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漆黒の戦機  作者: 夏木裕佑
第五章 「賢帝は旗の色を知る」
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一三三年 二月二十一日~ ②

 これしきでやられるハンスリッヒではないが、船の性能差は歴然である。グローツラングは、間違いなく一対多の戦闘を考慮して建造された、規格外の戦艦だ。走攻守、全ての性能が高次元のバランスで調和し、アクトウェイの周囲に群がる砲撃反射無人機であらゆる距離の戦闘で、状況を有利に進める事ができる。

 現代艦艇における防御力の源、PSA装甲は、全周囲に対してエネルギーの壁を作りだす最新技術であり、必要ならば任意の方向に出力を限定することもできる。

 そこが盲点だ。フィリップのように、腕の立つ機関士であればあるほど、滑らかにエネルギーの集中度合いを変化させ、攻撃を受ける部位の防御力を向上させる。言い換えれば他の部分の防御が疎かになるということだ。正面からの砲撃戦を想定された多くの艦艇に対し、副砲とはいえ大口径の荷電粒子砲を多彩な角度から撃ち込む戦術は比類ないアドバンテージとなる。

 アクトウェイが揺れる。ジュリーとフィリップが阿吽の呼吸で船を操り、被弾個所への再度の被弾を極力防いでいる。リガルはアキに指示し、艦内照明及び生命維持装置の稼働を艦橋に限定、余剰エネルギーを僅かでも他セクションへ分配するように指示。

 艦橋を囲む、半球形の全天ディスプレイが目まぐるしく移り変わる星の海を映し出す。慣性補正装置が唸りを上げる。

 リガルは船長席の肘掛を強く握りしめながら、正面からグローツラングとの砲撃戦に突入したコンプレクターを見やる。

 と、ハンスリッヒが動いた。

 グローツラングからエネルギービームが伸びる。紫色の船体は巧みな機動で致命傷を避け、次の一瞬で消える。

 時空震反応。グローツラングが揺れる。余波はアクトウェイにも迫る。

 奇妙に歪曲した星空の波が押し寄せてくるのを目の当たりにし、リガルは叫ぶ。


「ジュリー!」


「わかってるさね!」


 アクトウェイが横転する。同時にピッチ。強烈な加速度が垂直に肉体へと降りかかり、一瞬、ブラックアウト。

 意識を取り戻した瞬間には、アクトウェイは時空震で進路の乱れた敵の砲撃反射無人機の隙を突き、アクトウェイは艦首をグローツラングへと向ける。


「撃ち方!」


 イーライが発射ボタンを押し込む。

 十二本のエネルギービームが小惑星帯を貫く。いくつかの岩石を蒸発させ、あるいは弾き飛ばしながら進む光線は、敵船へと命中するかと思われたが――


「くそ、反射される!」


 敵船に纏わりつくように飛行していた砲撃反射無人機が、アクトウェイの砲撃を受け止める。恐ろしい反応速度だ。いくらか距離があるとはいえ、数秒での着弾である。AIに自動防御システムを実装しているのであろうが、その前に意思決定の時間が挟まれて然るべきである。

 しかし、予想外の敵の防御に、さらに想定外の事態が起こる。

 砲撃反射無人機が爆発する。アクトウェイの、重巡洋艦クラスの威力を持つ主砲に耐え切れなかったのだろう。爆散するいくつかの子機の向こう側で、本体にも命中するのが垣間見える。

 その時、戦闘が停止した。

 リガルは即座に通信ボタンを押す。


「グローツラング、聞こえるか。こちら大型巡洋船アクトウェイ。貴船とこれ以上の戦闘を行う意志はない。会談に応じるよう要請する」


「船長、コンプレクターがアクトウェイの後方三万キロメートルの位置にワープアウト。周辺宙域における敵無人機の行動も停止しており、全機、母船へ向けて飛び去っていきます」


「管制長、了解した。アキ、返信があれば知らせてくれ」


「わかりました――と、船長。返信が来ました。繋ぎますか?」


「案外早かったな。頼む」


 応じてから数秒後、座席の目の前に金髪の男が現れる。

 これがジェームス・エッカートか。リガルは、思わず画面をまじまじと見つめてしまうのを自覚する。

 金色の髪は色が薄く、金よりもしろに近い。それほど長い訳ではないが、癖が無く真っ直ぐに伸びているため、実情よりも長く見える。瞳は青空の色。宇宙空間で、太陽と空を身に纏った男が、薄水色の航宙服を身に纏って画面の中に存在していた。

 眼光に気圧される。鬼気迫るとはこの事か。形の良い眉が顰められ、リガルは背筋に寒いものが走るのを感じる。

 この通信内容の次第によっては、間違いなく攻撃を再開する構えだ。


「アクトウェイ、こちらグローツラング。貴船の通信に応えよう。何を話す?」


 低い男の声だ。その声色から、まるで貴族だ。不遜ではなく、その魂の猛々しさを感じる。


「グローツラング、会って話がしたい。重ねて伝えるが、こちらには戦闘の意志はない」


「証明にはならない。貴船は何のためにここへ来た?」


「ジェイスを討伐するためだ」


 彼の顔色が、微かに変わる。

 ここが押しどころか。


「帝国軍残党を二隻で相手にするつもりか。殊勝な心掛けだな」


「いいや、そのつもりはない。貴船に助力を求めにきた。俺はジェイスと少なからずの因縁がある。詳しくは話せないが、あなたの目的にも貢献できると思う」


「フム。いいだろう、話を聞くだけだ。まずは砲門を閉じてくれ。剣を突きつけられては、対等な会話もできんだろう」


 対等。宇宙一の放浪者ノーマッドと。

 昂揚感を胸に秘め、リガルは頷いた。


「こちらからそちらへ覗う。よろしいか?」


「ああ。ついでに、あの紫色の趣味の悪い船の船長も連れてくるんだな」


 一方的に通信を切られ、アキが不快そうに顔を顰めた。





「こいつはどうも」


 水色の航宙服に身を包んだ船員が、見事な一礼を残して去っていく。その背中を見送ると別の船員が歩み出て、前後を数名の兵士――放浪者に適切な表現ではないが、そうとしか思えない――に挟まれ、シャトルから格納庫に降り立つ。

 ジェームス・エッカートは貴公子プリンスだ。グローツラングには、確かにアクトウェイの主砲が命中したはずであるが、被害はない。PSA装甲は臨界を迎えているらしいものの、決定打ではないのだ。

 同じく、空色の装甲服が周囲に群がる。しかし整然と、統率を保って。

 これは勝てない、とリガルは悟った。恐らくはコンプレクターとの共同戦線以外では、勝ち目など望めない。少なくともあと一隻の助力が欲しい所だ。

 ざっと見て百名弱の兵士達が、装甲服を照明に煌めかせて立ち並ぶ。その中央、正面に立つ、あの男が、リガルとハンスリッヒ、アキを見つめていた。

 恐ろしい目だ。冷徹を絵にかいたような。アキが最初に生体端末に入った時も、このような印象を受けたことがあるが、彼女の場合は感情表現が致命的なまでに乏しいだけだ。

 この男は違う。喜怒哀楽を備えた人間だ。だからこそ、何も感じていない瞳を向けられると、それだけで恐怖し得る。


「きらびやかだな。気品を感じる。騎士道精神を具体化したような船だ」


 ハンスリッヒが感心したように言う。声が大きいのはわざとだろう。

 黒い青年に白い美女、紫色の貴族という取り揃えは、この船の中では異質に思えた。


「君だって負けてないさ」


「世辞が上手くなったな、リガル? ま、そろそろご対面といこうじゃないか」


 広々とした格納庫を歩き、ようやくエッカートの目前まで到着する。

 貴公子は流麗な一礼をして見せた。


「ようこそ、グローツラングへ。私が船長を務めるジェームス・エッカートだ」


「コンプレクター船長、ハンスリッヒ・フォン・シュトックハウゼンだ」


 エッカートは片眉を上げた。


「銀河帝国の貴族様が、こんなところにどんな御用だ?」


「そうつっけんどんにしないでくれ。確かに帝国貴族の血は引いているが、奴らとは出自が異なる」


「どう違う? 同じ国の血が流れていることは間違いないと思うが」


「民族的に世界を分ける愚か者が、放浪者の王だとは知らなかったな。私が彼らと違うのは、誇りと名誉を知っているかどうかだ」


「これは失敬した。謝罪しよう。そちらは?」


 本命であろうに、さも脇役のように扱ってくるエッカートへ、リガルは黒い瞳を向けた。後ろに控えるアキからも冷たい視線が彼へ送られているのがわかる。


「アクトウェイ船長、リガルだ。こっちは生体端末のアキ」


 白髪の美女は、精密なお辞儀をした。白い髪が頬にかかるが、彼女は気にする風でもない。

 エッカートはさして驚く様子も見せず、リガルを凝視した。


「レイズの英雄か。ゴースト・タウン宙域でも派手にやっていたと聞く。私は特にランクを気にしている訳ではないが、聞いておこう。今はいくつだね?」


「八二です」アキが即答した。


「ほう、その若さで百位以内か。先が楽しみだな。ともかく、中へ案内しよう」


 貴公子の後に続くと、驚くべきことに、護衛の船員は誰もついてこなかった。リガルの腰ないるブラスターを引き抜くだけで、彼は死ぬだろう。

 だが、アキのように、この船を統括している管理AIがいないとも限らない。間違いなく、いるだろう。こうして歩く中、いつリガルらが謀反の心を持つか、手薬煉引いて待っている筈だ。誘いに乗ってはならない。

 格納庫のエアロックを潜ると、ハンスリッヒが欠伸をかみ殺しながら問うた。


「クルー、何人いるんだ? この規模だ、まさかさっきのが全員じゃないだろ?」


「五二一人だ」エッカートはさして苦も無く答える。「軍用艦艇だと千人は下らないだろうが、放浪者に多目的任務用の上陸要員や戦闘艇の整備員などは必要ない。他の船との連絡や兵装管理、連携のためのデータリンク仲介と伝達……多くの業務があるが、君達だって、そんな人員は抱えていないだろう」


「七人で船を回しているのもいるよ」


「酔狂だな」


 すっぱりと切られ、ハンスは顔を顰めた。

 エッカートは愉快な表情を見せることもなく、ちらりとリガルを見やる。


「リガル、君は何人抱えている?」


「アクトウェイには、アキを含めれば七人で動いてるよ。ハンスが言ったのは、俺達のことだ」


 貴公子の流麗な足運びが止む。彼は振り返り、アキと、リガルの双方を興味深そうに見やった。

 先ほどとは違い、真剣な光のこもるその瞳に見つめられ、リガルはたじろぎそうになるのを堪える。品定めを受けるのは癪だが、ここで妙な真似をすれば、生殺与奪を思うがままにする彼に殺される。

 やがて彼は、嘆息ともとれる小さな吐息を吐き出した後で、言った。


「なるほど、英雄か。終ぞ、私にはなりうることは叶わなんだか」


 前を向き、それからエッカートは無言のまま歩を進めた。

 迷路のように入り組んだ、巨大な航宙艦らしい広々とした通路を進むと、エレベーターが見える。乗り込んで、上昇。降りてすぐ右手にあるハッチを潜ると、小さな会議室らしき部屋に出た。

 薄い空色の塗装は、船内と共通している。ここまで来るのに、一人としてクルーを見かけなかった。意図的に歩かないようにさせたのだろう。今は閉じられたハッチの向こう側から人の気配を感じる。

 だが、目を離せない。

 室内には、見目麗しい二人の少女が立っていた。


「紹介しよう。我がグローツラングのAI、ラクスとアンブラだ。アキとは同じ生体端末になるな」


 少女らはお辞儀する。

 ラクスは明るいブロンドのショートカットに金色の瞳、アンブラは黒い長髪と同じく黒瞳を携え、その他の背格好、顔つきは、違和感を覚えるほどに似通っている。というよりも同一だ。着ているのは水色の航宙服ではあるが、男性用とは違い、ズボンが長いプリーツスカートに変えられている。

 なるほど、先ほどの小型無人機は彼女らのどちらかが操作していたのか。リガルは腑に落ちた思いで、お辞儀をした彼女らに会釈を返し、勧められるままに席に着く。

 十八の座席が据え付けられた円卓の、それぞれ反対側に座った男女は、等しく視線を交わし合う。

 中でも、アキはラクスとアンブラを凝視していた。思えば、彼女が自分以外の生体端末を目の当たりにするのは初めての事だ。興味を持つのは至極当然である。


「さて」沈黙を破り、エッカートが口を開いた。「私に話すこととは?」


「端的にいえば、ジェイスを討伐するのを手伝ってほしい。あなたはどういう訳か知らないが、どうも帝国軍残党を追っている様に思える」


 リガルの言葉に、フム、とエッカートは顎を押さえる。


「確かに、私はあれらを追っている。個人的な理由でな。君はまた、どうしてジェイスを追っているんだ?」


 リガルは、事の顛末を端的に説明した。レイズ=バルハザール戦争の無人艦隊派遣から、ゴースト・タウン宙域での戦闘、惑星パールバティーでジェイスと相対したことと、彼が嘯いたことも、全てを話した。その内容は、どうやらアキと似通っているリンドベルクという女将校や、ジェイス、リガルをも含めて、彼ら自身もあずかり知らぬ関係があるらしい、ということまで及ぶ。

 全ての話を聞いていたエッカートは、話を遮ることもなく、時折頷きながら最後まで聞き終えた。


「なるほど、それは奴を討ち取りたくもなる」


「とにもかくにも、安心できないんだ」リガルは、自分の胸の内に秘めていた不安を吐露した。「コンプレクターも酷くやられた。こっちは死者も出てる。ケリをつけるためにも、奴はどうにかしなければならない。そのためにはあなたの力が必要だ。利害が一致しているのなら、ぜひとも協力を仰ぎたい」


「結論から言いたいところだが……私のほうも事情が入り組んでいてな。まずはその説明から始めたい。構わないか?」


「もちろんだ」


 しばしの間、エッカートは円卓の傷一つない表面を見つめる。船内を照らし出す眩い照明を反射しないよう、特殊な加工の施されたそれを指でなぞり、彼は顔を上げた。


「リッキオ・ディプサドルを知っているな?」


 ハンスリッヒが律儀に頷く。


「あなたの下にいる女性ランカーだな。宇宙で二番目の女ノーマッドだ」


「男に回りくどい言い方は野暮だ。率直に言うと、私は彼女を愛している」


 恐らくは恒星よりも熱のこもったその言葉に、ハンスは感心したように唸り、リガルは目を丸くし、アキはリガルを見やった。

 宇宙で上位二名の実力ある放浪者ノーマッドが恋仲であるのか。それだけでも宇宙を揺るがす一大ゴシップだが、ともなれば、ジェームス・エッカートが戦う理由は彼女のためか。

 アキの視線の意味に、ハンスリッヒは気が付く。愛する誰かのために多勢に挑む、そんな愚か者を他にもう一人、彼女は知っているのだ。


「馴れ初めについては、いずれ語ることもあろう」微塵の羞恥も感じさせず、貴公子は言った。「彼女はある人物を盾にとられ、ジェイスの軍門に下った」


「して、その人物とは?」


 急かすハンスリッヒを見据え、エッカートは言った。


「アスティミナ・フォン・バルンテージ」


 一瞬の沈黙。驚愕のさざ波が収まるまでに数秒を要する。

 その間、リガルの胸中には疑問のみが渦巻く。

 何故、彼女が。ジェイスは何を企む?


 ”ちょっと、古い帝国を蘇らせようと思ってね”


 あの白い男はそう言った。彼が言うのは銀河帝国に他ならない。そのために、ロリア周辺でも蜂起を起こしたのだろう。ならば、帝国の象徴が必要だ。望ましいのは、帝国貴族の血を引き、現代でも力を備えている人物――アスティミナはうってつけの偶像だ。旧銀河帝国軍残党も、嬉々として彼女を奉るに違いない。


「――彼女を擁することで、銀河帝国は名実共に再興を果たすことになる。それはわかった。だが、リッキオ・ディプサドルと何の関係がある? いち放浪者が、旧帝国貴族の末裔で折れるなど」


「彼女自身の問題でもあり、彼女にはどうしようもできないことだったのだ」


「血筋か」


 ハンスリッヒは、既に笑ってはいなかった。少女を政治の道具に仕立て上げる、ジェイスの所業に露骨な嫌悪を表している。

 貴公子は頷いた。


「そうだ。君も覚えがあるだろう、ハンスリッヒ・フォン・シュトックハウゼン? この宇宙に生まれ出でた人間に纏わりつくしがらみというものは、常識ではない。自分の身体の中をめぐる、この血液だ。この伝統だ。本人が意識せずとも、血は離れることはない」


「つまり、リッキオ・ディプサドルは旧帝国貴族の血を引いている、と。確証はないが、今は信じるしかないな、リガル」


「エッカート、アスティミナの件は本当なのか?」


「真実だ。そうか、君は彼女と少なからずの縁があったな。宇宙とは不条理で満ちているが、時には幸運とも取れる不運を連れてくる」


「状況が変わった。エッカート、俺達は協力できる。アスティミナを取り返さなければならない」


「群れるのは御免だ」


 彼はばっさりと切り捨てる。しかし、彼は気色ばんだリガルへ、意味深長な視線を投げた。


「だが、今回は別だ。レイズの英雄と、こうして会い見えるのも僥倖だろう」


 言外には、戦争屋に味方した放浪者が、と言いたげであるのがひしひしと感じられた。リガルは顔を顰め、意趣返しとばかりに言い返す。


「それはそれは。初めて顔を見る相手にしては、よくも見込んでくれたもので」


「ハハハ、そう気を悪くするな。私には、君らを信用するに足る確かな確証があるのだ」


「ほう、お聞かせ願いたいね」


 不遜なハンスリッヒの言葉に、エッカートは口角を上げて答えた。


「なに、先ほどの一撃だ。PSA装甲を貫通こそしなかったものの、グローツラングが被弾したのは、以前にあってから久しい」


 アキが初めて口を開いた。


「それだけですか?」


 エッカートは、驚きの色を隠そうともせずにアキを見た。次いでリガルを見やり、何がしかを言いかけた後、再びアキに視線を戻す。


「まあな。第六感というやつだ。私は勘を頼りにしている。自分の直観は、外れた経験が無いのでね」


「交渉成立だ」


 紫色の青年が立ち上がる。黒い彼も立ち上がるが、それを貴公子は手で制した。


「待て。リガル、君と話したいことがある」


「それなら――」


「いや、シュトックハウゼンの末裔には席を外してもらおう」


 ハンスは怪訝な顔つきをしたが、すぐにリガルの肩を叩き、一人で部屋を出ていった。

 リガルとアキが残される。彼らの正面には、ラクスとアンブラを脇に座らせたジェームス・エッカートがある。

 二体の生体端末は、無機質な瞳でリガルを凝視していた。


「リガル、聞きたいことがある。それはなんだ?」


 貴公子が指さしたのは、アキである。彼女は顔を顰めるでも、笑うでもなく、ただ彼を見つめ返した。


「彼女はアクトウェイのAIだ。生体端末として、俺達のサポートを――」


「そんな訳はない」エッカートは否定した。「生体端末ではない。彼女は先ほど、自ら私に問うた。そんなことは船のAIにあってはならない」


「彼女は歴が長いんだ。俺の親父の代からやってくれている」


 再び、彼は口を開いたが、また閉じた。明らかに動揺している彼に首を傾げながら、リガルは手を振られて部屋を出た。

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