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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
サイドクエスト【干支を狩る!】編
109/251

第108話 ゴブリンガールは歯磨きする!

挿絵(By みてみん)



 やっとのことでお目に掛かれたトラ魔獣を前に戦闘放棄を宣言したボンボルド。

 自分勝手なクソ大男め!

 アタイたちは半べそになって詰め寄る。


「お前の仕事は大暴れする干支モンスターを鎮めることだろ!?」

「まさに目の前で息巻いてるあのトラなンだわ!」

「お前たちの目は節穴か! 奴は寅年の影響とは違う要因で暴走しているにすぎん!」

「だとしても倒せばクエスト達成になるんだよ! さっさとブチのめしちまいな!」

「不必要な殺生はせん! それがビーストハンターの信条だからな!」


 ったく、石亀の甲羅より頭の固い奴だねえ!


 アレクシスもサーベルタイガーとの戦いを一時中断してこちらにやって来た。

 そしてボンボルドの胸倉を掴んで凄む。


「これ以上私を怒らせるな! 自分で始めた事なら最後までやり遂げろ!」

「俺の行動原理は初めからひとつもブレてはいない! 理由があれば狩猟はするが、これでは天干地支クエストの趣旨から外れる!」

「パーティを危険にさらしてでも通す意地か? 群れの長とやらの責務はどうした!?」

「俺は闘わんと言っている! それに反発しているのはお前だろうが! 嫌なら群れを出ろ!」

「そうさせてもらう! 貴様の息の根を止めた後でな!」


 頭に血の上ったボンボルドとアレクシスは取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

 ひええ!

 魔獣との戦闘より数段白熱しているよ!?


「ヤベえだろあれ。誰か止めてこいよ」

「無理無理。間に入った瞬間にオーバーキルなンだわ」

「ったく世話の焼ける勇者たちだね」


 そうこうしてる内に獲物を求めてサーベルタイガーがアタイたちに近づいてきた。


「おいおいおいおい!?」

「こっちを狙ってんじゃないのさ! 逃げるよ!」

「足の遅い奴から喰われンだわ!」


 アタイたちは洞窟の出口に向けて一目散に走り出す。

 だがトラの俊足に敵うはずがない。

 手始めにジョニーが喰われた。


「ギャアー!(絶叫)」


 脱臼でバラバラに散らばる骨たち。

 トラはそのいくつかを咥え上げた。

 だが嚙み砕くことはなく、口の中に入れてモゾモゾとしきりに転がしている。

 妙だね?

 無味乾燥なジョニーの骨なんていくらしゃぶったところで旨味なんか出てこないのに。


 トラは次にスラモンに齧りついた。


「ンだわー!」


 ガシガシと歯を嚙合わせるようにして咀嚼し、そのたびにスラモンの体に穴が開いていく……。


「あア……。俺が俺デなくナッていく……」


 無様なザコモンたち。

 だけど、やっぱりこのトラの行動はどこかおかしいよ。

 ハラペコで餌にかぶり付くというんじゃなく、まるで口先を遊ばせているように見えるね。


 サーベルタイガーは最後に残ったアタイを見定め、低い唸りを上げる。

 ぶえーん!

 ついにアタイの番が回ってきたよ!


 巨大な牙を突き立てんと襲い来るサーベルタイガー!

 南無三っ!

 アタイは恐怖で目を閉じたが、少しでも抵抗しようと手元のデッキブラシを滅茶苦茶に振り回した!

 鋭い牙がアタイの体を裂くより先に、ブラシがその表面に当たったようだった。


 ゴシゴシゴシ……!


 ………。

 ……あれれ?


 いつまで待っても噛みついてこないので恐る恐る目を開けると、トラは先ほどと打って変わって大人しく佇んでいる。

 まるで借りてきた猫のよう。

 一体これはどうしたことだい?


 アタイは及び腰になりながらも歯磨きの要領でゴシゴシと牙を磨いてやる。

 そうしていると歯のあいだに挟まっていたらしい食べカスがポロリと取れた。

 途端に憑き物が落ちたようになって笑顔を見せるサーベルタイガー。


 異変にいち早く気付いたボンボルドが感嘆の声を上げた。


「よくやったぞゴブリンガール! どうやらそれがこいつを暴れさせていた原因だ!」


 豪快に笑いながらトラに近寄り、背中の毛並みをヨシヨシと撫でる。

 そして口の中を覗き込み、虫歯にかかっている牙を一本見つけた。


「少し痛いが辛抱しろよ!」


 ボンボルドは斧を牙と牙のあいだに差し込み、テコの原理で一本を引き抜いてやった。

 トラは痛みに少し顔を歪めたが、その後はスッキリした表情になってゴロゴロと喉を鳴らした。


「干支魔獣は天体の巡りで力を増すが、それだけで悪さを働くわけではない。危害を加えるには相応の理由があるのだ。だが人間というのはそこまでの思慮をめぐらさず、安易にクエストを発注して討伐隊を送り込む……。こちらの方がよほど野蛮な種だとは思わんか! はっはっは!」


 なるほどねえ。

 すべての魔獣が悪ではないし、すべてのクエストが正しいとも限らない。

 目からウロコが落ちた気分だよ。

 とっても勉強になったねえ。


 ……でもボンボルドの奴、最後にやって来ていい感じの話でまとめやがって。

 人のこと散々振り回しといてさ。

 納得できないね。


 うん、なんかやっぱすげえムカツクわこいつ。


 良いとこ取りクソクマ男は手にした牙をアレクシスに差し出した。


「虫歯の部分を削り取ればクラフト素材として使えるだろう。これはお前が持って帰るがいい」

「ふん。魔獣を倒さずとも目的の物を入手できるとは思わなかった。今回だけは礼を言わせてもらおう、ゴブリンガール」

「礼は良いからそのアイテムを売った金の何割かをよこしな」


 アタイの言葉をシカトしてボンボルドに向き直ると、アレクシスは手を出して握手を交わした。


「ビーストハンター。クセだらけだがなかなかに面白い勇者だな」

「クセだらけのビキニ騎士に言われる筋合いはないがな!」


 2人は洞窟にこだまするほどの大声を上げて笑い合った。

 これにて一件落着のようだね。


 ……と思ったが、ひとしきり笑った後に再び殺気を放って武器を構えだした。


「私に働いた無礼については話が別だ! 汚らわしいビーストハンターの血などこの場で切り払ってくれる!」

「生意気な小娘が! ご自慢の鎧を潰して金属の塊に打ち戻してくれるわ!」


 せっかくオチそうだったんだからそのまま終わっとけよ!

 脳筋バカどもが!


「ところで今回のクエスト内容は魔獣退治だよな?」

「見逃したら報酬もらえないンだわ」

「なんだってぇ!?」


 またタダ働きかよ!?


「安心しろゴブリンガール! トラの魔獣は世界中にまだまだ吐いて捨てるほどいるぞ!」

「天干地支クエストの受注期間は今年いっぱい。まだ始まったばかりだしな」


 これ以上こいつらの狩りに付き合わされるなんて御免だよ!

 寅年なんて一生巡ってくんじゃないよ、バカたれ~!




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 あんたたち、いつまで正月気分でいるんだい!

 次に目を向けるべきは本格的に厳しさを増してきた冬の寒さ!

 新たなクエストを受けるべく、アタイたちは一面を分厚い雪が覆う氷山に踏み込んだのだが……。

 そこで早々に出会ったのは、なんと意識の無いまま凍り付いた謎の女!?

 凍てつく冷気とサスペンスフルな展開に身震いが止まらない!

 真冬のシーズンクエスト【雪合戦する!】編、始まるよ!


【第109話 ゴブリンガールはスノーガールと出会う!】

 ぜってぇ見てくれよな!



挿絵(By みてみん)

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