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23.ミランさん達

ミランさんとレイダ達


 俺は宿に戻ったあと、捕縛していた彼らを解放し先程の幻影魔法の記憶を消したあと、ミランさんたちの元へと向かった。

 昨晩、ミランさんは目を覚まさなかった。俺の『女神の涙』は傷を癒すことは出来るが、目を覚めさせることまでは出来ない。あくまで傷を癒すのみだ。

 だがだからといって不安死する必要は無い。目を覚まさないのはただ寝ているだけなのでそのうち目を覚ます。と先生は言っていた。


 そして案の定、ミランさん達を昨日預けた宿に行くとミランさんが1回の食堂でバクバクとご飯を食べていた。その宿はこの辺りでは良質な宿で価格もそこそこ高い。料理も当然美味い。


「もう大丈夫そうですね、ミランさん」

「むぐっ」


 俺が食堂に入って声を掛けると食べ物を喉につまらせそうになりながら振り返った。頬張りすぎである。口がリスみたいに膨らんでいるではないか。


「っぐっ」

「水飲んでください。どうぞ」


 胸をどんどんと叩くミランさんの手に机にあったコップに入った水を握らせる。

 ミランさんはそれを勢いよく口の中へ流し込んだ。


「っぷはぁ!! はぁはぁはぁはぁ…死ぬかと思った…」


 どうやら喉のつまりは解消されたようだ。

 助けたばかりなのに食べ物を喉に詰まらせて死なれてはたまったもんじゃない。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だよ。ありがとうね」

「いえいえ」


 俺はミランさんの目の前に腰掛ける。


「話は聞いたよ。あんたが助けてくれたんだってね」


 どうやらシュルトから事の顛末は聞いているらしい。起きたあと、シュルト達にもあっているなら安心だ。


「ミランさんにはお世話になったので」

「いやいや、冒険者協会に案内したことと命を助けられたことは等価じゃないだろう」

「そんなことないです。俺はミランさんの馬車に乗らせて貰えなかったら、いつこの都市にこれたか分からないんですから」

「ははっ。そう言ってくれて助かるよ」

 

 ミランさんは皿に乗ったステーキを一切れ口に放り込む。さすが値段が高い宿の食堂なだけある。使っている肉も上等なものそうだ。きめ細やかなさしが全体に張り巡らされている。ステーキ特有の端っこのあの油の塊も固くなさそうで、上質な油っぽい。


「いるかい?」

「…いいんですか?」


 ステーキをガン見していたのがバレたのだろう。ミランさんはフォークでステーキを刺し、俺の口元へ持ってきた。


「いいさ。命の恩人だからね」

「ありがとうございます…!」


 くれると言うなら貰っておこう。

 俺は目の前で輝く肉を食べた。口の中に旨みが広がる。油もとろりとしており、適度な甘みが広がる。それと相反するように塩味を感じさせる調味料たち。今まで食べてきた肉の中で最も美味いと言っても過言じゃないだろう。


「美味そうに食べるねぇ」

「ええ……本当に美味い…ので」


 肉をもぐもぐしながら答える。


「それにしても、あんた強いんだねぇ」

「あ、いえ、そこそこですよ」

「いやいや、あの金のジュワールをボコボコにしたそうじゃないか」

「たまたま俺の魔法が効いただけですよ」

「そうかねぇ…?」


 ミランさんは俺があまり強いとは思っていないことを察したのか、そこで話をやめた。

 実際、先生には俺は全く敵わない。先生が本気を出せば俺なんて直ぐにやられてしまう。強いとは先生のような人のことを言うのだ。



「…黒髪の杖を持った…背の低い…男の子」

「ん?」



 飲み込むのが勿体ないので、先程の肉をもぐもぐしていると机に影が落ちる。なのでそちらに目をやると、俺の事をじっとみながら白髪の女性がブツブツと何か言っていた。

 白髪と言っても老人では無い。むしろ20代くらいの外見だ。長いまつ毛と綺麗なエメラルド色の目。小さいが筋の通った鼻と赤い唇。そしてたわわに実る果実。これまで多くの男性を虜にしてきたであろう美少女がそこにいた。


「おお、マリアンヌ」

「あなたね…」

「マリアンヌ?」

「…えと?」


 マリアンヌと呼ばれたその女性はミランの方を見向きもしない。確か、シュルトさんが言っていた逃がしたパーティメンバーの名前がそんな感じだったはずだ。


「…ありがとうっ!!!!」

「うえっ!?」


 マリアンヌは俺をじっと見つめたあと、ガバッと俺に抱きついてきた。俺は座ったままで、彼女はたっている。何が言いたいかと言うと、ちょうど果実が顔の位置に聞いているのだ。

 突然現れた美少女に抱きつかれ、その胸に顔を埋める。普通なら匂いを堪能したり、柔らかさに鼻の下を伸ばしたりするのだろう。しかし、俺にはそんな余裕は無い。

 

 なぜか? 俺はこの1年間、性的なことには一切触れてこなかった。多感な時期の高校生がである。毎日毎日修行に明け暮れていた。そんな奴がいきなりそんなことをされてどうなるか。決まっている。大人しくしていた所が刺激されてギンギンだ。何がとは言わないが全てがギンギンだ。


「ふぅーっふぅーっ」

「ありがとうね! 2人を、私たちを助けてくれて…!!」


 マリアンヌは更に力を込めて抱きしめる。


 

「ふぅー!ふぅー!」


 必死に自らの野獣を抑える。でなければ俺の野獣な部分が解放されてしまいそうだ。落ち着け俺。この人はミランさんの仲間。仲間だ。そういう対象で見るのは良くない…!


「こら、マリアンヌ。それくらいで離してやんな」

「えっ?」

「京太郎の顔が真っ赤じゃないか。息苦しいんだろうさ」

「あっ、ご、ごめんなさいね?」


 マリアンヌは俺を解放し、謝る。

 だがその謝る距離も異様に近い。目の前にある綺麗な顔は困り眉になっていた。

 やめて欲しい。必死に我慢しているのに、それ以上近づかないで欲しい。


「マリアンヌ。彼が困ってるじゃないか」

「シュルト。私は感謝を伝えていただけよ?」

「だからといって抱きつくんじゃない。危うく彼は窒息するところだったぞ」

「まぁまぁ、いいじゃないかシュルト。マリアンヌだって悪気があるわけじゃないんだし。な? マリアンヌ」

「そ、そうよ。悪気なんてないわ…」


 続々とミランさんたちの仲間が集まってくる。魔法使いのシュルトさん。斧使いのルードさん。ルードさんはマリアンヌさんの治療を受けたそうでピンピンしていた。シュルトさんが言うには腹を貫かれたそうだが、無事なようで何よりだ。


「京太郎。昨日も言ったが、本当にありがとう」

「シュルトから聞いたぜ。助けてくれたんだってな。感謝してもしきれない。ありがとう」


 シュルトさんとルードさんまでも俺に頭を下げてくる。ここまで大仰に感謝されては恥ずかしくなってくるばかりだ。


「あ、頭をあげてください。元はと言えば俺のせいですから…」


 シュルトさんからはなぜ、あの場所で戦っていなのか等を全て聞いていた。俺が死んだとされていて、仇をとるためにミランさん達は討伐に赴いたそうだ。そこで金のスライムが合体したと言っていた。だとすればとんだマッチポンプである。


「いや、それでもだ。助けられたのは事実だ」

「ま、まぁとりあえず座りましょう?」


 俺は立ったままの3人に椅子を差し出す。

 3人はその椅子に座り、円卓を囲んだ。


「そういえばあんた、そんなに強いならなんで死んだなんて思われていたんだい?」

「ああ、それは油断してまして。簡易的な防護魔法しかはれなくて、遠くまで飛ばされちゃってたんです」

「あ〜なるほどねぇ」

「それであの子たちは死んだと思ったのか」

「多分昨日のシュルトさんの話を聞く限りそうじゃないかと」

「なら、早くあの子らにも顔見せた方がいいんじゃないかい?」


 ミランさんが唐突にそういった。

 レイダ達はどうやら俺が死んだと思って随分と責任を感じているらしい。まぁ、責任感強そうだからそんな感じはする。


「そう…ですね。そういえばあの3人には帰って会ってないですし」

「ああ、そうしてやんな」

「え、京太郎くんもう行っちゃうの?」

「まぁマリアンヌ。また別の機会に飲めばいいじゃないか」


 席を立とうとしたら隣にいたマリアンヌさんが俺の袖をちょいちょいと引っ張った。ぬぅ。

 そんなマリアンヌさんにルードは優しく言いながら肩をポンポンと叩く。


「誘ってくれたらいきますよ。酒は飲めるか分かりませんが」


 俺はそう言って返しておく。未成年なので酒なんて飲んだことない。だから飲めるかどうかも分からない。が、行けることなら行きたい。


「ああ、また誘うよ。京太郎」

「はい、ありがとうございます」

「いやいや、こっちこそだよ。じゃあまた後でな」

「はい。また」


 ミランさんはヒラヒラと手を振る。そのほかのメンバーも手を振りながら笑顔だ。

 ペコペコと頭を下げながらおれは食堂を出た。

 ミランさんたちの容態を見に来ただけだったのだが、全く問題なさそうだ。




  

 

 

 

 

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