第105話 ゴブリンガールは運勢を占う!
その後もアタイら一行は生き物のひしめくジャングルを奥地へと進んでいった。
そしてすぐに異変に気付くことになる。
なんとそこかしこで散乱する動物の死骸を目撃したのだ。
無差別殺人鬼も真っ青の惨状だよ!
「どれも鋭い牙の一撃でやられている……」
「誰がこんなむごいことをしたんだい」
「間違いなく、俺たちの追っている干支の魔獣だろう」
今年は寅年だからトラ型モンスターの凶暴性が増してるとかなんとか。
その暴走を食い止めるための『天干地支クエスト』なんだろうけど……。
「ヤバすぎだぜ。今からでも受注放棄しようぜ」
「俺たちも同じように食い殺される未来しか見えないンだわ」
「軟弱者め! 死を恐れていてはビーストハンターは務まらん! この世は食うか食われるか、それも自然の摂理と心得よ!」
無茶苦茶を言うね、この精霊大好き脳筋男は!
そこでジョニーがポツリと素朴な疑問をこぼした。
「暴走するトラを放置したら大変なことになるのはわかったけどよ、逆に退治することで生態系が崩れたりするんじゃないのか?」
この多湿林ナーウンルーは豊かな緑と、その植物を食べる動物、さらにそれを食べる肉食獣とが繊細なバランスをもって成り立っている。
むやみに人の手を加えることでその均衡を損ねるリスクがあるのだ。
「良いこと言うじゃないか! ジョニーの言う通り人間が出しゃばらない方がこの森のためだよ!」
「森の生き物が食い散らかされたとしても、それも自然の摂理ってことなンだわ!」
「そうと決まったらさっさとズラかろうぜ!」
ボンボルドはふんと鼻を鳴らしてアタイたちの説得を一蹴する。
「この闘いはナワバリ争いと同じようなもの。勝った者が負かした者の地位に就けばすべてが丸く納まる」
「ハア? それって……」
「トラの魔獣を倒した暁には、俺たちがこの森の王となればいい! 簡単な話だ! はっはっは!」
バカが!
そうだろうとは思ってたけどやっぱり話が通じないね!
何が森の王だよふざけんな!
――――すると突然、辺り一帯に大きな地響きが起こった。
乱立する高木がザワザワと左右に大きく幹を揺らす。
どうやら何かヤバいもんが近づいて来るみたいだよ!?
「ひええ! ついにおでましか!?」
「いや……。この気配はターゲットとは別のものだ。だが強敵なのは確かだな!」
メシメシと樹木をしならせ、茂みの奥からアタイたちの前に転がり出てきたもの。
それは人間大ほどの大きさの真っ黒な球体だった!
なんだいこのヘンテコな物体は!?
その球は動きを止めるとカタカタと音を立てながら形を変えていく。
体は平べったくなって横にいくつもの節目が走り、その節ごとに細長い足が現れた。
地面に這いつきカサカサと蠢くさまはまるでダンゴムシ!
~アーマアム(討伐推奨レベル21)~
密林に生息する大型のダンゴムシの魔獣。
普段は平べったい姿でいるが、体を丸めてボールのような形態になると転がって敵を襲う。
「さすがは生存競争の激しい密林だ! ここまで巨大化したのは外敵から身を守るための進化だろうな!」
「感心してる場合かい! 見るからにヤバそうじゃないのさ!」
「案ずるな! この魔獣は厄介な昆虫型魔獣の中でも毒を持たず飛翔もしないタイプだ! 回転移動さえいなせれば手こずる相手ではない!」
そう言うとボンボルドはドスンと両手斧を地面に置いてしまった。
「ビーストハンター入門者にとっては良い対戦相手となる! 試しにお前たちで狩ってみろ!」
「なんでだよ!」
「俺たちがいつビーストハンターを目指すなんて言ったンだわ!」
「馬鹿者! これから干支を討伐して森の王になろうという者が強くならずしてどうする! 弱肉強食の世界を生き残れんぞ!」
もうこいつには何を言っても無駄みたいだね!?
「ええい、ヤケクソだ! こうなりゃガチャを回すしかないよ!」
アタイは懐からスマホを取り出すと自暴自棄に指先をタップした。
液晶画面から虹色の光があふれ出す。
さあ、新年の初ガチャだよ!
今年のアタイの運勢やいかに!?
課金フルパワーで大吉モンスターにメイクアーップ!
~デッキブラシ(使用推奨レベル8)~
丸棒柄の先にブラシが取り付けられた掃除道具。
床面をこすって汚れを落とすのに使用する。
クズアイテムか……。
わかってたけどね……。
それでも心の片隅ではかなくSSRを期待してしまっていたアタイ。
この手に握るどうしようもないブラシをまじまじと見つめて言葉に詰まってしまう。
「安定の☆1なンだわ」
「クジで例えたら凶だな。ま、こんなもんだろ」
背後でジョニーとスラモンがボソボソとやさぐれた呟きをこぼす。
「……ふざけんじゃないよ! クジ引きなんかで今年の運気を決められてたまるもんか! 運命ってのは自分の手で切り開くもんだろ!?」
「あ、お前気に入ったクジが出たときだけ占いを信じるタイプ?w」
「いるいる。あと満足できる結果が出るまで引き続けちゃう奴とかなンだわ」
「笑える」
怒りに打ち震えるアタイを煽るようにはしゃぎたてる2人。
そんなジョニーとスラモンに向かってダンゴムシ魔獣が攻撃を仕掛けた。
団子ボールの形態に変わり、高速で体当たりしたのだ。
直撃を受けて宙を舞うザコモンスターたち。
「はいは~い。今年も相変わらず飛びますよ~」
「あけおめことよろ~」
吹き飛んだ2人は地面に激突してバラバラのビチビチに散らかった。
「なんと情けない奴らだ! ゴブリンガール、お前一人でこの状況を挽回することはできるか!? これは見ものだな!」
腕組をしながら応援だか叱責だかわからないヤジを飛ばすボンボルド。
アタイを手助けしてくれる気は微塵も無さそうだね!
クソが!
頼りにならないデッキブラシを手にダンゴムシと対峙するアタイ。
こんなもんでどうやって運命を切り開くのさ……!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
アタイの運勢は今年も終わってるみたいだけど、みんなはどうだろう。
初詣でおみくじは引いたかな?
大吉から大凶までいろんな結果があったと思うけど、あんまり思い入れちゃだめよ。
神様なんて大事な時にはなんにもしちゃくれないんだからね!
現に大地の精霊とやらは食物連鎖って言葉にかこつけて、絶体絶命のアタイを黙殺しようとしてやがるからねえ!
【第106話 ゴブリンガールはブラシをこする!】
ぜってぇ見てくれよな!




