一三二年 十一月七日〜
・アリオス歴一三二年 一一月七日 バレンティア第五機動艦隊
大規模演習まで三週間を切ったこの日、バレンティア航宙軍第五機動艦隊旗艦アーレの最深部にある防諜会議室に、銀河連合の中で最も強力な武力の長達が顔を並べていた。その表情はどれもが険しく、特に座長を務めている第五機動艦隊司令官、クライス・ハルト中将の顔色は芳しくなかった。ここ数日の無理が祟っているのは明白で、しかしそれよりも重要な議題を目前とし、誰もが彼への気遣いなどにかまけている余裕も無かった。
「いやはや、年を取れば悪い勘ばかりが冴えわたってしもうてな。若い君にかような重荷を背負わせる事になろうとは」
そうしゃがれた声で呟くのは、千隻規模の宇宙最高の武力を統率する銀河連合軍でも最高の権力を持つ、ジョン・テイラー大将だ。白髪を右手で撫でる彼の隣には副官の青年が緊張した面持ちで座っており、ハルトの選んだ同い年ほどの従卒が、そのふてぶてしさをたっぷりと発揮し、備え付けのドリンクバーから水やコーヒーを淹れ変え歩いていた。その様子を見て手持無沙汰になっても、彼は敬愛する統合機動艦隊司令長官の傍を頑として離れることはなく、その賢明な姿勢がじんわりとした安らぎとなって会議室に並ぶ面々の頬を緩めた。孫と祖父ほども年の離れた二人がかように健気な関係を気付いていることを、ハルトは少しだけ羨ましく思う。
「では、第六艦隊が敵側である事は、もはや確定事項というわけから、ハルト中将。儂は君に全幅の信頼を置いている訳だが、こればかりは儂の見立てとは違う。てっきり、エンテンベルクが怪しいと思っておったのだが」
「これに関しては、私はかなりの確信を持っております、司令長官閣下。彼の周辺から裏を取りましたが、どうも他の機動艦隊全てに内通者を置いているようです。金の流れにも不審な点がいくつか見受けられますし、僭越ながら他の機動艦隊に対しても同様の調査を行いました。その結果、少なくとも第六艦隊は黒、グレーゾーンといえるのが第二艦隊と第七艦隊です。心苦しい限りですが、これは由々しき事態です、閣下」
重々しく、テイラーは頷く。
銀河連合の中でも、バレンティアは経済面を考慮せず、純軍事的な戦力だけを評価すれば、兵站、戦術、戦力のどれを置いてもバレンティア航宙軍は他の国家をすべて相手取ったとしても、戦線を保ちうるだけの実力がある。その力の根幹は機動艦隊であり、一個艦隊で一国を相手取る事も可能なバレンティア航宙軍の虎の子だ。そのひとつが帝国軍残党と結託しているらしいという事実だけでもぞっとしないのに、その疑いのある艦隊がまだいくつかあるという。
ライオットが口を開いた。この事態は銀河連合の縮図ではないのか。どういうことかと問う一同に対して彼は、確かにバレンティア航宙軍は内部からの襲撃に対して、精神的な効果がかなり大きい。「まさかバレンティアが」となる訳だ。しかし、バレンティアでさえそうなのだから、他の国で同じような事が無いとも限らない。バルハザールは軍の再建途中なので考慮しないとしてもレイズ星間連合やアルトロレス連邦、ロリアや他の帝国領に属していた小国家群がこれに続かないとも限らないのだ。
「ジョン・テイラー司令長官閣下の御懸念は最悪の形で的中しようとしているのではないでしょうか。レイズ=バルハザール戦争のような各国家間紛争ならば、三つは同時に対処できるでしょう。ですが、各国家軍隊がバレンティアに対して、相当な数で武装蜂起を起こすともなれば、これはもはや連合評議会にも手の余る問題です」
「それだけではないぞ、ライオット少将。他にも帝国残党の勢力が隠れている。ハルト中将、お主が敵ならばどのようにバレンティアを追い詰める?」
思いもがけない質問にハルトは面喰ったが、少しの逡巡の後に口を開いた。
「各国家軍隊にて協力を取り付けた部隊に関しては、指定の日時に武装蜂起する様に指示を出すにとどめます。それが銀河全土を揺るがす大規模反乱の一部だとは報せません。この時、各国家群が独立した指揮系統を主張して意思疎通が出来ない事を逆手に取ります。そうすることで、彼らは自らの意志で反乱を起こし、そこではじめて、周囲の国々でも全く同じ出来事が起きているのだと気付きます。その間、バレンティア航宙軍は治安維持のために出動する必要に迫られますが、このとき機動艦隊が三つ反旗を翻したと仮定しましょう。そうすると、常用艦隊ではカバーしきれない部分が出てきます。そうなれば、あとは各地で寸断された正規軍の生き残りがゲリラ戦を展開するしか希望は残りません。そこに帝国の残党が表舞台に出てきて、武装蜂起した部隊ごと旧帝国領の国々を制圧し、銀河帝国の復活を宣言する」
「そこから先は、足固めということになるかな。バレンティアの腐敗と銀河連合の怠慢を盾に民衆を煽り、元から反バレンティア感情の強い元帝国人たちは賛同する」
「しかし、先日まで銀河連合の一員だった彼らが、平平伏伏と帝国の支配統制下にすんなりと入るでしょうか?」
「少将、君は若いから知らぬのも無理はない。銀河帝国は真っ当な国家だったのだよ。バレンティアと同等程度には、人権などは保障されておった。政治体制の違いが国民に対する不当な扱いを確定させ得るかといえば、それは否だ。古くから言われていることだが、専制政治と民主政治の違いは政治責任の集中か偏在だ。どちらも政治権力を握る人間、或いは集団の能力で決定する」
「私も聞いたことがあります、司令長官閣下。帝国の最後の皇帝、バン・アンフォルト・フォン・シュタイツバッハは賢帝であったと。歴史の教科書には載っていませんが、歴史家の間では有名な話だそうですね」
「良く知っておるな。フム、確かに彼はそう呼ばれておった。だが、真実が必ずしも宇宙に安寧をもたらすとは限らんというのは、ここにいる皆が知っていよう」
当時、バレンティアは同程度の超大国である銀河帝国を蹴落とす事で、銀河連合の長となる機会を伺っていた。当時は宇宙に進出した人類が国家という枠組みを初めて整えた時期であり、結成されたばかりの銀河連合は旧地球で整っていた国連の体制を宇宙で再現しようというものだった。つまり、ここで力を持つことが出来れば、古き良き時代の北米と同等の地位に付き、しかもその国力は宇宙への進出により比較にならないほど高くなることは簡単に予想できた。百年前はその気運がどこの国でも高く、その中でも突出して大きな力を持っていたのがバレンティアと銀河帝国であり、それらの対立構図は必然的にオリオン腕の各国まで波及し、相反する政治体制はそのままイデオロギーの違いとして浸透していった。
冷戦が再現されようとしていたが、そうなることは無かった。何故なら、二ヶ国の対立はそれだけの情勢へと変化する以前に些細な軍事衝突から回復不可能なまでに冷え切り、臨界点を突破して一気に沸騰したのだ。
それがオリオン腕大戦。人類史上最悪の死者を出し、最も広い戦場で、最も多くの人間を殺した戦い。幸いにも、この戦いは両国の国民をも巻き添えにした大規模な報復戦とはならず、終始、正規軍による一貫した正規戦が主体となった事だろう。
だが、それほどまでに人類社会へと多大な影響を及ぼしたこの戦争の発端については明らかになっていない。一説によれば帝国軍艦がバレンティア航宙軍の艦艇を撃沈せしめた奇襲攻撃から始まったとも言われているし、片やバレンティアの仕掛けた情報戦による小競り合いから戦争へと発展したとする説も存在する。これについては歴史家たちの未だ終わる事の無い論争の果てを見ない限りは落ち着かないが、暫定的に、それらのうちいくつかが事実で、原因としては複数考えられたのだろう。
「なら、いっそのこと奴らに任せるか。俺達は退場だ」
「おい、ハルト……」
「ハハハ、君は正直な男だ、ハルト中将。儂の若い頃によく似ておる。うむ、そんな嫌そうな顔をするでない」
たしなめつつ、テイラーは思案深げに顎をさすった。薄らと生えた無精髭が、彼もまた激務の中にあったのだと無言のうちに語っている。
「冗談ですよ、司令長官閣下。以前、どれほど優れた国家が在ったにせよ、今の歴史を作っているのは私達バレンティアです。人類全体から非難されたのならばともかく、たかが銀河の半分に否定されたくらいでは、バレンティア軍は肩すかしもいいところだ」
「それでは、中将……」
「私は戦う覚悟です。他の機動艦隊全てが敵になってもね。それに、アシュレット総参謀長閣下の頬を、いちど殴ってみたいと思っていましたし。なあ、ライオット?」
「やれやれ、あなたという人は……わかりましたよ。微力ながら尽くしましょう、あなたに」
「驚いた。君達は、負けるとは思わないのかね?」
眉を吊り上げて驚きも露わにしている老人に対し、ハルトとライオットは顔を見合わせ、気持ちのいい笑みを浮かべた。壮絶とさえ言えたかもしれない。
「閣下、私はバレンティア航宙軍機動艦隊の番号制度が気に食わなかったのです。第五機動艦隊?ふうん、五番目か。そう言われることがどれだけ屈辱だったか。それに、第五機動艦隊にはモットーがあるのですよ」
「それは、どんな?」
「”勝利か名誉か”。私達が戦うと言う事はつまり、そこには勝利か、名誉しか有り得ません。率直に言いますがね、私は銀河の命運などどうでもいい。バレンティアがなくなれば困りますが、私が守ると誓ったのは全ての市民と、仲間です。相手側が自らを敵だと名乗るのならば、その意気に免じて、最期の名誉を授けるまでですよ」
堪え切れず、ハルトは大笑した。
「もっとも、手渡すのは花束でも勲章でもなく、ミサイルですがね」
「面白い、気に入った。クライス・ハルト中将、シュトゥーマ・ライオット少将。君らはバレンティア機動艦隊の宝だ。恐らく敵は、この大規模演習で何らかの反乱行為に及ぶだろう。それまでは雌伏の時だ。牙と爪を磨いておいてくれ」
「了解」
二人は、本国へと戻っていくジョン・テイラーの姿を見送りながら敬礼した。彼は、ここにいるわけにはいかなかった。
・アリオス歴一三二年 一一月八日 大型巡洋船アクトウェイ
「無茶をするなぁ、君は」
紫色の航宙服は所々が破け、美しい金髪は煤で汚れている。リガルはその有様を微かな同情と共に眺めながら、元貴族の癖に最初にシャワーを貸せと言いださない事に感銘を覚えた。どうやらそこらへんのお坊ちゃまとは違うらしい。
一度、シヴァ共和国軍に連れられてパールバティーまで戻ると、そこにはなんとか寄港していたコンプレクターの姿があった。ハンスリッヒ・フォン・シュトックハウゼンは傷付いた姿のまま通信画面に姿を現し、両船の船長は互いに戦闘の意志が無いことを確かめ合った後、あろうことかハンスは直接アクトウェイまで乗り込んできたのである。その動悸は、勿論ジュリーにあるに違いなかった。妹が無事かどうかを確かめに来たのだろう。妹思いないい男だ。
「君こそ、人のことは言えないぞ。あの船と戦って生きていること自体が奇跡だ。君も左腕を痛めているし、クルーたちだっ痣ざだらけだろう」
「少し意表を突かれてな。だが心配はないよ、キャロッサがみんな手当てしてくれた。君の方こそどうしたんだ。したたかにやられているぞ」
「これは、完全な実力不足というものだ。リガル、観念するよ。あの船と対峙しただけでも、君の船長としての器が私よりも上だと言うことは理解した。しかも敵対している筈のぼくを助けるために策を講じてくれるとは。全てにおいて完敗だよ。妹は君に預けたままの方がよさそうだ」
意外にも潔い言葉に、リガルは驚くと同時に複雑な心境になった。これは、彼が返事をするべきことではないからだ。
「ジュリー」
クルーたちが見つめる艦橋で、ジュリー・バックは彫像の様に立ちすくんでいた。つかつかと兄の元に歩み寄ると、にわかに緊張が高まる。ハンスはしばし死線をさまよわせたあと、しっかりと妹に相対した。
「ジュリエット、ぼくは――」
「それ以上はいいよ」
言いつつ、ジュリーは傍に立っていたキャロッサの手からタオルと消毒液をひったくると、繊細な手つきで丁寧にハンスの顔にこびりついている煤を拭い始めた。
驚きのあまり声も出せずにいる兄に、彼女は語り掛ける。
「兄さん、私はここで居場所を見つけました。コンプレクターももちろん、私の家だけど、ここほど居心地が良くはないの。だから、これからはジュリエット・フォン・シュトックハウゼンとしてではなく、ジュリー・バックとして、この船で生きていきたいのです」
「ジュリエット――いや、ジュリーか。大きくなったな。今更だけど、僕が君を取り返そうとしたのはね。父さんと母さんに頼まれたからなんだ」
今度はジュリーが目を丸くする。それも構わず、ハンスは愛おしそうに彼女の金髪をさらりと撫でた。
「実は、二人が余命間近になった時、一度だけ通信を受け取ったことがあった。君には伏せておいてくれという内容はね、お兄ちゃんなんだから、妹を守ってあげなさい、というものだった。その時から僕は、君を守るために、コンプレクターでいつまでも暮らせるように何でもしようと思った。僕らの家はあの惑星の小さな町じゃなくて、もうあの船の中だったからね」
「兄さん……」
「父さんと母さんは最期に綴っていたよ。お前たち兄妹をいつまでも愛していると。宇宙に出たことを怒ってはいない、むしろ、これからは帝国人の血に縛られず、自由に生きなさいと言っていた。僕は何度、君にそれを伝えようとしたかわからなかった。けれど君が船を降りて、初めて気づいた。僕が間違っていたよ。言いつけを守れなかったのは僕だった。放浪者にとって自由を奪われることは、死にも等しい。だろう、リガル船長?」
無言のまま頷くリガル。ハンスは軽く、ジュリーの頭の天辺を叩いてやった。途端に、彼女の瞳から涙が零れ落ちていく。
「今まで、本当にすまなかった、ジュリー。もし、もしこの船でも疲れてしまったら、その時はコンプレクターまで帰っておいで。連絡をくれれば、いつでも駆けつける。君は家をひとつ失ったかもしれないけれど、この宇宙に新しい家をふたつ得たんだ。偶には家出もいいだろう」
叫ぶように泣きながら、ジュリーはハンスの胸に飛び込んだ。兄は妹をなだめながら、今更ながらに瞳を潤ませる。
「ごめんなさい。ありがとう、ハンス兄さん」
「とんでもない。僕は君の兄だ」
「恥ずかしいところを見せてしまったな」
格納庫で彼が迎えに寄越させたシャトルを待っている時、ハンスが言った。リガルは首を少し傾けて、だだっ広い空間から精悍な顔つきに戻ったハンスを見やり、再び正面を見てから頷いた。
「気にするな。誰にでもそんな過去はある」
今、ここには二人しかいない。少し後方には、クルーたちに囲まれて冷やかされているジュリーがいる。アキも珍しくその輪の中に入っていて、微笑みを浮かべながら何事かを彼らと話していた。その様子を眩しそうに見つめながら、ハンスは笑い声を漏らした。
「なんだよ」
「いや。君にとって恥ずかしい過去とはどんなものなのかと思ってね」
「そんなことか。そうだな、話さないとフェアじゃない。俺はアキの事が好きなんだ」
ハンスは笑い声をあげ、親しげにリガルの肩を叩いた。痛いほどのそれに苦笑いで応えると、彼は楽しそうに語った。
「そんなこと!彼女は生体端末だから、恥ずかしいとでもいうのか、リガル。本気で彼女を愛していると?」
「そうだよ。文句あるか」
「ある訳がないさ。しかし、君も嘘が下手だな。今の顔、恥ずかしいとは微塵も思っていなかっただろう。むしろ誇ってすらいる。君がそれを恥ずかしいと思っているのは君だけだ。人工知能と恋愛をすることに、きっと常識からくる摩擦を感じているのだろうが、僕たちだって生体端末のようなものじゃないか。気にすることは無い、精々彼女を、末永く愛してやることだ」
一頻り笑い終えると、ハンスは真面目な表情に戻って話題を転じた。
「リガル。あの船についてだが。君は兄弟でもいるのか?あの男、瓜二つだった。まるで光と影だよ。宇宙が出来る時、属性がふたつに別れると同時に君達も生まれたんだ」
「そんなことを本気で考えているのか、ハンス」
「いや。ただ、本当にそれくらいの表現しか思いつかない。君の知っている人間なのか?そもそも、彼は人間なのか?」
「まあ、ありのままに伝えるとすると、きっと君も信用できない部分が出てくるだろうから……記録映像がある。アキが気を利かせて録画しておいてくれたものだ。そのコピーをコンプレクターに送るよ。君もしばらくはここに留まるだろう?」
「ああ、御厄介になるとする。それに、シヴァ共和国軍から事情聴取をされそうだ」
「聞きたいんだが、君はあの男に仲間になるよう、勧誘を受けたのではないか?」
ハンスは驚いてリガルを見た。どうやらそうらしい。
何故、ジェイスは旧帝国人ばかりを味方に付けようとするのか。そして、密かに逃れ出でたシュトックハウゼンの血筋までを把握していたのは何故か。その答えはハンスも知っていよう筈がなく、程なくしてのんびりとした警報がシャトルの到着を告げた。重々しい音が響き、第一層のエアロックが開き始めているのがわかる。
「迎えが来たようだ。リガル、今度はコンプレクターに来てくれ。船員と共に、最大限にもてなそう」
「そうさせてもらう。おい、みんな」
リガルが声をかけるまでもなく、クルーたちは和気藹々とリガルとハンスの周辺に集まり始めていた。ジュリーが進み出て、あの柔らかな物腰のまま兄へと抱き着く。
「じゃあね、兄さん。また今度」
「ああ、待ってるよ」
それからシャトルが第二エアロックを抜けて格納庫へと滑り込んでくる。格納庫の天井からつるされている巨大なドッキングアームが伸びて、そのまま一行が待っている場所まで機体を誘導して固定すると、開いたハッチへ向かってハンスは薄汚れた航宙服を意に介す素振りすら見せず、乗り込んで、そのままアクトウェイを出ていった。
その一部始終を見届けると、クルーたちはそのまま艦橋へ戻ろうと踵を返す。イーライがリガルを捕まえ、そこにセシルなどが加わるなか、ジュリーだけが格納庫に名残惜しげな顔で残っていたところへ、フィリップが肩に手を置いた。
「大丈夫か」
彼女は振り向くと、いつもの不敵な笑みを浮かべ、航宙服の懐からポケットウィスキーを取り出して景気よく煽った。呆気にとられているフィリップを見つめ、高らかに笑う。
「私は私さね。いくよ機関長。アタシらがいなきゃアクトウェイは動かない」
着崩した航宙服を翻して歩いていくジュリーの後を追いながら、フィリップは嬉しそうに笑った。
ジュリー・バックはこうでなくてはならない。自らの惚れた女が復活する様は、無条件で彼女に尽くしたいと思う男心をくすぐった。




