第136話 ゴブリンガールは馬券を買う!
この競馬場には10頭の競走馬が集い、朝から晩にかけて6レースを走る。
まずは第1レースだ。
ここでドンと勝ち星を挙げられれば波に乗れる。
一日の運気を左右する最も重要な一戦と言えよう。
据わった目つきで馬券売り場の列に並ぶアタイにロザリアンヌが話しかける。
「どの馬に賭けるんですの?」
「実力、経験ともに頭一つ抜けてるのはトロルマーマレード。次いでゴーレムカルパッチョにキマイラストロガノフってところだろうね……」
アタイは施設の中央にそびえる巨大掲示板を見上げる。
そこに示し出されたオッズの数値もトロルマーマレードの不動の人気ぶりを表していた。
と、そこで背後からガヤガヤと煩わしい関西弁が聞こえてきた。
「なんやなんや! そこのお前、誰かと思えばいつぞやの西洋河童やないかい!」
「あんたは……、アズキ洗いのあずにゃん!?」
※あずにゃんについてはサイドクエスト【百鬼夜行する!】(第76話~)を参照。
「借金まみれのクセしてようこんなとこにおるなあ! 性懲りもなくギャンブルで一山当てるつもりかい! 世話無いわ!」
「ふん! あんただってアタイと同じ穴のムジナだろうが!」
まさかこんなところであずにゃんと再会することになるなんて……。
まあ、予想外ってほどでもないかな?
「あらあら、たくさんの馬券をお買いになったのですわね」
「せや。3連複でいくつかの組み合わせを買うたんや」
「3連複とは何ですの?」
「レースでトップ3に入る3頭の馬を予想するっちゅう賭け方や」
――――競馬での賭け方は大きく分けて単勝と複勝の2種類がある。
単勝は1着となる馬を1頭のみ予想して賭けるというシンプルなもの。
対して複勝とは複数の馬を選ぶ。
あずにゃんが賭けた3連複は選んだ3頭の馬たちが漏れずにトップ3にランクインすれば的中となる。
ここからさらに1~3着までの順位も予想して賭けるものを3連単というが、難易度がより高くなることは説明するまでもないだろう。
「河童! お前は何に賭けるつもりや?」
「ふん。やはり有力候補のトロルマーマレード。こいつに単勝で買うよ!」
「ほお~1点勝負かいな。勇ましいなあ。せやけどトロルは人気馬やさかいオッズに旨味が無いでえ」
小馬鹿にしたように笑うあずにゃん。
だがアタイは券売窓口に立つと、先ほどロザリアンヌから借りた全額をためらうことなくカウンターに叩きつけた。
「有り金すべてを!? バカなっ……! レースに絶対はないんやぞ!」
「チマチマやってたんじゃあいつまでたっても元金から膨らまないだろ!」
「まさかお前、当てたらその金コロガシよる気やないやろうな!?」
青い顔をするあずにゃんにロザリアンヌがきょとんと尋ねる。
「コロガシとはなんですの?」
「当てて得た払い戻し金を次のレースに全額突っ込む……。これを繰り返して雪だるま式に資金を大きくしてこうっちゅうハイリスク極まりない戦法のことや!」
窓口の係員から渡された馬券を握りしめ、アタイはギロリと目を光らせる。
それはまごうことなく勝負に出たギャンブラーの瞳。
「せいぜい高みの見物でもしてなエルフ令嬢。これから始まるのは他でもない、いち庶民の人生を懸けた真剣勝負だよ……!」
アタイの迫力に気圧されてゴクリとツバを飲み込むロザリアンヌ。
レース場に10頭の競走馬が並んだ。
ちなみにユニコーンなので背中には立派な翼が生えているのだが、今はそれはキレイに折りたたまれている。
今日のレースは純粋に脚力を競い合うものだからだ。
実は空を飛ばせるタイプの競馬もあるんだけど、まあそっちは着順の予想が大荒れする上級者仕様なのでアタイはあまり好まない。
かくして第1レースがスタートした!
すぐに先頭へ飛び出したのは不動人気のトロルマーマレード!
やはり速い! 爆速!
栗色の毛並みをなびかせ、額から伸びる一本角の突き出すようにして風を切る。
見惚れるほどの雄々しい走りっぷり!
ライバル馬たちに大きな差をつけて堂々の1着ゴールを決めた。
「素晴らしい! 的中ですわ!」
「この程度、喜ぶにはまだ早いね」
このレースでの勝ち馬のオッズは1.2。
つまり元の資金を1.2倍に増やすことができたわけだが、このペースでは良くない。
万が一外して無一文になったときのリスクを考えればむしろ賭けない方が賢明と言えるだろう。
だが焦ることなかれ。
レースはまだ始まったばかり。
「競争を重ねるたびに馬たちに疲れの色が見え始める。そうなってくると当然順位の変動も激しくなる」
「予想が難しくなってオッズも分散しますわね」
「そこが大穴を狙いに行くチャンスだよ」
そして儚き無鉄砲こと単勝コロガシ師の腕の見せ所でもあるってワケだ。
「アタクシ興奮してまいりましたわ……」
ウズウズと身をよじるロザリアンヌ。
この財閥令嬢は経営するエルフ銀行を介して投資家としても手広く活動している。
どうやらその血が騒ぎだしたみたいだね。
「やりよるなあ西洋河童! ワイもおちおちしとられんわ!」
あずにゃんも先ほどのレースでいくつかの予想を当てたらしい。
的中馬券をヒラヒラと揺らしてニタリと不快な笑みを向けてきた。
歓声響き渡る場内で静かに馬券と競馬新聞を握りしめるアタイ。
その目は芝生の上に佇むユニコーンたちを、そしてこれから続く第2レースの光景をしっかりと見据えている。
負けられない戦いが、そしてアタイたちの青春がここにあるのだ――――。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
わかってるから!
大丈夫だから!
あと一戦だけ!
いま波来てるからあ!
【第137話 ゴブリンガールは単勝コロガシする!】
ぜってぇ見ていただきたいですわ!




