第100話 ゴブリンガールはベルを振る!
「ジングルベ~ル! ジングルベ~ル! 鈴が鳴る~♪」
ソリの上のサンタルチアはご機嫌に手元のベルをシャンシャンと鳴らす。
アタイたちが汗水たらして手綱を引いてるっていうのに良い気なもんだね!
しかし、こいつの舵に従って針路を進めてきたけど、一向に次の街明かりは見えてこない。
それどころかどんどん雪深い景色に変わっていく。
もしや遭難でもしかけてるんじゃないだろうね?
「ねえ知ってる? サンタがベルを鳴らす理由!」
「はあ? 知るかよ」
サンタルチアは鼻歌交じりに身を乗り出す。
「重たいソリを引くトナカイたちの喘ぎ声が煩わしくて、かき消すためにベルを振るの♪ シャンシャン!」
笑顔で言うことじゃないだろ!
トナカイ役をやってるアタイたちに向かってさあ!
「この女マジでイカれてンだわ!」
「人の心ってもんがねえぞ!」
「何言ってるの。サンタクロースのスケジュールは超過密なの。こなすためにはトナカイとの厳格な主従関係を保たなくっちゃね。少しくらいキビシくするのもやむなしでしょ~」
「軍隊でも率いてるつもりかよ!」
そんなアタイたち一行の前方に何やら見慣れない動物の群れが通りがかった。
「なんだいあれは? シカかな?」
「にしては立派な角を持ってるな」
「うふ。噂をすればってやつね~。みんな、あれが野生のトナカイの群れよ」
はえー。
シカより一回り大きな図体にモサモサとした白っぽい毛並み。
なにより目立つのは頭からいくつも枝分かれして伸びる刺々しい角だ。
トナカイなんて生まれてこの方初めてお目に掛かったよ。
それもそのはず、バーンズビーンズのあるグリタ平原に雪が降るのは真冬のあいだだけ。
トナカイの生息地はここよりずっと北方のはずなのだ。
「まあ正確に言うと、あれはトナカイじゃないからね」
「え? じゃあなんなんだい?」
「魔獣よ」
その魔獣の群れは遠目にアタイたちの姿を認めると、こちらに体を向けて走り出した。
足並みを揃えて大きな脚で雪面を蹴り、その速度はみるみる上がっていく。
……まるでアタイたちのソリを真正面から飲み込もうとするかのように!
~スノウディア(討伐推奨レベル24)~
対になったトゲトゲしい角を持つトナカイの魔獣。
群れで行動し、敵対物を飲み込むように体当たりの攻撃を仕掛ける。
「あなたたち、なにボサっとしてるの? 早くソリに乗りなさいな」
「え? え?」
アタイたちはワケもわからずソリの座席に転がり込んだ。
直後、何体ものトナカイたちが雪崩のようにぶつかってくる。
「伏せてなさい。体を出すと角に刺さってそのまま持っていかれるわよ」
「ヒ~ッ!」
ドカドカと体当たりを受けて荒波に揉まれるように揺れるソリ。
だが特注の素材でできているのか、バラバラに砕かれるほど脆くはなさそうだ。
ややあってトナカイの群れはアタイたちを通過していった。
だがすぐに方向転換し、再びこちらに体を向ける。
「せっかく野生に戻れたんだからそのまま逃げればいいのに。おバカさんたちよね~」
「ん? 野生に戻れた?」
「サンタルチア、奴らのこと知ってんのか?」
「あの子たちはみんな私から逃げたトナカイよ。元主人に恨みを晴らしにでも来たんでしょうね」
ちょっと待ちな!
あんたはあの獰猛な魔獣どもを従えてたのかよ!
そんな邪悪なサンタクロースがいてたまるか!
「トナカイがサンタに反旗を翻すなんて馬鹿げた話、許せないわ。ね~! だ・か・ら、ここからはお仕置きタイムよ♪」
サンタルチアは白い布袋に腕を突っ込んでまさぐり、たくさんのガラス玉を取り出した。
ツリーに飾る色とりどりのオーナメントボールだ。
マッチを擦って火をともすと、そのボールの先から出ている吊り紐に導火線よろしく火を移した。
「あなたたち、危ないからソリから顔を出しちゃダメよ。」
サンタルチアは次々と着火したオーナメントをスノウディアの群れ目掛けて投げ込んでいく。
それらは雪面に落ちたと同時に巨大な爆発を起こす。
次々と宙に吹き飛ばされていくトナカイたち!
「このガラスボール、中身は火薬玉!?」
「サプライズ~! サンタからのプレゼント、楽しんでもらえたかな~?」
地面をえぐる無数の爆破跡を残し、スノウディアの群れは全滅した。
あまりの惨劇にアタイたちはソリの中で固くなってガタガタと震える。
そこで気絶していたグリ坊が目を覚まし、弱々しく口を開いた。
「……みんな、これでわかっただろう? この女はサンタの皮を被った悪魔なのさっ……」
「グリ坊!」
アタイはグリ坊の体を抱き起す。
「バーンズビーンズの家中に配っていたプレゼントはすべてこの爆弾だったのさっ……」
「なんだって!?」
「快楽爆弾魔かよ? 街を吹き飛ばすつもりだったのか!?」
「うふふ~。そうしておけばサンタ嫌いの魔物だけじゃなく良心を持った魔物もまとめて釣れちゃうでしょ? 一石二鳥の良い作戦だと思わない♡」
良心を持った魔物を釣るって、なに!?
そのために危険物をばらまくあんたの方がよほど魔物に相応しいよ!
「だけどグリ坊、どうしてクリスマスが大嫌いなあんたが人間を助けるようなこと……」
「ふふ……。罪のない子供たちを見殺しにはできないだろう? 悲しいクリスマスを過ごすのはオイラひとりで十分なのさっ……」
「グリ坊……!」
なんだよお前……。
魔物のクセに良い奴かよ!
「ふぁ~あ。お涙頂戴の茶番劇は終わったかしら? それじゃあグリンチくん。目が覚めたんだしキミもソリを引く側に回りなさいよ」
悲しみと恐怖に打ち震えるアタイたちを、サンタルチアはあくびをしながら鼻であしらう。
――――そのとき、前触れもなく前方の雪面がボコリと盛り上がった。
どうやら地面の下から何かが現れようとしてるらしい。
ドオオオン!
雪と土片を空にまき散らし、唐突に姿を見せたのは一体のモンスター。
スノウディアのように頭に2本の角を持っている。
だがそれは丸太並みの太さでとぐろを巻くように大きく反りかえっており、トナカイの角よりずっと威圧感を放っている。
「来た来た♪ ついに来たわね、本命が♪」
緊迫した状況に似合わずサンタルチアは手を叩いてはしゃぎだした。
「あいつ、いきなり殺気全開だぞ!?」
「やいサンタ女! あのヤバそうなのは一体なんなんだい?」
「知らないの~? クリスマスに人を襲うアブない怪物と言えば、そう、クランプスちゃん! ね~!」
クリスマスの怪物、クランプス……!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
次々と厄介な魔物が襲い掛かってくるねえ!
それもすべての元凶はこのイカれサンタ女にあるんだけどさ!
クランプスの巨体といかつい角に手も足も出せず、アタイたちは情けなく逃げ回るのみ!
あんたたち、絶対にソリから落ちるんじゃないよ!
これはフリじゃないよ! いいね、落ちるんじゃないよ!?
【第101話 ゴブリンガールは雪道を滑る!】
ぜってぇ見てくれよな!




