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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
シーズンクエスト【クリスマスする!】編
103/251

第102話 ゴブリンガールはクリスマスする!

挿絵(By みてみん)



 激昂したクランプスの図太い腕はアタイらごとソリを宙に掲げて静止している。

 この状況、絶体絶命じゃないか!


「残念! ジャンプ力がイマイチだったのよね~。ねえ、今年って暖冬? 雪が少ないんじゃない?」


 んなこと言ったって、天に願ったところで降雪量は増えやしないよ!


「雪不足のままでどうやって倒すんだよ!」

「他の方法でソリの速度を上げるしかないと思うけど~」


 この緊急事態でものんびりマイペースに困り顔を見せるだけのサンタルチア。

 業を煮やすアタイだったが、それはクランプスも同じだったようだ。

 大きな咆哮を上げ、近くの小丘に叩きつけるようにしてソリをブンと放り投げた!


 雪のしぶきを上げて乱暴に地面へと落ちるソリ。

 そこへ間髪入れずに走り込んできたクランプスがタックルをブチ当てる。

 ソリはまるで壊れたアトラクションのコーヒーカップよろしく高速スピンをしながら吹き滑っていく。

 とんでもない遠心力がかかり、アタイとサンタルチアはグルグル回る荷台の中で揉みくちゃにされた。


「もうヤダあ! こんなソリ降りる!」

「え~どうして? こんなサプライズめったに経験できないのに♪」

「このサプライズを笑顔で楽しむあんたの隣にいるのが一番嫌なんだよ!」


 止まることなく回転滑りを続けるソリの中で、散乱した荷物の中からペットボトルの容器が飛び出した。

 勢いのままその蓋が外れて、中からドロリとした液体が噴き出す。


「いや~ん! 服がベットベト!」

「これは……! アタイがガチャで引いたサラダ油!?」


 油はソリの中だけでなく外面全体に降りかかった。

 するとソリ板を覆うオイルの効果で摩擦力が軽減されたらしい。

 途端に滑りが良くなった。


「あらあら? ラッキーチャンス♪」


 サンタルチアは身を翻し、巧みに重心移動を繰り返してソリのコントロールを取り戻す。

 そうして即席ゲレンデコースに舞い戻り、再びクランプスを標的に定めた。

 ソリの出すスピードはさっきとは比べ物にならないほど速い!


「見て見てゴブリンガール! 自己最高速度を更新よ~!」

「も……もうちょいゆっくり走って……」


 度重なる暴力的な横揺れによってアタイの三半規管は致命傷を負い、さっきから吐き気が荒波のように胸の中をグルグルと渦巻いている。


「情けないのね。クランプスを倒すにはそれを上回る猟奇を見せつけなくちゃ♪ さて、ここでサンタの狂気をひとつまみ……」


 サンタルチアは懐から取り出したマッチ棒を擦り、灯した火を躊躇することなくソリに放った。

 次の瞬間にソリ全体がボウボウと勢いよく燃え上がる!


「なにやってんだよ!?」


 焼身自殺でもする気かい!?


「安心して♪ サンタの赤服は燃え盛る情熱の赤~!」

「安心できる説明になってないだろ!」


 灼熱の業火を乗せて文字どおり暴走するソリ。

 アタイはとうとう熱さに耐えきれなくなり、そこから身を投げて雪の中に転げ落ちた。

 ジュウと音を立てて周りの雪が解け、アタイの頭上から蒸気が立ち昇る。

 えらい目に遭ったもんだよ……。


 そうして見上げると、ちょうど燃えるソリがジャンプ台から空へ飛び上がり、戦技ステップストンプでクランプスを押し潰す場面が見えた。

 フサフサとした獣毛に炎が燃え移るが、ソリで体を押さえつけられて体をよじることすらできない。

 やがてクランプスの断末魔の悲鳴は力を弱めていき、ついには何も聞こえなくなった。


 地獄のような光景。

 ひえ~……!


「う~ん。ミディアムレアってところかな☆」


 ワケのわからないことを呟きながらサンタルチアが颯爽とソリから降りる。

 その体には一片の火傷痕も見当たらない。

 無敵かよこいつは!?


 ――――するとどこからともなくファンファーレが鳴り響いた。


 パンパカパーン!

【サンタルチアはソリを使って特定モンスターの討伐を達成した! 『赤服のソリ使い』の称号を手に入れた!】


「やった~!」


 嬉しそうに飛び上がるサンタルチア。


「……結局このクエストの内容はなんだったんだい?」

「話してなかったかしら? 期間中に定められたレベル以上のモンスターを数体狩って、その返り血を浴びること♪」

「返り血を浴びる!?」


 赤服の赤って、そっち!?

 サンタクロースとかクリスマスとか関係ないじゃん!


「クエスト期限がちょうどイヴまでだったからサンタに扮してモンスターをおびき寄せたの。クリスマス嫌いの魔物って結構多いのよ。知らなかった~?」


 アタイは脱力してその場にへたり込む。

 こいつはクリスマスというイベントを利用しただけで、元より残酷なスプラッターをやる気満々だったってことだ。

 とんだ血濡れの惨劇に付き合わされちまったよ!




~~~


 その後アタイたちは瀕死のジョニー、スラモン、グリ坊と合流した。

 一度火あぶりになったソリもサンタルチアと同様に異様な頑丈さらしく、焦げ跡ひとつ無い状態で回収することができた。

 彼女はその荷台へ丸焼けのクランプスの死骸を積み込もうとする。


「だから、絵ヅラ!」

「ファンタジーを重んじろ!」

「やーねえ。もうじきイヴは終わるのよ? そろそろ現実に目を向けなさいよ~」

「しかし、そんなもんをどこに運び込むつもりだい?」

「肉屋に持ってって捌いてもらうの。クリスマスにしか出没しない希少魔獣だから良い値になるはずよ~」

「待ちな! イルミネーションで飾られた街中にこんなえげつない見た目のもんを晒してみなよ! ショッキングなんてレベルじゃない騒動になるよ!?」

「あら残念」


 サンタルチアはつまらなそうにため息を吐き、死骸をソリからズルリと蹴落とした。


「それじゃあこれでお別れね。みなさん良いお年を~♪」

「ちょっと待て! 金、金!」

「クエストの報酬金!」


 それを持ち帰らないとアタイたちはドンフーの旦那に絞められちまう。


「もう~。あなたたち、クエストのこと全然知らないのね。実績解除っていうのはやり込み要素の一種で、物好きが挑戦するコスト度外視の特殊案件。得られるのは称号だけでそれ自体に報酬は無いのよ」

「えっ? そうなの?」

「お金が欲しいならやっぱりクランプスちゃんを肉屋に持っていきなさいな。受け取ってくれる店があればの話だけど☆ ね~!」


 サンタルチアは無邪気に笑ってソリを滑らせ、あっという間に銀世界の中に消えていった。


 その場に残されたレベル2のザコモンたちとミディアムレアの肉塊。

 いつの間にか夜空は白み、針葉樹の木立を越えた向こうに朝日が昇るのが見える。

 長い長いイブの夜が終わろうとしているね……。


「あれ? そういえばここはどこ?」


 辺りには無数の爆破跡と倒れたトナカイたちが散らばり、その他は一面の雪。

 バーンズビーンズから見てどの方角にどのくらい離れた場所なのか、目印になるものは何もない。


 ……ちょっとこれ、遭難してるんじゃね?


~Happy Merry Christmas~




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 今回も苦労だけして借金は1ゼニも減らなかったじゃないか!

 何がクリスマスだよ!

 ばーか! ふざけんな!

 次回から新しいクエストが始まるみたいだけど、どうせ同じパターンだろ!?

 一年も続けば大体わかってくるんだよ!

 サイドクエスト【干支を狩る!】編、始まれよ勝手によ!

 また来年! あばよっ!


【第103話 ゴブリンガールは新年会する!】

 ぜってぇ見てくれよな!



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