第106話 ゴブリンガールはブラシをこする!
ここはジャングルの奥地。
アタイはデッキブラシを片手に孤立無援で巨大ダンゴムシに向き合うという窮地に陥っていた。
意味不明すぎてあらすじの説明のしようがないね!
「どうした、先手必勝だぞ! まさか怖気付いたわけでもあるまい! ビーストハンターの名折れだからな!」
もし戦いを放棄して逃げ出そうものならこの鬼コーチに首根っこを掴まれてどやされちまうだろう。
かと言ってどう戦えと?
ええい、どっちを選んでも最悪だね!
「くそったれ! こうなったらやってやるよ! キエエーッ!」
アタイは覚悟を決め、ブラシを突き出しながら魔獣アーマアムに突撃する!
攻撃の手を休めれば即座に反撃を受けるかもしれない。
ブラシの先端が硬い甲殻にぶつかった後も一心不乱になって振り回し続けた。
ゴシゴシゴシ!
「ほらほら、ちゃんと腰が入ってねえぞ~!」
「腕の力だけじゃなく全身を使うンだわ!」
地面の上に転がるジョニーとスラモンの残骸が声援(?)を飛ばす。
それに応えるようにアタイの柄を握る手にも力がこもった。
ゴシゴシゴシ……!
………。
あれ? これちゃんとダメージ入ってる?
表面の泥汚れが落ちて美しい黒光りを放ち始めるダンゴムシの殻。
それまでとは見違えるようにサッパリとキレイになった。
心なしかアーマアムの表情もほほ笑んでいるように見える。
ふう、なんだか良い汗かいちゃった気分!?
「馬鹿者! 大掃除というのは大晦日までに済ませておくものだ!」
「うるさいね全身筋肉クマ男! 文句があるならあんたがやりな!」
小綺麗になったアーマアムはご機嫌にクルクルと丸まって地面を転がり、さっそく近くにいたアタイを突き飛ばした。
ひょうしに尻餅をついて腰を打ち、痛みで涙を流すアタイ。
「うわーん! 新年早々こんな目に遭うなんて、アタイが何したって言うの!」
「もしやお前厄年か?」
「ちゃんとお祓い行っとかないからこうなるンだわ」
厄災を呼び込みやすいため慎んで過ごすことが推奨される年齢、厄年。
その年は一生の内で3~4回ほど巡ってくると言われる。
難を避けるためには前もって神社で厄払いをしておくのがベター。
他にも溜まった厄を落とす意味を込めて身の回りの掃除をしたり、パワーストーンなんかの厄除けグッズを身につけるのも良いね。
みんなも準備を怠らないように注意しよう!
「ちょっと待てよ……?」
そこでアタイははたと気付く。
厄年として憂慮すべきなのは本厄に加えてその前後の年である前厄・後厄を含めた3年間。
去年だけでも散々な苦労をしたってのに、それはまだ前厄にすぎなかった……?
「本厄の今年の方がもっとヒドイことが起こるってのかい!」
しかもそれを乗り切ったとしてもまだ後厄が控えてるしね!
どこまで苦しめばいいんだよ!
ふざけんじゃないよ2022年!
アタイは悔しさのあまり拳を地面に叩きつけて憤慨した。
――――そのとき、周囲にギラリと眩い光線が差した。
草木に覆われた薄暗いジャングルの中だっていうのに、一体どこが光源だろうか?
目を細めて見渡すと、一際太い幹を持つ大木の枝先に何者かの影があった。
どうやらその人物の身に着けている金属鎧に木漏れ日が反射しているらしい。
「黙って見物していたが、無駄な会話にいつまで尺を取るつもりだ! もう我慢ならん! この私『無謀装備の女騎士』が助太刀しよう!」
高木の先で怒声を張り上げている女。
良く見れば陽を照り返す鎧はほんのわずかな面積だけで、それ以外は真っさらな肌を惜しげもなく露出させているではないか。
このハレンチ極まりないいで立ちには覚えがあるね……!
「あんたは、ビキニアーマー騎士のアレクシス!?」
※アレクシスについてはサイドクエスト【アーマーを着る!】(第70話~)を参照。
アレクシスはビシッと手足を伸ばし、戦隊ヒーローの登場シーンよろしくクソダサポーズを決める。
「不審者だ!」
「ジャングルの奥地に不審者だーッ!」
ドヤ顔の不審者を見上げながらどよめき立つアタイたち。
アレクシスの取ったポーズはタンク役の勇者が習得する挑発戦技の効果を持っているらしい。
ダンゴムシは鎧に反射する日光を浴びて気を荒くし、アレクシスの立つ高木の幹に体当たりをした。
だが身軽なビキニ鎧に身を包むアレクシス。
サーカス団のように空中で宙返りをして難なくよその枝へと飛び移る。
「貴様に私の動きを捉えることなど不可能! さあ、我が荘厳なる鎧に見惚れるがよい! アッパーホステル!」
なおもだっせえポーズを繰り出しながらヘイトを集めるアレクシスに、アーマアムはギュルギュルと土ぼこりを上げてボルテージを募らせていく。
――――だが、その背後にボンボルドが気配を消して接近していた。
「狩りに集中するあまり狩られる側に回ったことにも気付かんとはな! 未熟ッ!」
力を込めて振り出された両刃斧がドスンと硬い甲殻に食い込んだ。
アーマアムはたまらずボール形態を解き、斧を振り払おうと節足をバタつかせる。
そこにトドメを刺さんと上空からアレクシスが飛び降りてきた。
加速度を掛けながら振り下ろされるモーニングスターの鉄球が無情にも頭部に直撃し、甲殻の破片を周囲に飛び散らす。
ボンボルドとアレクシスの連携技によってダンゴムシ魔獣はものの見事に撃退された。
「つえー!」
どうしてアレクシスがこんなところにいるのかは知らないけど、合流できたのは運が良かったね。
勇者が2人も揃えば危険地帯の中でもひとまずは安心できるだろう。
……と思ったが、なぜか2人は敵を倒した後もいまだに殺気立ったまま、互いに睨み合っている。
「どこの馬の骨か知らんが、真剣勝負の途中で邪魔に入るとは無粋なマネをしてくれたな!」
「ふん、何が訓練だ。貴様はザコがザコをいたぶる様子を眺めていただけではないか?」
「大自然が与えてくださった試練の場だぞ! 強者が勝ち弱者を喰らう! その美しくも儚い淘汰の機会を乱したのだ!」
「そんなくだらん機会のために私の華麗なる再登場を遅らせるな!」
あれあれ?
ボンボルドもアレクシスも好戦的な性格なのはわかるけど、いきなりいがみ合いが始まっちゃったよ!?
「まあまあ落ち着いて!」
「ていうか美しい淘汰ってなんだよ? 俺ら死ぬとこだったんだぞ?」
「死ぬのも摂理! それが大自然の意思ならば見届けるのみだ! はっはっは!」
「むしろよく今まで生きていたな。とっくに野垂れ死んだものと思っていたが」
……勇者が揃えば一安心って言葉は撤回させてもらうよ。
たとえジャングルじゃなくても、こいつらと一緒ならいつ死んでもおかしくなさそうだね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに合流したもう一人のゲストキャラ、アレクシス!
でも思ったより出番が遅くなったせいで機嫌が悪いみたいだよ!
脳筋男のボンボルドとも相性が良くなさそうだしね!
トラを狩る前に互いの首を取り合いそうでおっかないんだよ!
【第107話 ゴブリンガールは干支を狩る!】
ぜってぇ見てくれよな!




