第101話 ゴブリンガールは雪道を滑る!
~クランプス(討伐推奨レベル58)~
大きく反りかえった角を持つ獰猛なヤギの魔獣。
悪い子を攫いに来るといわれるクリスマスの伝承の生き物。
殺気に満ち満ちたヤギの赤眼はばっちしアタイたちを捉えている。
鼻息荒く、すぐにでも頭の角を振り回しながら襲い掛かってきそうな勢いだ。
「待ちくたびれちゃったよクランプス! あなたをおびき寄せるためにプレゼント(爆弾)を配ったり雪の中を走り回ったり……。疲れきって寝落ちするところだったわ~」
「あんたはソリの上でぬくぬくと胡坐かいてただけだろ!」
「そりゃあ寝落ちしそうにもなるだろうさっ!」
「あら、そういうグリンチくんこそずっと爆睡してたじゃない?」
「お前がトぶまで首を絞めたからなのさっ!」
ソリの上で口論を始めるアタイたちだったが、クランプスは大きく鼻を鳴らしてそれを遮りこちらに向けて突進してきた。
「あらあら、これはマズイわね♪」
サンタルチアは片足を上げるとブーツのかかとを勢いよくソリの底板に叩きつけた。
ガツンと大きく揺れてソリが雪の上を滑り始める。
「さあみんな、左に寄りなさい! 次は右よ!」
「はあ……!?」
「ほらほら、テンポ良く!」
手を叩くサンタルチアの指示に従って、アタイたちはソリの上で右へ左へと何度も体を傾ける。
こうしてソリの重心を変えることで舵を取ろうというのだ。
サンタルチアの眼は雪面の微小な凹凸を見分け、的確に進むべき針路を読み取っているらしい。
一度流れ出したソリはみるみる内に速度を上げていく。
クランプスはそれを追うようにアタイたちの背後についた。
「楽しくなってきちゃった~♪ あなたたち、振り落とされたら引き上げてやる余裕はないから。死にたくなければしがみ付いてなさいね」
「言われなくてもやってるよ!」
アタイたちを乗せる箱舟は早くもジェットコースター並みに加速している。
だがクランプスの脚力も大したもので、離されることなく並走してくる。
サンタルチアは再び布袋から手榴弾オーナメントを取り出してポイポイと投げ始めた。
幾重にもこだまする爆発音を響かせながら、カーチェイスならぬソリチェイスがド派手に繰り広げられる。
「やっぱりこんな子供騙しじゃまともなダメージにならないみたいね♡」
何度も爆弾の直撃を与えているが、クランプスの体はピンピンしている。
これだけ走り回っているのにスタミナが衰える様子もない。
こいつは強敵だね……!
「チッ! こうなったらグリ坊! あんたの実力を見せてきな!」
「え? オ、オイラ? 普通に無理なのさっ」
突然ネタを振られてキョドりだすグリ坊。
「ふざけんな。ゲストキャラだろ?」
「お前、出番的にクリスマス終わったらお払い箱だぞ。いま目立っとかないでどうすんだ」
「今のところ大した活躍もしてないンだわ。キャラとしての濃さが足りてないンだわ」
「なんだよ濃さって! 体張る系の仕事はお前たちがやっとけばいいのさっ!」
「ハア? アタイらだって好きでやってんじゃないんだよ!」
「そういやこいつずっと寝ててまともにソリ引いてないンだわ! 不公平なンだわ!」
「へへん! ソリ引きなんて肉体労働はオイラに似合わないのさっ!」
「言わせておけば!」
思わず取っ組み合いになって喧嘩を始めたアタイたち。
そのせいでソリの重心が狂い速度が落ちてしまった。
クランプスはその隙を見逃さず、すかさず横に並んで巨大な角を大きく振るった。
ドシン!
横っ腹にまともな攻撃を受けて大きく揺さぶられるソリ。
「あ~れ~w」
衝撃でジョニーが振り落とされ、脱臼でバラバラに散りながら雪ぼこりの中に消えていった。
「ジョニーの奴、さっそく見せ場を披露しちまったようだね」
「え? これが見せ場?」
グリ坊は顔を青くした。
「最近いろいろ立て込んでて飛び散り芸を見せれてなかったからね」
「久々のお家芸なンだわ」
クランプスはなおもソリの脇を走り、続けて第二撃を振るおうとしていた。
「次は俺の番なンだわ」
そう言うとスラモンは自らソリの縁に立つ。
その瞳は真っ直ぐにクランプスの角を見据えている。
ドシン!
「ンだわ~w」
スラモンは衝撃で振り落とされ、ビチビチに飛び散りながら雪ぼこりの中に消えていった。
「な……なんだこれ……! 活躍ってこういうこと!? お前たち、頭狂ってるのさっ!」
「レベル2のザコモンはこうでもしないとアピールチャンスを掴めないんだよ! わかったらあんたも行きな!」
アタイはすくみ上っているグリ坊のケツを後ろから蹴り上げた。
もはやクランプスとか関係なく、哀れなグリ坊はそのままソリから落下して雪の中に消えていった。
「ふん、手間かけさせやがって」
ツバを吐き捨てるアタイ。
サンタルチアはそんなアタイに振り返って無邪気に笑う。
「やだ~超楽しそう♪ 両手が塞がってなければ次は私があなたを突き落としてあげるのに~」
「遠慮します!」
しかし……。
依然としてクランプスの撃退法は見つからないまま。
どうやってこのピンチを切り抜ければいいんだい?
「なに言ってるのよ。もう反撃準備は整ったわよ♪」
「え?」
サンタルチアはウインクすると膝を折って前傾姿勢を作った。
するとソリの動きが格段に速くなる。
しかも、変わったのはスピードだけではない。
クランプスを翻弄するのように奴の周りをグルグルと走り始めたのだ。
重心移動だけでここまで細やかなコントロールをできるはずがない。
一体何が起こったんだい!?
「オーナメント爆弾は単なる威嚇攻撃じゃないわ。地形を改変して私のソリに適したコースを作り上げたのよ♪」
見ればたしかに、辺り一帯が滑らかな坂やカーブの連続になっている。
おまけにジャンプ台らしきものまであるよ!?
まるで小ぢんまりした即席スケボーリンクだね。
「さあゴブリンガール、しっかり掴まっててね。ハイジャンプを決めちゃうわよ~!」
ソリは加速しながら踏み切り台にさしかかり、そのまま一気に空へと跳躍した。
――――赤服のサンタルチアを乗せて雪降る夜空を駆けるソリの姿。
その場面だけを抜き取れば、まごうことなく聖夜のファンタジーが再現されていたことだろう。
無様に泣き叫ぶアタイと、その目前に凶暴な魔獣が待ち構えてさえいなければ……。
~ステップストンプ(アビリティレベル45)~
橇術闘勇士が習得する攻撃戦技。
ソリでハイジャンプし、上空から相手を踏み潰す大技。
アタイとサンタルチアを乗せたソリは無慈悲にもクランプスの真上から落下した。
ドオオン……!
周囲の冷えた空気がビリビリと震える。
「ひぃ~……!」
体を小さくして固く目を瞑っていたアタイ。
しばらく周囲に沈黙が漂い、それに耐えられなくなってそっと目を開けてみる。
どうやら攻撃は成功したみたいだ。
アタイたちでクリスマスの怪物クランプスを退治してやったんだね?
……だがそれは早合点だったようだ。
「ちょっぴり勢いが足りなかったみたいね~」
「え……?」
ソリの車体がメシメシと軋み、次にぐらりと浮遊する感覚があった。
恐る恐る下を覗いてみると……。
目を真っ赤に血走らせたお怒りモードのクランプスが、アタイらごとソリを持ち上げているではないか!
ひええ!
「うふふ。やっぱりクリスマスはこうでなくちゃ♪ ね~!」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
雪の量が少ないせいでソリに十分な助走を付けられないだって?
そんなことを言ったって簡単には積雪量を増やせないよ!
近年は異常気象のせいで暖冬を記録することも多く、全国のスキー場が経営的打撃を受けている!
深刻な雪不足はコースの整備に影響をもたらし、ゲレンデ全体に暗雲をもたらすんだよ?
Boy Meets Girl 幸せの予感きっと誰かを感じてる!
Fall In Love ロマンスの神様この人でしょうか(テッテッ、テッテーテレ♪)
【第102話 ゴブリンガールはクリスマスする!】
ぜってぇ見てくれよな!




