第119話 ゴブリンガールはビビり散らかす!
「予知夢を視るという体質は生まれながらのもので、シブ夫さんに関する夢は物心ついた頃からいくつか視てきました。その内の2つが今日起こる出来事らしくて」
ハイネはモジモジと両手を頬に当てた。
「ひとつはついさっき現実になりました。倒れた無数の暴漢たちの脇でシブ夫さんに抱き起される私の姿……。2人の出会いですね」
「いじらしいでしょ~? 本当はもっと早くに私からシブ夫を紹介してあげるって言ったんだけど。ハイネちゃんはロマンチストだから、夢に見た通りの瞬間を律義に待ち続けてたのよね~」
「も、もう、アルチナちゃん……!」
その顔は真っ赤に染まっている。
「予知夢では狙った出来事を知ることはできません。何を視るかはランダムです。だからこそ特定の人物の夢をいくつも視るというのは珍しいんです。これって、シブ夫さんはとても重要な存在だという暗示じゃないかと思うんです。この世界にとって。それと、私にとっても……」
熱のこもった瞳でシブ夫を見つめるハイネ。
アタイの体は自然とその顔面にパンチを繰り出そうと動いていたが、寸でのところを隣にいたスージーが止めた。
「堪えるのよゴブリンガール。少なくとも今は……。シブ夫くんの前ではね」
「チッ……。後で体育館裏に呼び出すよ」
「身をわきまえるってことの大切さをその体に叩き込んでやるわ……」
アタイとス-ジーの殺伐とした視線をよそに話は進んでいく。
「それで、今日起こるっていうもうひとつの予知は?」
「皆さんが魔法の光に包まれてどこかへと転移していく光景です。そう、おそらくガルタナンナへ。だから私、この日のために頑張って魔法を習得してきたんです!」
……ハイネ曰く、この先アタイたち一行は度々転移術が必要になる場面に遭遇するそうだ。
彼女はその予知夢を視た日から、みんな(主にシブ夫)の役に立ちたいという一心で魔法ジョブの勇者も志すようになったという。
「祈祷師と魔勇士、二足のわらじを履くって並大抵の努力じゃ不可能よ~? ね、一途な子でしょ~」
アルチナは照れるハイネの頭を可愛がるように撫で回す。
ははあ。
さっきの乱闘でアタイが急に天井吊りになったのって、ハイネの術のせいだったのね。
「未来がわかるし瞬間移動もできるって? めっちゃ便利じゃん」
「ですが、思うより使い勝手が良いものでもないんですよ。準備に時間が掛かりますし制限も多いですから」
少なくとも戦闘向きではなさそうだ。
「小難しい話も終わったところでさっそく術を披露したいのですが、困ったことに私が視た予知に比べてまだメンバーが足りないみたいです」
「他にも誰か来るのかい」
「そいつの外見は?」
「短髪でちょっと怖そうな見た目の美人で……。あと大きな鎌を持っていますね」
おいおい、嫌な予感がしてきたね……!
アタイの背筋に人知れず冷たいものが這い上がる。
「私を呼んだかしら?」
酒場の隅の物陰からヌルリと女が出現した。
死神女のシビリオだ!
※シビリオについてはメインクエスト【死神に狙われる!】(第90話~)を参照。
「その登場の仕方はビビるからやめなって言っただろ!」
「あら~シビリオちゃんもご無沙汰~。ご機嫌いかが?」
「馴れ馴れしいわね凶魔女! ここで会ったが100年目よ!」
出会い頭に大鎌を構えるシビリオ。
何しに来たんだよあんたは!
シビリオは依然としてアルチナにメンチ切りながらも話し始めた。
「あなたたち、やっとゴン太の居所を捉えたみたいね。ここから先の探索には私も同行するわ」
「んなことを頼んだ覚えはないよ!」
「でも転生者の情報について教えたのは私だったし、顛末を見届ける義務があるでしょ」
相変わらず義理堅い奴だねこの死神は!
「それにゴン太を見つけたとしても、彼が本物の転生者か見分けるために『死神の眼』が必要になるでしょう」
一度死を経験した転生者には体にまとう生体エネルギー、篝火が見えなくなる。
シブ夫と同様の特徴がゴン太にも見て取れるはずなのだ。
ったく、しょうがないね。
渋々だがシビリオの加入を許可してやるとしよう。
しかしずいぶんと濃いパーティ編成になっちまったよ。
強敵と遭遇する前に内部崩壊で全滅しちまうんじゃないの?
「これで人数は揃いましたが、まだ解決すべき問題があります」
ハイネが申し訳なさそうに口を開く。
「私の転移術には発動のための条件がありまして……。皆さんをまったく未知の場所に送ることはできません。つまり、メンバーの誰かひとりでも過去に転移先となる場所を訪れている必要があるんです」
すでに行ったことのある場所にしか飛べないってことかい。
ファストトラベルあるあるだね。
だが当然ながらラスボスステージに踏み込んだことのある奴などいるはずがない。
と思ったらアルチナが手を挙げた。
「はいは~い。私、昔行ったことあるのよ~ガルタナンナ」
「マジで!?」
さすがはレベル90越えの伝説魔女!
「魔王ってのがどんなツラ構えなのか気になって、拝んでこようかなって~。だけど、はあ、毒気抜かれちゃったのよね~」
「魔王に会ったのか?」
「いいえ~。なんていうか、ザ・邪悪ってカンジの気配を感じなかったのよ。だからお留守だったのかなって、まともに探索せずに引き返しちゃったわ~」
魔王のクセに所定位置に不在とかあるんか……。
「あ、ちなみに冗談抜きでヤバい場所よ♡ 強さが桁違いの化け物でウジャウジャだから~」
「おぞっ……」
そういや自然とガルタナンナへ飛ぶ流れになってたけど、冷静に考えると無理くない?
ここにいるのはアルチナを除いて中堅クラスの勇者だけだからね。
「今回はフィールドを攻略するわけではありません。ゴン太さんの痕跡を捜すだけならなんとかならないでしょうか」
「全力でバトルを回避して隠密に専念すれば……」
その無謀すぎる提案にアタイたちザコモントリオが声を荒げた。
「ふざけんじゃないよ! もっと身の安全が確証されるような作戦を考えな! アタイらをなんだと思ってんだい!」
「レベル2だぞ! 普通に考えてレベル2がレベル90帯に行くとか頭狂ってるぜ!」
「死亡フラグっていうか単なる自殺なンだわ!」
その命懸けの主張に冷ややかな視線を返す勇者たち。
「じゃあ留守番してなさいよ」
「ああ。無理について来る必要はないぞ?」
「いいや! 行く!」
ここまで来といてシブ夫と離れるワケにいかないだろ!
「ゴブ子は勝手に行けよ」
「俺らはもちろん残るンだわ」
「バカ言ってんじゃないよ! 噛ませ犬が何人かいないとヘイトがアタイに全集中すんだろ!」
こうなったら少しでも生存確率を高めるために、いつかしたようにガチャアイテムでジョニーとスラモンを魔改造するしかないね!
アタイはスマホを取り出すと液晶画面を勢いよく連打しまくった。
久々の10連ガチャ10連発!
良いアイテム出ろよ、オラオラ!
最凶モンスターにメイクアーップ!
――――スマホからあふれ出した虹色の光が収まると、目の前にはいつも通りのガラクタが山積みになっていた。
SRもSSRもナシみたいだね……。
シブ夫はそのゴミ山を眺めながらフムフムと唸る。
「今回も使えそうなものがたくさんありますよ。ちょっと試してみましょう」
かくしてアイデアマンシブ夫によるザコモンスターの改造タイムが始まった!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ガチャで多少強化したところでさあ。
挑むのはラスボスダンジョンなんだよ?
通用するワケないんだよなあ!
【第120話 ゴブリンガールは予知される!】
ぜってぇ見てくれよな!




