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第十二話 戦艦の戦い方

「ガァ?」

ゴブリンゴッドは瀕死の状態から突然立ち上がり刀を向けてきた私に困惑しているようだ。

…まあ、無理もない、さっきのは明らかに致命傷だったからな。

さて、私は確かに代償を支払い、呪神武器を解き放ったことで大幅なパワーアップを遂げたであろう。

しかしいくらパワーアップしたところで私は本質的に戦闘の素人であることには変わりない。

じゃあどうするって?…それすなわち…突撃あるのみ!


―そうじゃ、戦艦から作り出されたわしを握ったお主も戦艦の性質を持つ!戦艦三笠は斉射の概念が確立されたドレットノートよりはるかに前の戦艦、つまり各砲門、めちゃくちゃに撃ちまくる!戦艦の戦い方は肉を切らせて骨を断つじゃ!さあ、いけ!


三笠の興奮したような声が脳内に響く、それすら今の私には精神を高揚させるスパイスだ。

「うりゃあああ!我が命、この一戦にありいいいい!」

地を全力で蹴り上げ加速する。

―ゴバッ!

後ろでボス部屋の床が陥没したような音が聞こえたが無視する。

「うおおおおおお!」

恐ろしい勢いで加速した私の体は瞬く間にゴブリンゴッドの目の前に到達する。そして私は全力で三笠刀を振り下ろす

「ガァ!」

ゴブリンゴッドがその黄金色に輝く甲殻を持った腕でガードしようとする

上等!受けて立つ!その金ぴか成金趣味の腕を断ち切ってやらぁ!

―グシャ

振り下ろした三笠刀は奴の腕の半分ほどまで食い込んだ。チっ!断ち切れなかったか!

「ガアアアアア!」

ゴブリンゴッドは痛みによるものか叫びをあげる。しかしただでは終わらせないとばかりに私の横っ腹に向け蹴りを叩き込んで来ようとする。

三笠刀を引きぬき、一歩下がれば躱せる蹴りだ、しかし…

「今の私は戦艦だ、戦艦に回避という二文字はない!」

―ドバンッ!

奴の蹴りが私の横っ腹に直撃し炸裂音が響きわたる。

「ガギャァャァ!」

はたして、炸裂したのは奴の足の方だった、黄金の甲殻が無残にひしゃげている。

「三笠は全体防御式の戦艦、すなわち私の体全体は防御力は数百ミリのクルップ鋼に匹敵する」

蹴りを入れた奴の足の方がひしゃげるのは必然と言えるだろう。

そして、今度はこちらの番だ、肉を切らせて、骨を断つ?、違う!肉を吹き飛ばして、骨を粉砕する、だ!

私は奴の腕に食い込んだままの三笠刀にさらに力を加えていく。

「これが一万五千トンの巨体を動かす戦艦の馬力だあああ!」

―スパン

気合の声とともに全力で三笠刀を押し込んだ結果、奴の腕を断つことに成功する。

「ガアアアアア!」

奴が切り落とされた腕の根元をもう片方の腕で抑えながら全力で後退する。

そして奴、ゴブリンゴッドは片膝をついた態勢で踏ん張る。

「グガオオオオオ」

そうすると切り落としたはずの奴の腕が再生していく。

…なるほど、再生するのか、厄介だね、そう簡単にはいかないか、さすがゴブリンであろうと神の名を冠するだけの事はある…だが上等だ!

「再生できなくなるまで切り刻んでやるよ」

私は獰猛な笑みを浮かべながら奴に再度突撃していく。




その後も、ゴブリンゴッドと私の削りあいは続く。

奴が切り下した後を狙って顔面に拳を叩き込んでくる。それを私は額で受ける。

奴の拳がひしゃげた音がしたが、それに構わず私はさらに奴を切りつける。

奴が足払いを掛けてくる、だが私は踏ん張り、耐える、返す刀で奴をさらに切りつける。

奴の拳に耐える、切りつける、奴の蹴りに耐える、切りつける、奴の頭突きに耐える、切りつける、耐える、切りつける、耐える、切りつける、耐える、切りつける、耐える、切りつける…





そんなこんなの繰り返しを30分以上続けた結果、私はほぼ無傷、対してゴブリンゴッドは苛烈な攻撃に対して、とうとう再生が追い付かなくなったのか全身血まみれで、切り傷だらけで、奴の持っていた神々しさと黄金の輝きはすでになくなっていた、しかし…

「ガァ…」

「へっ、最初よりはましな面してるじゃねえか」

最初の不遜な黄金成金もどきと比べれば、血濡れ、切り傷だらけの姿は生きあがく生命の力強さすら感じる。魔物がまともな生命かどうかは知らないけどね。

「ふふふ、さぁ私ともっと戦って、戦って、戦おう!」

なんかどんどんテンションが上がってくるな…まるで失ったなにかを埋めるように

「ガアア!」

さて、戦いを再開しよう、例え私が圧倒的に有利でも、侮らないし、油断しない、正々堂々叩き潰してやる!

私が突撃しようとしたところ


―あー、盛り上がっているところ、悪いのじゃが、戦艦とは得てして、大食らいでのう…燃費が悪いのじゃ、だからお主はあと数分で動けなくなるじゃろうな


「えっ」

…あと数分か、ならばその数分で勝負を決める。そうだ、そうすればいい。

―あーまてまて、早まるな、早まるな、ちょっと、脳筋すぎないか…はぁ…時にお主、戦艦の最大の武器はなんじゃ

…最大の武器?なんだ藪から棒に…戦艦の最大の武器か、他の軍艦の追随を許さない防御力と…大口径の主砲?

―そうじゃ、主砲じゃ、お主、いったん納刀して居合の構えをとるのじゃ

?なぜそんなことを

―そして、居合の構えをとり、想像するのじゃ、その大口径の主砲が火を噴く瞬間を

…なるほど…つまり

―わしが戦艦の主砲から作られた存在である。戦艦の最大の武器は主砲、即ち…

主砲を発射する機構が備わっていると、この三笠刀に

―奴を…最強最大の一撃で葬ってやるのじゃ!

私は納刀して適当な居合の構えをとる。居合術なんてわからないしね。そして目を閉じて想像する。

―名は意識すればわかるはずじゃ

「ガアアアアア!」

奴が何かを察したのか全力で突っ込んでくる。

私は目を閉じたまま、居合の構えを取り続け唱える

「四十口径…」

頭に思い浮かんだ名を

「三十点五センチ…」

唱える

「ガアア!」

奴が構わず突っ込んでくる。

だが、もう終わりだ

じゃあな、ゴブリンの神様さんよぉ

そして私は開眼し、三笠刀を抜刀する

「連装砲!」

こちらまで15メートルほどにまで迫っていた奴に向けて、三十点五センチ、つまり12インチの口径を持つ砲弾が発射される。


とある国の砲兵は言った「155ミリ榴弾を撃ち込めばすべて解決する」と、近代、あるいは現代の砲の威力は兵器がスマートでハイテクになった現代でも尚、その制圧力でもって、すべてを土に返さんとする。155ミリ榴弾が直撃すれば第三世代MBTですらハルブレイクは必須だ。ゆえにこう呼ばれる「砲兵は戦場の女神」であると。況やそれが戦艦の大口径主砲であるならば結果は…


―ズガァアアアアン


轟音とともに三笠刀から砲弾が具現化され発射された。


瞬間、強烈な轟音と爆風と熱波が私を襲った。

「くっ!」

私は三笠刀を地に突き刺し、支えとして、それに耐える。

しばらく砲煙があたりを覆う。

そしてそれが晴れると、奴の様子が見えた。

奴は…上半身を完全に吹き飛ばされ下半身の一部だけが無残に立っていた。

やがてそれすら倒れ、黒い煙を上げ空間に溶けていく。

…私の…勝ちだ。


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