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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
シーズンクエスト【お花見する!】編
135/251

第134話 ゴブリンガールはお花見する!

挿絵(By みてみん)



「品の無いドワーフの大口にはチョコバナナでも突っ込んどれ!」

「家畜以下のオークどもは飼料代わりのポップコーンでも喰らっとけ!」


 相手を窒息させるべく互いの口に出し物をねじ込もうとするヤクザたち。

 そこら中で取っ組み合いが勃発し、意識を失った者から次々と地面に転がっていく。

 その荒野の中をアタイは必死に駆け抜ける。


「どこまで走ればこの地獄の並木道から出られるんだい!」


 艶めかしい夜桜の花がアタイを見下ろしながらあざ笑うように揺れている。


 とそのとき、フランクフルトの屋台から一組のオークとドワーフが絡まりながら転がり出てきた。

 それぞれがケチャップとマスタードの容器を持って中身をぶちまけ合っている。

 その流れ弾がアタイ目掛けて飛んできた。


「ウワーッ!」


 とっさに避けることもできず、思わず固く目を閉じる。

 だが、寸でのところでアタイを庇うように前へ飛び出した人物がいた。

 モリ助だ!


 びしゃあっ!

「ぐあー!」


 モリ助は身代わりに頭から大量のケチャップを浴び、全身を真っ赤に染めてその場に倒れ込んだ。


「モリ助!? しっかりしな!」

「ぐはっ……! こいつは、ちょっぴり濃口(こいくち)だぜ……」


 アタイとモリ助は客引き合戦で敵同士の陣営についていた。

 なのにどうしてカタキであるアタイを守ったりしたんだい!?


「惚れた女のため……。そのためだったら俺は組を敵に回したってかまわないのさ……」


 そう言って安らかに瞳を閉じるモリ助。


「バカヤロぉ……!」


 アタイは泣いた。

 泣きながら横たわるモリ助のもとに駆け寄る。

 そしてズボンのポケットからさっき荒稼ぎしてた札の束を抜き取って立ち上がった。


 ここでグズグズしてはいられない。

 犠牲になったモリ助のためにも立ち止るワケにはいかないんだよ!


「コラぁゴブ子! その金はウチの稼ぎだろうが!」


 そこに躍り出たのはドワーフ組のカシラのドンフー。


「うるさいんだよクソ肉団子! あんたらのせいで祭りはメチャクチャだけど、アタイは働いた分の駄賃はいただいて帰る権利があるね!」

「そいつはオークの奴らに請求しろや!」

「この争いでどっちが存続するかわからないんだから、手に入るとこからかっぱらうしかないだろうが!」


 すると土ぼこりの向こう側から野太い怒声が飛んできた。


「安心せえゴブリンガール! 生き残るのは鬼怒組じゃけえその金もウチの収益じゃ! まあ貴様にくれてやる義理なんぞは無いけえの!」


 そうして現れたのはオークのオジキ。

 血走った目でドンフーを睨みながら金棒を振り回す。

 対してドンフーも斧を手に構えを取った。

 ついにヤクザとギャングの頂上決戦が始まるよ!


 ――――すると突然、どこからか地響きが鳴ってあたり全体を揺るがし始めた。


「なんだあれは……!?」


 見れば巨大な神輿がユサユサと上下に揺れながら大通りを爆走してくる。

 祭りのメインイベントで使う予定だったものをドワーフたちが持ち出したようなのだ。


「ワッショイ! ワッショイ!」


 重戦車のごとき熱気と迫力で次々とオークたちを薙ぎ払っていく。


「オジキィー!」

「助けてくだせえオジキ!」


 弱々しく地に伏していく若衆たちと、それを蹂躙しながら前進するドワーフ神輿。

 あんなの誰にも止められっこないよ!?


「大丈夫だよゴブリンガール! 私がなんとかしてみる!」


 声の方を振り返れば、なんとモアが土手の上から巨大な筒のようなものを抱えて現れた。


「もう怒っちゃったんだからー!」


 モアはドスンと音を立てて筒を地面に落とすと、脇から伸びている導火線に火を灯した。


「まずいぞ!」

「あれは祭りの最後を飾る予定だった打ち上げ花火じゃあ!」


 ええ、花火!?

 まさかその発射口を敵陣に向けて、大砲として使うつもりなのかい!?


「バカモア、やめ――――!」


 アタイの叫びが届く前に、モアの手筒から勢いよく炎の玉が噴き出した。

 それは地表を削りながら水平方向に飛空し、正面の神輿に衝突する。

 盛大な炸裂音とともに七色の火薬玉が飛散して、辺り一帯を閃光が包み込んだ……。


 ドオオオオオン……!



~~~


 すべてが焼け野原と化した地でアタイは力なく首をもたげる。

 あの天然暴走フラダンサー、やってくれたね……。

 これじゃさながら範囲自爆だよ!


 桜の花を愛でるための催しが一転して木々を焼き尽くす惨劇に様変わりとは。

 ここまで好き勝手に暴れてくれて、一体どんなオチをつけるつもりだい?


 そう……、このクエストも今回がラスト回。

 残りの行数もあとわずか。

 そろそろ締めに向けて舵をきらなきゃならない頃合いだ。


「オチ……! オチをくれえ……!」


 アタイはうめきながら助けを乞うようにそこらを這いずる。

 だが辺りに倒れるチンピラたちは生きているのか死んでいるのか、一様に沈黙を貫くばかりだ。


 ――――そのとき、遠く黒煙の向こうで馬のいななきが鳴ったのを聞いた。

 次いで地面を蹴る無数のひづめの音。

 ややあって騎兵隊のごとく馬を操るエルフの集団が姿を現した。


 その中央にはシンデレラに登場するような丸みを帯びたカボチャ型の馬車があった。

 煌びやかな装飾細工で固められた馬車の扉が開き、仰々しくひとりの女が地に降り立つ。

 ゴスロリ調のドレスに身を包む、耳先が美しく伸びたエルフの姫君。


「まあまあ! 春祭りのために莫大な広告費をうちましたというのに、この不始末はどういうことですの?」


 トゲのある声に起こされるようにしてオジキとドンフーが意識を取り戻した。

 そしてゴスロリ女の顔を一目見て血相を変える。


「あ、あなた様は……!」

「エルフ中央銀行を取り仕切る財閥のご令嬢、ロザリアンヌ様!」


 ええ……?

 エルフ中央銀行? 財閥のご令嬢?


 なんだかお偉いさんのご登場みたいだよ!

 この終盤にきてまさかの新キャラ。

 それも金融業界を牛耳るとされる大資産家の娘だって!?


「この惨事ではまともな収益など望めませんわね。後援者であるアタクシの顔に泥を塗る行為。どう責任を負うおつもりかしら?」

「そ、それは……!」


 顔面蒼白になってガチガチと歯を鳴らすオークとドワーフ。

 たしかドンフーの奴はエルフ銀行のいくつかの支店で警備の仕事をもらっていたはず。

 つまりこの女は大事な発注主にしてお得意様ってワケだ。

 だがどうやらそれは鬼怒組にとっても同様だったらしい。


「はあ、もういいですわ。お話は改めてうかがうと致しましょう。さあ、連れてお行きなさい!」


 女の合図で付き人のエルフたちが手際よくチンピラ連中を拘束する。

 そしてあっという間に馬に乗せてどこかへ運び去ってしまった。


「……楽しみにしていたお祭りでしたのに。わざわざ俗界にまで足を伸ばしたのですから、このまま屋敷に戻るというのも面白くありませんわね」


 静まり返った荒野をウンザリ顔で眺め回すエルフ令嬢。

 そうして呆けたツラのアタイと目が合った。


「はて、ゴブリンガール……」


 思いを巡らすように小首をかしげる。


 ……まずいね!

 何を隠そう、アタイがガチャ費やその他諸々でこさえた負債を借りているのがエルフ中央銀行なのだ。

 言い換えればこの女がアタイの生命線を握ってるということになる……!


 どうやら奴もその事実に気付いたらしい。


「あらまあ。新しいオモチャを見つけてしまいましたわね。これでしばらくはおヒマを潰せそうですわ。オーホホホ!」




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 なんと今回のクエストは前後編の2本立て!

 スポンサーを務めたお祭りが中止になってご立腹のロザリアンヌ令嬢。

 あろうことかアタイを指名して下僕、もとい召使いをやれと仰せられましたわよ!

 無理難題を言われましても、ワタクシにイジワル貴族のお世話係など務まるはずがねーだろですわ!

 サイドクエスト【召使いする!】編、始まりますわよッ!


【第135話 ゴブリンガールは悪役令嬢と出会う!】

 ぜってぇ見ていただきたいですわ!



挿絵(By みてみん)

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