気になるところ
ポチャマッチョは、話し終えると「そういうこっちゃ」というドヤ顔をして私に一つ頷いた。
『ほほぅ、それはそれは』みたいな反応を求めている様子だけど、話の大筋と関係ない不純物のインパクトが大き過ぎてあまり集中出来なかったのが私の感想であった。
えらく乳首の形状に拘るではないか、とか、女顔カッパの名前出しちゃってるけど良かった!? とか、『カピャ鳴き』って何? とか、一々思考を止めてしまうのは、あまり上手い話し方では無いよね。
でも、大体わかったよ。
カパ千代はどうしようもないカッパ。
もうそれで良いよね?
だったらもう、分かってるよ……。
カパ郎のヴァージンを狙ったのは許しがたいけど、それを機にカパ郎が偉丈夫に鍛え上がったのは喜ばしい事だし……?
若干良いのかそれでって心の声がするけれど、もう面倒臭いです。
今日は何の日だった?
お祭りデートの日だよおおおおおおおおっ!!
ああもうっ! あああっ!! ぶち壊れ!! ぶち壊され過ぎ!!
ああああ!!
ああーーーーっ!!
『今日は何の日?』という自身の問いかけに、発狂しそうになっていると、シンと大人しくなったカパ千代を肩に担いだカパ郎がポチャと私に近寄って来た。
「りおなに余計な事を喋るでないのじゃ!!」
そ、そうだよね。掘られそうになった黒歴史なんて公開されたくないよね。可愛そうなカパ郎。
ポチャは「ウエヘヘ」とオッサンみたいに笑った。全然反省していない。
「まったく……」
「酷いのじゃ! ナハーの名前!!」
呆れているカパ郎の横で、女顔カッパがちょっと半泣きでポチャに抗議している。
「だ、大丈夫だよカパ斗。悪さしなきゃ悪用しないから!」
私がカパ斗を安心させる為にそう言うと、カパ斗はビクッとして「ひぎゃ」と小さく声を漏らした。
「人間に初めて名前を呼ばれたのじゃ」
「初めギクッとするけど、慣れるのじゃ」
完全に私を舐め切っているカパ彦が、カパ斗にアドバイスめいた言葉をかけている。
「ギクッ」とするんだ……。カパ郎も初め超ビビってたもんね。
カパ郎は私にちょっと済まなそうな顔をして、
「りおな、ちみっと待っとって欲しいのじゃ。コヤツを川に捨てて来るからの」
「あ、う、うん。しっかり流さないとね?」
「任せるのじゃ。サンショウウオらぁにずっと遠くまで引っ張らせるからの!」
サンショウウオ……?
まぁいいや。お友達なんだね、きっと。
それにしても……さっきから置いてきぼりばっかじゃないか……。
なんなの、カッパ……。
里緒奈は結構不満がたまって来ましたよ……。
「……まってるね……」
私が寂しそうにそう言うと、カパ郎も悲しそうな顔をした。
「せっかくの祭りに、巻き込んですまんのじゃ。すぐ帰るからの」
「……うん」
「そんな顔するでないのじゃ……」
しんみりモードの私とカパ郎に、今まで静かに成り行きを見守っていた芋アナがそっと近寄り、私の肩に手を置いた。
芋アナは男ッパイを晒したままだったので、どのカッパも初めから男と認識してスルーしていたに違いないし、今も完全に眼中に無い様子だ。
もしかしたら、カッパは女の子しか見えないのか? と疑いたくなる程のスルーっぷりだった。
カパ郎もカパ千代に神経を集中していたので、今初めて芋アナに気が付いた、という様に彼女(彼?)を見た。
そして、私の肩に置かれた彼女(彼?)の手に、少し険しく目を細めた。
なんとなく焦って、私はカパ郎に芋アナを紹介する。
「ほ、ほら、カパ郎、芋野アナだよ! 会いたがってたでしょ?」
「……芋野さんはオナゴじゃったハズじゃ」
カパ郎の目が「なんじゃコイツ」と言っている。
カパ郎は焼きもち焼きだ。対象が私だと言う事が、未だに信じられないけれど、なんかそんな感じになって来た。
だというのに、芋アナは微笑んで、
「そうですよねー。良く似てるって言われるんですけど」
と、流暢な標準語で言って、アハハ、と笑った。
ええ~!?
そんな馬鹿な!!
だって……だって貴方は芋アナ……え?
ち、違うの? イヤイヤ……?
私が「どうした芋アナ、余計話がこんがらがるから止めとくれ」と、混乱していると、芋アナがチラッと私に困った様な、何か懇願する様な顔を見せた。
あ! そうか! 芋アナ、男ってバレたくないんだな。
そうだよね。テレビには完全に女の子で出演してるんだから。
「あ、そ、そうそう! 芋野アナのそっくりさんなんだ……?」
これでいいでしょうか? と、芋アナをチラリと横目で見ると、芋アナは満足気にカパ郎に微笑んで、ペコリと頭を下げた。
「ですです。初めまして~」
あ、やっぱりバレたくないんだ……あっぶね!!
共に戦った戦友の秘密を世間に公開するところだった!!
カパ郎はなんだか、面白くなさそうだ。
『俺のいない間になんじゃ……』とでも言いたそうだけど、置いて行ったのはカパ郎だからね!!
「変態カッパから守ってくれたんだよ!」
『置いて行ったのはカパ郎だからね!』と思いつつ、場の改善に勤しむ里緒奈は、何時か報われる時が来ますか……。
「おお、そりゃあ……りおなが世話になったのじゃ」
うんうん、と私は深く頷いた。
お世話にかなりなりましたとも!
「いぃえ~! りおなさんが一緒に戦ってくれたからですよ。ね! りおなさん」
芋アナはそう言って、再び私の肩にポンと手を置いた。
うんうん、凄い戦いだったよね、と私が戦友へ「へへへ」と笑いかけた時、カパ郎が私の手を引いて、自分の方へ引き寄せた。
「俺がいるから、もう大丈夫なのじゃ」
アレ? と言って、芋アナがカパ郎の顔を覗き込んだ。
「でもぉ、これからまたどこかへ行かれるんですよね?」
「そ、そうじゃ」
芋アナの質問に、カパ郎はソワソワ答えた。
「ふぅん」と頷いて、今度は芋アナが私の手を引いた。
「じゃあ、それまでりおなさんは僕といましょうね!」
あ、それならカパ郎を待つのも寂しくない。芋アナとさっきの戦いの話をツマミに楽しめそう。
私はそう思ったのだけど、カパ郎が非常に面白くなさそうな顔をしているのにビックリした。
「……カパ郎?」
「駄目じゃ!!」
カパ郎はそう言って、カーテンでぐるぐる巻きのカパ千代をぺいっとポチャマッチョの方へ放り投げた。
「な、なんじゃカパ郎」
「カッパ流し、お主に頼むのじゃ」
「カパ郎は行かんのか?」
「行かんのじゃ。りおなとおるのじゃ!」
くふふ、と、カパ斗が笑った。
「焼きもち焼きじゃ~」
芋アナも、ふふ、と笑って、私の肩をドーンと叩いた。
「ホントだね。りおなさん、良いカレシさんだね」
い、芋アナ……!!
アンタ……アンタまさか……!!
私は「くうっ」と芋アナに醜い感動顔を晒し、コクンと深く頷いた。
アンタ……イケメンな女だよ……!!
微笑み返してくれた芋アナの表情が、少し寂しそうだったのが気になったけれど……。
けれど、直ぐにいつもの芋アナスマイルになったので、その時私は、感謝の気持ちしか抱かなかったんだ。




