第135話 ゴブリンガールは悪役令嬢と出会う!
~良くわかる! 前回までのあらすじ~
オークとドワーフの抗争で春祭りは台無しに。
スポンサーを務めたエルフ財閥のロザリアンヌ令嬢は激おこぷんぷん。
そこでアタイがエルフ銀行の重債務者であると気付き、ヒマ潰し代わりに召使いをやれとおっしゃりやがったのだ――――!
~あらすじ終わり~
「まあ。なんと品の無い喧騒にあふれていることでしょう。煩わしさに耳鳴りがしてきましたわ」
バーンズビーンズの街中へやってきたアタイとロザリアンヌ。
こいつは箱入り娘で育ってきた貴族令嬢だ。
これまであまり下町に繰り出すことも無かったのだろう。
商業地特有の活気と雑多な人混みに嫌悪感を露わにしている。
「さあ、アタクシの召使い。こんな空気の悪いスラム街などさっさと抜けて、メインストリートまで案内なさいな」
「何を勘違いしてんのか知らないけど、アタイらの立ってるこの場所がまさにバーンズビーンズのメインストリートだよ!」
「オホホ、ご冗談はおよしなさい。道行く皆が乞食のようないで立ちではありませんこと」
「あんたの悪趣味なゴスロリドレスと比べて話すんじゃないよ!」
ケッ、お高くとまりやがって!
アタイはこういうタイプの女が一番嫌いなんだよ!
何を思ったのか、ロザリアンヌはおもむろに懐から札束を取り出した。
そしてなんのためらいも無く宙にぶちまけたではないか!
ヒラヒラと舞うお札を前にして呆気に取られる町人たち。
「さあさあ、遠慮なく拾いあそばせ。そしてマシな布着でもお買いあそばせ。お金は使ってこそ意味のあるもの。社会に循環するほど景気も良くなりますことよ。オーホホホ!」
ロザリアンヌの高笑いを合図に、その場に居合わせた全員が我先にと札に飛びつく。
通りは一瞬にしてパニック状態だ。
「何やってんだよ成金クソ女! 一番品性が無いのは他の誰でもないあんただろ!」
ブチギレたアタイはそそくさと地面に這いつくばり、散らばった札を寄り集めながらも怒号をぶつけた。
「あーらあら! 口と手が真逆のことをしていますわよ!」
「黙りな! タダ金はありがたく貰っておくけど、間違ってもあんたに感謝するワケじゃないからね!」
「あら? 思い違いしているようですわね。それはタダ金ではなく貸付金ですのよ」
「えっ?」
「いずれは利子を付けて返済していただきますわ。アタクシはエルフ中央銀行を取り仕切る財閥令嬢。お金を貸すことはあっても無償で恵むことなど決してありませんの」
クソが!
結局は全額返すのかよ!
ぬか喜びさせんじゃないよドケチ行員が!
アタイはツバを吐き捨てながら拾い集めた札をポケットにねじ込んだ。
「それにしても退屈ですわねえ。そうだ、良いことを思い付きましたわ。ゴブリンガール。アタクシとゲームをしませんこと」
「ゲームだあ?」
「数日一緒に過ごすあいだにアタクシを楽しませた分、いくらか借金の免除を考えてあげてもよろしくってよ」
小馬鹿にしたようにあざ笑うロザリアンヌ。
アタイはますますこの女が憎らしくなったが、しかしこの申し出を受けない手はない。
なんたってアタイの借金は現時点で9桁(億)を超えてんだからね!
「ふん! いいだろう、アタイが高飛車なお嬢様に庶民の娯楽ってやつを教えてやんよ! ついて来な!」
アタイはロザリアンヌの手を取って駆け出した。
バーンズビーンズの歓楽街を走り抜け、しばらくしてたどり着いたのは高い壁でグルリと取り囲まれた楕円形の大きな施設。
中央にレースサーキットがあり、その周りを青々とした芝生が覆う。
さらにその外側を取り囲むように観客席が設けられている。
「ここはなんですの? 運動競技場?」
「間違っちゃいないね。まああそこを走るのは人間じゃなくユニコーンだけどねえ」
「お馬? ということは動物園ですのね」
「バカ言ってんじゃないよ! そんな生易しい場所なんかじゃねえ……!」
ギャラリーを前に馬同士を走らせて競わせると言えば、競馬場!
いいや、もとい競ユニコーン場だ!
「ここでは絶えず熾烈な戦いが繰り広げられる。たった数分の内に巨万の富を得る者や、逆に全財産を失う者も……。重厚なドラマが渦巻く歓楽街の魔境なのさ!」
「しょ、庶民の生活圏にこのような魔境があるとは……!」
恐怖におののくロザリアンヌ。
ふん……!
この世間知らずの青二才に下民の生き様ってやつを叩き込んでやるとするかねえ!
この競馬場では10頭のユニコーンが朝から晩のあいだに6レースを走る。
客たちは馬の順位を予想して馬券を買い、当たれば倍々の払い戻しを受けることができるのだ。
だが掛け金の集中度によってオッズは細やかに変動し、それに伴い配当金も流動的に増減する。
みんながこぞって馬券を買うような強い馬(オッズが低い馬)に賭けて当たったとしても大した儲けにはならないが、大穴(オッズが高い馬)を狙って見事的中させればそれだけ利益も跳ね上がるというシステムだ。
「ふむふむ。なかなか奥が深いですわね」
「素人のあんたがいきなり賭けるには荷が重いだろうね。まずはアタイが手本を見せてやるから金を出しな」
「どうしてアタクシが支払うんですの?」
「バカが! アタイに持ち金が無いからに決まってんだろ!」
ロザリアンヌはやれやれとため息を吐いて懐から札束を取り出す。
「先ほども申しました通り、貸すことはあっても恵むことはありません。キッチリ帳簿につけさせていただきますわ」
「すぐに倍にして返してやるから安心しな!」
アタイはその金をひったくると発券場へと走った。
さあ、ついに負けられない戦いが始まるよ!
しっかり目え開いて拝んでな悪役令嬢!
あんたんとこの借金なんてあっという間に返済して、この主従関係も即解消してやるんだからね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
いい、いい。
言いたいことはわかってるから。
新たに借金してそれを競馬につぎ込むなんてバカなマネはよせって言いたいんでしょう?
みんなの気持ちは十分伝わってるから、言葉にしなくっても大丈夫。
アタイはぜーんぶわかってるよ。
【第136話 ゴブリンガールは馬券を買う!】
ぜってぇ見ていただきたいですわ!




