22.将軍のところへ!
先生との修行の時に教えられた旅の注意点の内の1つ。
自身が寝る場所には幻影の魔法と探知の魔法をかけてから寝ること。幻影の魔法で自分の寝ている位置を誤魔化し、探知の魔法で相手の位置を把握する。そうすれば襲撃者を背後から討てる。さらに、自分の姿を消す魔法を使って襲撃してくるものもいるため、不可視の敵を可視化する魔法も教えてもらった。
まさか、その教えが旅を初めてこんなにも早く役立つとは。
「で、何者ですか」
俺の目の前には体に張り付くような黒い装束に身を包み、目元だけを見せている人間がいた。体つきからして女なのは間違いない。
「……」
「だんまりですか」
女はこちらを警戒してか、一切口を開かない。彼女は何をしにここに来たのか。もし俺を殺しに来たのなら逃す訳にはいかない。たが、誰かから刺客を差し向けられるようなことをした覚えはなかった。
「何が目的ですか」
「……」
彼女は黙秘している。
まぁ刺客の口が軽かったらその方がやばい。
「殺しですか?」
「……」
自分を殺しに来たのかという問いに少しだけ彼女は反応を見せた。俺から一切目を逸らさず僅かに首を横に振った。
敵意はないと言うことを示す為だろうか。
殺しに来た訳ではないとすると、何をしに来た? わざわざ俺の所へ来たということはやはり、俺に用があったのだろう。殺し以外で人を派遣するとすれば……情報収集か。
問題は俺の情報を集めに来たことだ。つまり、俺の情報が誰かから誰かに伝わり、こいつの主まで伝わった。まぁ別に情報を隠しているとかないからいいんだが。
だが、今の俺は若干機嫌が悪い。ミランさんたちを助けてこの都市に着いたのが1時間くらい前だ。もはや明け方に近い時間帯で飯屋なんてどこもやってない。なので仕方なく寝ることにしたのに、このわけがわからないやつに起こされた。
「で、あなたはこれからどうするんですか?」
「……」
「まぁ逃げるでしょうね」
「……」
女は先程から俺への注意を払いながらも部屋の中を確認している。幻影魔法によりズレた窓、入口。逃げるために必要な情報を集めているのだ。
「…まぁ今はいいでしょう。俺も眠いので寝ます」
「…」
その一言で逃げることを許されたと判断した女は安堵したように見えた。
仮にも刺客であるのにこんなにも感情が分かりやすくていいのか…? 別に逃げていいという意味じゃないのだが。
「『微睡みの霧』」
杖を振り、魔法を発動させる。
霧の発生した範囲にいる者を眠らせる魔法だ。
「あなたも一緒に寝るんですよ」
「…!」
咄嗟に逃げようとしたがそれは叶わず、その場にバタリと倒れた。
「『水牢』」
先におきられて逃げられても面倒なので水の鎖を巻き付け、固定した。そして幻影魔法をかけ直し、俺はベッドに入り目を閉じた。安眠の時間だ…!
※※※
日は高く登り、時間は昼を回っている。
城内ではいつも仕事に追われている官僚達が昼食を取りながらひと時の休息を楽しんでいた。
そんな中、軍の最高指揮者である将軍の部屋で将軍は怪訝な顔をしながら書類に目を通していた。
将軍以外には誰もいない。
「閣下」
部屋にできた僅かな影から長年自分に仕えてきた老人の声がする。
「なんだ」
「今朝の件で少々厄介な事態になっているようです」
今朝の件。間違いなく竹中京太郎を探せという命令のことだ。
将軍は書類にサインする手を、止めて影の方へ振り向いた。それを合図に影から白髪の老人が姿を現す。髪を後ろで結び、黒の燕尾服に身を包んでいた。
将軍の情報収集部隊。通称「影」と呼ばれるもの達の長だった。影は同じ一族で構成されており、将軍が幼い頃に見出したもの達だった。
「厄介なことだと?」
「はい。彼の者の居場所は判明しました」
「なるほど。ならば何も問題ないではないか」
将軍が出した命令は探して居場所を突き止めろと言うだけだ。それが完了しているのならばなんら問題はない。
「いえ、問題は判明の仕方です」
「? 宿を探し、見つけたのだろう?」
「彼の者の居場所がわかったのは、1つの宿に調査に行った者が戻らないからです」
「なに?」
影たちは構成される人員全員がレベル70を超えている。そして戦闘力はもちろんのこと、彼らは逃走力にも重きを置いていた。情報を集めるものが敵に捕まり、逆に情報源になるなどあってはならないからだ。
そんなヤツらが戻ってこないと言うのは将軍からすればおかしなことだった。
「戻ってこないのは1人か」
「いえ、最初の1人が戻ってこなかったので数人を追加で送り込みました。しかし、全員、戻ってきません」
「なるほど。お前たちにそんなことができるのはその竹中京太郎しか居ないと判断したわけか」
「はい。信じ難いですが、『月影』よりも強者であるという彼なら可能でもおかしくありません」
将軍は眉間にいくつもの皺をつくり、顔を顰めた。
戻ってこないということは、捕縛されたか殺されたか。となれば自分に行き着く可能性は高い。彼らは情報を絶対に自分から吐くことはないと確信しているが、無理やり吐かせる方法がない訳では無い。そういった魔法への耐性は訓練により付けられているはずだが、相手は強力な魔法使いだ。何が起こるか分からない。
「爺。居場所が分かったならいい。これ以上その宿へは近づくな。既に宿及び周辺を警戒されている可能性が高い。見張りも要らない。直ぐに戻せ」
「御意」
居場所が分かったのなら直ぐに向かった方がいい。自分にたどり着いて、それから会うよりは多少は悪感情は薄れるだろう。最悪なのはその者と対立してしまうこと。あれほどまでの強者が敵対すれば面倒なことになる。
「爺。その宿に案内しろ」
「はっ」
今すぐ向かうべく、将軍はマントを羽織った。
だが、直後。その必要はなくなってしまう。
ガチャリっとドアが空く。
この場内にノックもなく将軍のドアを開ける者はそういない。王、王妃、王太子などの王族のものたち。または大公などの絶大な権力者。
しかし、姿を見せたのはその誰でもなかった。
「こんにちは。失礼します」
入ってきたのは杖を携えた黒髪の青年だった。




