第133話 ゴブリンガールはカチこむ!
アタイとモアはその場に正座させられてオジキの説教を受けていた。
止むことのない怒鳴り声は暴力的に空気を振動させ、それにさらされる鼓膜はとうとうイカれ始めてきた。
ひい~……。
神妙にうつむくフリをして隣のモアがそっとアタイに耳打ちしてきた。
「ねえ、どうしてオジキさんはこんなに怒ってるんだろうね? あ、もしやカルシウム不足かな?」
ハア!?
それもこれも全部お前の……!
チッ……!
なあ!
そういうとこやぞ!(怒)
すると突然背後からけたたましい笑い声が響いてきた。
そちらを見やると、なにやら大通りに人だかりができている。
中央にいるのはモリ助。
それを取り囲むのは無数の若い女性客たちだ。
「へえ~そんな遠くから来てくれたんだ~! ここのりんご飴は絶品だから食べてみてよ! 損はさせないよ。今だけ、口直しの甘酒も付けちゃうからさあ。いいのいいの、カワイ子ちゃんにはサービス♡」
甘酒をベースにかき氷シロップで色付けした酒をカクテルと称して振舞っているらしい。
お前は露天営業のホストかよ!
モリ助の野郎、無能なクセして女を惹き寄せる甘いマスクと話術だけは一丁前のようだね。
女性客たちはこぞってドワーフの店で注文をしまくっている。
さらにその集団の隣ではヤンフェがしたたかに射的の屋台を切り盛りしていた。
「1回300ゼニ! おひとり3回まで打てるでやんすよ~! 魅力的な景品が盛りだくさん!」
射的場は子供に人気のようだ。
小銭を握りしめ目を輝かせたキッズたちが列を成している。
最前列の男の子が3発打ってかろうじてひとつの人形を倒したらしい。
「お見事! 良く頑張ったでやんすね~! はい景品。それじゃお代は2万300ゼニになりやす」
「えっ? 300ゼニじゃないの?」
「おやおや~? あっしはひとり3発まで打てると言っただけでやんすよぉ? 初回は300ゼニで以降は1万ずつかかるでやんす!」
あいつまさか……!
子供相手にボッタクリやってんのかよ!?
「ぼく、お小遣い足りないよ」
涙目になってうつむいた男の子にヤンフェはゲスなほほ笑みで優しく声を掛ける。
「大丈夫。足りない分はトイチ(※)で貸し出すサービスもしてるでやんす。これで心置きなく縁日を楽しめるでやんす」
「トイチってなあに?」
「お子ちゃまはまだ知る必要のない言葉でやんす~」
※トイチ……10日で1割の利息金が付くという法外な暴利。
いたいけな子供をカモにするなんて、さすがのアタイも黙ってはいられない。
「やいやいやい! このクソエルフ! あんたの腐り果てた精魂には言葉を失うよ!」
「おふう、これは驚きでやんす。金魚すくいにせっせと小細工を仕掛けてたゴブリンガール殿に言われようとは」
「アタイとはレベルが違うだろ! やって良いことと悪いことの区別もできないのかい! あんたはもう救いようがないからさっさと死にな!」
怒りを露わにしたのはアタイだけではない。
事の次第を見ていたオジキも額に青筋を浮かべて腕まくりする。
ネズミ講を広めて多くの債権者を生み出すような極悪非道の世界にだって最低限のタブーはあるのだ。
だが鬼気迫る顔のオジキをモアが止めた。
「だめだよオジキさん」
「しかし、モアの嬢ちゃん……!」
「大丈夫。ここは私に任せておいて」
そう言ってヤンフェに向かって一直線に歩いていくモア。
彼女は元気ハツラツな天然ピュアガールだ。
この悪行にいたくショックを受けたようだが、一体どうやって奴を止めるつもりだろう?
「んん~? 島育ちの田舎娘がなんのご用でしょうかねえ? 綺麗事だけじゃ生きていけないってことをこの機会にせいぜい学ぶと良いでやんす」
ほくそ笑むヤンフェ。
モアは手前で立ち止って大きく息を吸い込み……。
その横っ面にドギツイ平手打ちをかました。
バキッ!
「やんすーッ!?」
ええ……!?
結局暴力なんかーい!?
クリティカルヒットを受けたヤンフェの顔面は醜く歪み、前歯を散らして隣の屋台へと吹き飛んでいく。
運悪くその店では焼きそばを炒めている最中で、アツアツの鉄板の上に乗り上げてしまった。
ジュウウウ!
「プギャアアアア!」
周囲に香ばしいエルフの丸焼けの匂いが漂う
「あの嬢ちゃん、カチコミよったぞ……!」
「鉄砲玉じゃあーっ!(※)」
※鉄砲玉……自らの死を顧みず敵対組織に突っ込んでいく特攻員のこと。
この一件でオーク組とドワーフ組の張りつめていた緊張の糸がブツリと切れた。
「やりやがったなアー!」
「こうなりゃ戦争じゃあ!」
各々が手当たり次第にその場の物を掴んでは向かいの店へと投げつける。
大通りを境にして宙を交差するたこ焼き、ポップコーン、ヨーヨー風船などの雨あられ。
一瞬にして桜の並木道はヤクザの抗争地帯と化した。
「こりゃあたまらん! 退散するよ!」
アタイは頭を抱えて逃げまどいながらキョロキョロとモアの姿を探す。
一刻も早くあの子を連れて脱出しなければ!
と思っていたのだが、なんとモアは戦場の真っただ中で暴れ回っていた。
「仲良くできない人にはお仕置きが必要なんだよ! もう怒ったからねー!」
フラダンサーとして鍛え上げられた屈強な体幹を使い、向かい来るオークとドワーフをちぎっては投げ……。
何よりもまずあのバーサーカーを止めないといけないね!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに戦争勃発!
まあいずれこうなることはわかってたけどね!
ケチャップをまき散らす小競り合いから、果てには神輿戦車や花火大砲まで出てきたよ!
地獄のエレクトリカルパレードかよ!
もうめちゃくちゃ、どうやって収拾つけるの?
【第134話 ゴブリンガールはお花見する!】
ぜってぇ見てくれよな!




