
気が付くとアタイは見知らぬ船の上にいた。
「あら? ようやく目覚めみたいね。お寝坊さん~♪」
クスクスと笑いながらアタイの顔を覗き込む一人の女。
その全身は目がチカチカするほど真っ赤な海賊服で彩られ、羽根つき帽子からこれまた色鮮やかな緑髪が垂れている。
アタイはそのドギツい配色に見覚えがあった。
「私のソリ引きをしてた生意気なゴブリンガールと今度は海の上で再会だなんて! ビックリしちゃったわ! ね~!」
「あ、あんたは……! サンタクロースの勇者、サンタルチア!?」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
去年のクリスマスを地獄に塗り替えてくれたサンタルチアがまさかの再登場!?
真夏にサンタクロースなんてお呼びじゃないんだよ!
さっさと帰んな!
なになに、南半球は季節が逆だから夏服のサンタもいるだって?
じゃあ南に行って暴れてこいよ!
【第149話 ゴブリンガールは捕虜になる!】
ぜってぇ見てくれよな!




