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女友達の相談には、頷くだけがベスト

お久しぶりです。

本作で挑戦していた公募に落ちたので、再起動いたします。

と、いうワケで今度は人間世界?メインの三章です。

もちろんこの章にもカッパ出ますので、どうぞよろしくお願い致します!

 少しだけしか離れていなかったというのに、車窓の外を流れて行く街並みを懐かしい気分で眺め、うーたんと待ち合わせに決めた駅(あの占い師と出会った駅だ)で電車を降りた。

 大きな駅だから、人が多い。人しかいない。皆服を着ている。

 私は何故だか浦島太郎みたいな気持ちで、少ない荷物を抱えて改札を出ると、飲み屋に向った。

 なんだか馴染み無い場所にいる様な感じがして、人ごみの中にいるのが嫌だった。

 まだ五時前だったので、飲み屋の引き戸には『準備中』の札が掛かっていた。なので余計に心細くなる。


 うーたんの仕事終わりは小一時間先だろう。

 もしかしたらパワハラ上司に残業を命じられるかもしれない。

 うーたんはアレで中々、断れないオンナなのだ。

 もしもの時はうーたんの親戚を装って、うーたんの会社に訃報を入れなくてはいけないな、と、心でスタンバった。

 この『訃報計画』の打ち合わせは三年前から綿密に行われ、年を追うごとに増す演技力と応用力は大変満足できるものだった。ただ、我々は善良なチキンなので『訃報計画』を実行した事はついぞ無かった。


 うーたんは家族大好きッ子なので、もしもこの計画を実行する際は『家族のだれ一人、決して殺してはくれるな』とお願いしてきた。うーたんは良い子。

 但し、兄嫁は別だそうだ。

 うーたんはブラコンなのだった。

 私は兄嫁殺害に反対した。

 兄嫁じゃパンチが緩くないか、それに死んだと来れば葬式だ。架空の葬式に出席しなければいけなくなる。

 アニヨメの架空葬式。語感がなんか怖いのは私だけだろうか。


『殺さなくても、妹尾家みたいに親が急きょ入院で良くない?』


 という私の問いに、うーたんは瞳を仄暗くさせて


『うち、ブラックだからさ……「死」って単語入らないと無理かも』


 と、囁く様に言ったので、兄嫁に死んでもらうしかなくなった。


 出来れば実行に移したくない作戦だ。

 うーたんの仕事が早く終わりますように。

 私はそう願いながら、スマートフォンの画像フォルダを開き、カパ郎の写真を眺めた。

 文明最先端に囲まれた駅構内で、小さな画面の中のカパ郎は物凄く非現実的だ。

 でもまぁ、私のカレシなんて存在は非現実的に違いないし、妄想じゃないだけありがたく思おう。

 それにしても、イケメンよのぅ……。このくちばし具合がまた、良いんだよね……。

 うーたんに自慢したい。

 けれど、きっと、うーたんはカパ郎のくちばし具合の良さを分かってくれないだろう。

 これは友達にすら言えない恋だ。

 言えないというか、信じて貰えない。

 とても素敵な(カッパ)で、実在してるんだケドな……。

 本当に色々考えなきゃなきゃな。


 帰宅者で込み始めた駅の雑踏の中、私は気を引き締める。

 カパ郎の生きる世界と私の生きる世界の違いを感じて、気後れしている場合じゃ無いのだ。


 

 うーたんは思ったよりも早くやって来た。

 誰とも目を合わさずに帰って来たそうだ。

 それだけ、うーたんにとって一大事なんだろう。

 内容的に私もドキドキだ。

 多分いいアドバイスは出来ない自信がある。

 友達と宗教の話なんて、尊重はするけど出来れば避けたい。

 まぁ、ハマっているのはうーたんじゃないから、それ程警戒する必要もないかもしれないけれど……。


 久々に再会したうーたんはちょっと綺麗になっていた。

 恋をすると綺麗になるとは、紛れもない事実なんだ。

 自信が付いたり、身だしなみに気を使う様になったり、ホルモンがなんかいい感じに分泌されたりと理由は色々あるだろうけれど、私達はそういう風に出来ているのだ。

 出来ればそういう影響は独り身の時こそウエルカムなんだけど。

 得た者がもっと得て行く法則、不公平だと思う。

 世の中、うまい事上手くいかないように出来てるに違いない。

 そんなん、誰だって神様が欲しくなるよ。

 神様は本当に商売上手だ。

 

 なんかちょっとキレイになったね、と、冗談交じりにうーたんに言うと、うーたんははにかんで私を上目遣いで見た。

 どこかのスラム街でやったら、喧嘩の華が咲き乱れそうな見事な『ガン飛ばし』にしか見えないけれど、こういうのが好きな人もいるんだろう、と、自分に言い聞かせ微笑んだ。

 うーたんは今傷心なんだから……。


「リンリンは、なんか野生児みたいになったね」

「お、おう……ずっと山にいたんだ。気に入ってさぁ」

「日焼けヤバくない?」

「お、おう……川で泳ぐと日焼け止め落ちちゃうんだ」

「ギャハハ、川で泳ぐとか!」

「え、えへえへ……気持ち良かったよ……」

「髪パッサパサじゃん!」

「お、おう……」


 おかしい。私だって恋をしているのに……。

 カッパとの恋だと『恋すると~』説は無効なのか。

 私は山から降りて来た野生児と化しているらしかった。

 確かに、山や川でカパ郎と直射日光をモロに浴びて遊び呆けたし、シャンプーやトリートメントをケチケチ使ったし、服だって着飾る概念のない空間だったし……比べて、仕事帰りの恋するうーたんはキメキメだ。

 一旦アパートに帰ってオシャレして来れば良かった……。


「明日美容院いく。一番高い事してもらう」

「それが良いよ」

「それより、カレシ大丈夫なの?」


 これ以上けなされたく無くて、話題を変えるとうーたんはみるみる萎んでしまった。


「大丈夫じゃない。付き合っていきなり実家にお呼ばれした時に気付くべきだった」

「うーん、確かに付き合って浅いのに、里帰りに連れて行くって急かも」


 舞い上がったうーたんと、羨ましさしかなかった私は、唐突なうーたんカレシの誘いを、疑問に思わなかったのだ。

 あまり団体行動は好きじゃないけれど、呑み友達をもう一人くらい増やして冷静な意見を言ってもらうべきだな、と、私とうーたんは頷き合う。二人で気を付ける気は更々無いのだった。

 

「で、六芒星のペンダントはどうするの?」

「それがマズイ事になって来てるんだよ」

「か、買わないなら別れる……とか!?」

「その方がこっちも諦めがつくよ」


 うーたんはそう言ってため息を吐くと、


「カレシの両親がプレゼントしてくれるって言うんだ……」

「……え……重……」

「家族も同然だからって……」

「うーたんが前欲しがってた、ティファニーのペンダントに変えてもらえないの?」


 駄目で元々、言ってみる。

 呪術的デザインではなく、ファッションの為のデザインペンダントなら、うーたんだってここまでげっそりした顔をしないだろう。 

 プレゼントは気持ちだけど、喜びを伴わなせてナンボだと思う。


 うーたんは厳かに首を振る。


「もう購入済みなんだって。さっきカレシからウキウキのメッセージが来た。泣いて喜ぶと思い込んでる系の文章ムカつく」

「購入済み。お支払い済み」

「そう……逃げられん」

「うーん……十万……」

「いざとなったら出せんでもないけど、いざとなった時失うものが金銭的に増えて戸惑っている」


 と、頭を抱えて、うーたん。

 彼女はそのまま机に突っ伏してしまった。

 

「もしカレシと別れる事になったら、カレシとセットで金も飛んで行くなんて、これは呪いか?」

「そ、素材が金かも……!! 金なら売ればちょっと返ってくると思うよ」


 悪質なフォローをするしかない私の言葉に、うーたんは「ふん」と鼻を鳴らした。


「青銅って言ってた」

「せ、青銅……?」

「レトロなペンダントしてるな~とは思ってたんだよ」

「うーたん、悪い事は言わないから、要らないなら要らないってハッキリ言うべきだよ」

「でも……私の為に買っちゃってるんだよ」

 

 『凄く要らない』という顔をして、うーたんが苦し気に呻いた。


「でも、こちらから頼んだワケじゃないし、そういうの戸惑うって想像出来ない人物と関わるのはキツいよ」


 私がそういうと、うーたんは何故かキッと顔を上げた。


「凄く良い人ではあるよ」

「でも、うーたんを困らせてるの気付いてないよね……」

「善意だと思ってるだけだよ、愛情なの!」

「でも、じゃあ、六芒星のペンダントの宗教に入信するの?」

「そ……そういうのはゆっくりで良いって言ってた……」


 うーたんはごにょごにょ言って、焼酎をグッと飲み干した。

 

「私が……受け入れてくれると信じてるんだ……」

「宗教は、うーたんが良いなら良いけど明らかに抵抗持ってるでしょ」


 如何にも怪しいし、と、私がポロっと付け足すと、うーたんが眉を潜めた。


「でも、メシア君にとっては信じる大事なモノなんだよ」

「メ、メシア……?」


 うーたんカレシ、凄い名前だった。

 でもそれよりも、なんか雰囲気の雲行きが怪しい。

 うーたん、なんか私に怒ってるような気がして来た。

 私はうーたんの為にって、言っているんだけど……。


「ふ、深みに嵌っちゃうよ……?」

「……」

「うーたん?」

「ごめん、やっぱり一人で考える」


 うーたんは財布を取り出し、会計に表記してある金額に足りるお札を出してテーブルに置くと、立ち上がった。


「うーたん……いいよ、割り勘で……じゃなくて、もう少し話そう? 悪く言っちゃったみたいでゴメン」


 そう言ってうーたんを見上げると、怒っているのに泣き出しそうな、凄く寂しそうな、そんな顔をしてうーたんは私に首を振った。


「リンリンにはきっと理解できない」

「うーたん……!」

「ごめん、帰る」

「わ、私も……」

「まだ軟骨の唐揚げ来てないでしょ」


 軟骨の唐揚げの話題で、こんなに胸がヒヤッと来たのは初めてだった。

 軟骨の唐揚げで「一人にして」と伝えられた私は、椅子から立ち上がる事が出来なくなった。


「うん……ごめん……あの、またね?」


 うーたんは頷いて、ふらふらと店を出て行ってしまった。

 残されてしゅんとする私の元へ、程なくして揚げたてホカホカの軟骨の唐揚げが到着したのだけれど、軟骨を噛み砕く力すら出ない様な気がして、結局食べずに店を出た。


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